現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第34話:語られた過去と沈黙の選択

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ある晩、龍児は外国人クラブで働くお姉さんの一人と、ふとしたきっかけで会話を交わすようになった。彼女は物静かで、普段はあまり自分のことを話さないタイプだったが、その日は少しだけ心を開いてくれた。

話の中で、彼女の過去に触れる場面があった。龍児は以前、社長の経営する店の支配人から「ママの国にはスカウトマンがいて、容姿の良い女性を選んで日本へ送り出している」と聞いていた。だが、彼女の話はそれとは少し違っていた。

彼女が語ったのは、スカウトマンが単なる人材発掘者ではなく、ブローカーとしても活動していたという事実だった。その言葉に、龍児は思わず身震いした。ブローカー——その響きには、どこか冷たく、非情な現実が含まれているように感じられた。

彼女によれば、当時のブローカーは、家出をした少女や、借金の返済のために家族から手放された若い女性たちを集め、国外へ送り出していたという。彼女自身も、そうした背景を持つ一人だった。働いて得たお金は、すべて借金の返済に消えていく。自由も選択もなく、ただ指示された通りに働く日々。

龍児は、その話を聞いて胸が重くなった。彼女の過去に対して、何か言葉をかけることもできず、ただ静かに耳を傾けるしかなかった。自分が何を言っても、その運命を変えることはできない——そう思うと、無力感だけが残った。

ママは、この話を龍児に直接することはなかった。おそらく、店の裏側で何が起きているのか、すべてを理解しているのだろう。だからこそ、あえて口に出すことなく、日々を淡々と過ごしている。その姿に、龍児はどこか恐怖を感じた。表向きは優雅で親しみやすいママが、実際には感情を切り離した冷徹な存在に見えてきたのだ。

「お金さえ稼げば、何も問題ない」——そんな空気が店の中に漂っているように感じられた。だが、その背後には、誰にも語られない涙や苦しみが隠れている。龍児は、それを感じながらも、自分の立場を理解していた。

彼はただのアルバイトであり、店の経営やお姉さんたちの事情に深入りするつもりはなかった。余計なことを言えば、自分の身に何かしらの影響が及ぶかもしれない。だからこそ、何も聞かなかったふりをし、黙って仕事をこなすことに決めた。

それでも、心の奥では疑問と不安が渦巻いていた。この世界の裏側にある現実を知ってしまった以上、完全に目をそらすことはできない。だが、今の自分には何もできない——その無力さを痛感しながら、龍児は静かに日々を過ごしていた。

沈黙は、時に最も安全な選択肢になる。だが、それは同時に、何も変えられないという現実の証でもある。龍児は、その狭間で揺れながら、夜の街の灯りの中に身を置いていた。
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