現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第22話:夜更けの洋食と静かな気配

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ある晩、仕事を終えた龍児にママが声をかけてきた。「龍ちゃん、今日はちょっと美味しいもの食べに行こうか」。連れて行ってくれたのは、ガード下をくぐった先、大崎橋の手前にある「京浜ベーカリー」という老舗の洋食屋だった。

「ここ、昔から通ってるのよ」とママは言いながら、慣れた様子で店に入っていった。店内は落ち着いた雰囲気で、夜中にもかかわらず、常連客らしき人々が静かに食事を楽しんでいた。

龍児はオレンジジュース、ママは赤ワインを注文した。ママは「夜中だけど、しっかり食べなきゃね」と言って、龍児にはハンバーグとサラダ、ライスのセットを頼んでくれた。自分はフィレステーキを注文し、その半分を龍児の皿に分けてくれた。

「お子さんですか?」と店長に訊かれたママは、「うん、そんな感じ」と笑って答えた。その笑顔には、どこか母性と照れが混じっていた。龍児はそのやり取りを聞きながら、「ママにとって、自分は息子のような存在なのかもしれない」と思った。

食事を終えた帰り道、ママは「今日はうちに寄っていかない?」と声をかけてきた。龍児は少し迷ったが、断る理由もなく、静かに頷いた。

マンションに着くと、ママは「お茶でも飲んでいこう」と言って、部屋に招き入れてくれた。部屋の中は落ち着いた照明で、ワインの余韻が残るような静けさがあった。ママはソファに腰を下ろし、「龍ちゃん、こうして誰かとご飯を食べて、少し話すだけで、心が軽くなるのよ」とぽつりと呟いた。

龍児はその言葉に、何も返さず、ただ静かに頷いた。ママの言葉の奥には、長年この業界で働いてきた女性の孤独や疲れが滲んでいた。

その夜、龍児はママの部屋で少しだけ仮眠をとり、朝方に目を覚ました。ママが「そろそろ帰らないとね」と声をかけてくれたので、龍児は身支度を整えてマンションの管理人室へと戻った。

部屋に戻ると、内線電話が鳴った。社長の奥様からだった。「昨夜はどこかに泊まったの?」と訊かれた龍児は、一瞬戸惑いながらも、「はい、実家に泊まりました」と答えた。嘘をついたことに胸がざわついたが、奥様の声はそれ以上追及することなく、静かに電話は切れた。

受話器を置いた龍児は、ふと窓の外を見た。朝の光が差し込み始めていた。人との関係は、時に温かく、時に複雑だ。けれど、その中で自分がどうあるべきかを、少しずつ学んでいる気がした。
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