現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第19話:ツケの重みとママの誇り

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外国人クラブで働くようになってから、龍児はこの業界の独特な仕組みを少しずつ理解するようになっていた。中でも驚いたのは、客の多くが現金払いを避け、月単位の後払い、いわゆる「ツケ」でサービスを利用することが常態化しているという点だった。

ママの店でも、年間で五十万円ほどの未回収金が発生しているという。昭和四十年当時の金額としてはかなりの損失だが、業界ではこれも「経費」として割り切る風潮があるらしい。龍児はその話を聞いて、「商売って、こういうリスクも背負っているんだな」と思った。

店の従業員であるお姉さん方には、そうした状況を踏まえたノルマが課されている。指名数だけでなく、ツケの回収も含まれているのだ。ママの店では、月に十人の指名客を確保することが基準とされていた。業界全体で見れば厳しすぎる数字ではないが、月によっては達成が難しく、途中で諦めてしまうお姉さんも少なくないという。

このノルマを達成できなければ、時給が大幅に下がるため、毎月のプレッシャーは相当なものだ。ママは「私も若い頃は、毎月必死だったのよ」と語っていた。彼女が今のポジションに就いているのは、そうした努力の積み重ねがあったからこそだ。社長からの信頼も厚く、店を任されているのもその実績ゆえだった。

ノルマの厳しさは時期にも左右される。年末年始や三月、九月といった決算期は客が忙しく、来店が難しくなる。そんな時期に十人の指名客を確保するのは至難の業で、お姉さん方は頭を悩ませることになる。

毎月二十日を過ぎる頃から、店内の雰囲気は徐々に変わってくる。お姉さんたちはそわそわし始め、手元のメモ帳やスケジュール帳を見返しては、営業の電話をかける姿が目立つようになる。常連客の予定を確認し、来店を促すための連絡が頻繁に行われる。店全体が活気づく一方で、忙しさと焦りが入り混じった独特の空気が漂うのだ。

ママは、「うちは他のクラブよりも、お姉さん方が客と深い関係を築いているから、営業は比較的スムーズなのよ」と教えてくれた。もちろん、表立っては言えないような関係もあるが、それもまたこの業界の現実なのだろう。

ただ、ママ自身には今、特定の顧客はいないという。昔は自ら指名客を持ち、毎晩のように接客に奔走していたが、今は若いお姉さんたちがその役割を担っている。ママは、彼女たちの代わりに指名客の管理をし、店全体を支える重要な役割を果たしていた。

それでも、ママは時折遠い目をしながら、昔の話をしてくれることがある。指名を取るために奔走した日々、ツケを取り立てるために客先を訪れた夜。そうした経験が、今の彼女を支えているのだ。

「龍ちゃんがいてくれると、昔を思い出すのよ」とママは言った。指名客がいない今、龍児の存在が彼女にとっての心の支えになっているのかもしれない。龍児はその言葉に、何も言わず、ただ静かに頷いた。
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