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第2章 静かなまなざしで、未来を見守る
第36話 その1:確定申告と再会の記憶
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龍児が確定申告を初めて経験したのは、姉の親友であり、堅実な性格の綾香に教わったことがきっかけだった。綾香は風俗業界で働きながらも、将来は無給でボランティア活動をしたいという夢を持っていた。彼女の金銭感覚は、姉の美奈子や他のお姉さん方とはまったく違っていた。
「お金は使うためじゃなく、将来のために蓄えるもの」——綾香の言葉は、龍児の心に深く残った。
初めての申告は綾香と一緒に税務署へ行き、書類の書き方から提出まで丁寧に教えてもらった。翌年からは姉の美奈子と一緒に申告するようになり、龍児は自然とお金の管理に対する意識が高まっていった。
この経験は、後に龍児が自分で商売を始める際に大きな助けとなった。収支の管理、税務の知識、そして何よりも「お金に振り回されない生き方」を学べたことは、彼の人生にとってかけがえのない財産だった。
その後、龍児は姉にも確定申告の大切さを教えた。美奈子はその知識を活かして銀行から住宅ローンを借り、念願のマンションを購入することができた。「これは龍児のおかげ」と言って、彼のために一部屋を用意してくれた。鍵付きのその部屋は、龍児にとって安心できる場所となった。
一方、姉のもう一人の親友・麗は、金銭管理に対する意識がほとんどなかった。ホストクラブに通い詰め、好きなホストと同棲していたが、裏切りに遭い、精神的に大きなダメージを受けてしまった。
店に出勤しても、麗はほとんど会話もできず、表情もなく、まるで心が抜け落ちたような状態だった。社長は彼女の実家である現川村に連絡を取り、両親のもとへ戻し、精神病院への入院を手配した。
その後、龍児は毎週のように病院へ見舞いに行った。店の誰もが忙しさに追われる中、彼だけが麗のもとを訪れ続けた。病院のスタッフは、龍児を彼女の身内だと勘違いするほどだった。
外出許可が出るようになってからは、龍児と麗は病院の外で静かな時間を過ごすようになった。ある日、麗はふと「小学校六年生の夏休みに、現川村で一緒に過ごした男の子のこと」を思い出した。それは、龍児だった。
その記憶が蘇った瞬間、麗の表情が柔らかくなった。彼女の中で、過去と現在がつながったのだ。龍児は「僕があの時の男の子だよ」と静かに伝えた。
麗は涙を流しながら、「あの時の人が龍児だったなんて」と言った。その後、龍児は「一緒に暮らそう」と提案し、麗もそれを受け入れた。彼女は「龍児がそばにいてくれるなら、もう誰にも頼らなくていい」と言った。
二人はその足で現川村の麗の母親のもとへ挨拶に行った。母親は、娘がかつて憔悴しきっていた時のことを覚えていて、龍児に「ありがとう」と言ってくれた。
東京に戻った二人は同居を始め、麗は風俗の仕事を辞めて、家で静かに療養することになった。日々の生活の中で、少しずつ笑顔を取り戻していく麗の姿を見て、龍児は「人は誰かに支えられてこそ、立ち直れるんだ」と実感した。
「お金は使うためじゃなく、将来のために蓄えるもの」——綾香の言葉は、龍児の心に深く残った。
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