現（うつつ）の夢

第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第33話：遊び方に品格がある人

夜の街で働くようになってから、龍児は客の振る舞いによって店の空気が大きく変わることを何度も目にしてきた。お姉さん方やスタッフに好かれる客には、ある共通点がある。それは「お金の使い方がキレイで、誰に対しても紳士的であること」だった。

「お金の使い方がキレイ」とは、ただ高額を使うという意味ではない。自分の稼いだお金を、感謝と敬意を込めて使う人のことだ。そういう客が来店すると、ママも自然と笑顔が増え、店全体が穏やかな雰囲気に包まれる。

ただし、同じようにお金を使う客にも二種類がいる。ひとつは、自分の汗水たらして稼いだお金を使う人。もうひとつは、会社の経費として領収書を持ち込み、店外デートの費用まで「接待費」として処理しようとする人だ。

後者の客は、「俺がこの店で一番金を落としている」と豪語しがちで、態度も横柄になりやすい。お姉さん方に対しても、スタッフに対しても、どこか見下したような言動が目立つ。龍児や調理のオバサンにまで威張る姿を見て、龍児は「他人のお金だからこそ、湯水のように使えるのかもしれない」と感じていた。

一方、前者の客は誰に対しても態度を変えず、過剰なサービスを求めることもない。龍児は、そうした客のタバコの銘柄を覚えておき、レジの下に常備していた。タバコが切れた時にすぐに差し出せるようにするのが、龍児にできるささやかな気配りだった。

そのような客は、会社員であれば出世が早く、経営者であれば業績が伸びていく傾向があるように見えた。龍児は「神様は、男性が女性と遊ぶ時の振る舞いまで見ているのかもしれない」と思った。遊び方に品格がある人は、人生そのものにも品格が宿るのだろう。

もちろん、残念な客もいる。「高い金を払ってるんだから、しっかり楽しませてもらうよ」と言って、お姉さんの体に触れたり、スカートをめくったりするような人だ。そうした行為は、店の雰囲気を壊すだけでなく、お姉さん方の心にも傷を残す。マナーと節度を欠いた振る舞いは、どれだけお金を使っても評価されることはない。

龍児は、夜の街で楽しく遊べる人とは、相手への敬意を忘れず、場の空気を大切にできる人だと感じていた。お金の使い方がキレイで、誰に対しても優しく、威張らない——そんな客こそが、お姉さん方にもスタッフにも好かれる存在なのだ。

そして、そういう人がいるからこそ、この街は今日も灯りをともしている。龍児は、そんな客たちの姿を見ながら、自分もいつか、誰かにとって「気持ちのいい存在」になれたらいいなと思っていた。