現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第11話:再会の影と再出発の光

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ある日、龍児が勤務する風俗店に、新人として一人の女性が入社した。名前は三夜沢麗みよさわ うらら、年齢は二十五歳。彼女の姿を見た瞬間、龍児はすぐに気づいた。——現川村うつつがわむらで大人の関係になった、あの麗だと。

かつての面影を残しつつも、どこか疲れたような表情を浮かべていた麗。彼女は龍児のことには気づいていないようだった。年月が経ち、龍児の顔つきも変わっていたのだろう。いや彼はあの時の顔になるべく似せないように魔術を使い名乗ることなく、静かに彼女の様子を見守ることにした。

麗は、大学を卒業後に銀行に就職していたが、ある事情で退職を余儀なくされ、生活の立て直しのためにこの仕事を選んだのだという。詳細は語られなかったが、彼女の背中には、何か大きな過去を背負っているような重さがあった。

入社後、支配人による接客研修が始まった。支配人は常々、「商品(お姉さん方)には手を出すな」と男性スタッフに厳しく言っており、教育もあくまで接客マナーや言葉遣い、立ち居振る舞いに関するものだった。龍児はその様子を見ながら、「男性がするのではなく、女性の教育担当を置いた方が、もっと安心して学べるのでは」と思い、手帳にその考えを記していた。

麗は接客に入るようになると、時折、客との距離感に戸惑っているようだった。自分の感情が先走ってしまい、客の反応と噛み合わないこともあった。支配人のもとには、好意的な声もあれば、戸惑いを訴える客の声が届くようになった。

ある日、客足が少ない時間帯に、麗が龍児を呼び止めた。「少し、話せる?」と。控室で二人きりになった麗は、ぽつりぽつりと自分の過去を語り始めた。大学時代のこと、社会に出てから就職先の銀行の金を使い込んでしまい退職したこと、その金はホストクラブにつぎ込んでしまったこと。そして今の自分がどれほど不安定で、自信を失っているか。

龍児は、ただ静かに耳を傾けた。彼女の言葉の一つ一つに、過去の記憶が重なっていく。だが、彼はあえて名乗らなかった。今の彼女にとって必要なのは、過去の恋人ではなく、今の自分を受け止めてくれる誰かだったからだ。

「また話してもいい?」と麗が言ったとき、龍児は「もちろん」とだけ答えた。彼女の心が少しでも軽くなるなら、それでいいと思った。

龍児は、他のスタッフたちとの関係も良好だったが、麗に対しては特別な距離を保っていた。彼女の心が揺れている今、誰かに依存させるような関わり方はしたくなかった。彼は、彼女が自分の足で立ち直る日を信じていたし、魔術ではその日が来ることも見通していた。
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