現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第37話:気配りの先にある信頼

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外国人クラブで働く龍児の仕事は、単なるボーイ業務にとどまらなかった。彼は店の空気を読み、誰よりも早く動き、スタッフやお姉さん方が快適に働けるように気を配っていた。

客が入店すると、龍児は常連の顔をすぐに見分け、カウンターの奥からその人専用のボトルを取り出す。アイスペールに氷を入れ、ミネラルウォーターとおしぼり、灰皿をトレンチに並べて準備する。これらは本来、黒服やボーイの仕事だが、龍児は新人スタッフよりも店の流れを熟知していたため、自然と先回りして動いていた。

フリーの客には、ハウスボトルとしてウイスキーか焼酎を用意する。ただし、お姉さんがボトルキープしている場合は、カウンターに出さずに控えておく。忙しい時間帯には黒服もボーイも手が回らなくなるため、龍児の細やかな動きはスタッフからも「助かる」と感謝されていた。

龍児自身はアルコールに強くなかったが、常連の中には「焼酎を牛乳で割る」という独特な嗜好を持つ客もいた。その客が来店する日は、龍児が近所の店まで牛乳を買いに行くのが恒例だった。そんな細やかな対応が、店の信頼を支えていた。

タバコを吸う客が多いため、灰皿の交換も頻繁に行われる。一本吸い終わるとすぐに新しい灰皿を出すのが基本だが、水気が残っていてはいけないため、拭き取り作業も丁寧に行う必要があった。忙しい時には灰皿の洗い物が山のように溜まり、龍児は手際よくこなしていた。

ある日、仲良くなった酒屋の店主から「忙しい時に使って」と灰皿を大量に譲り受けた。ママからは「そのくらいの判断は任せるわ」と言われていたため、龍児は自由に使い分けるようになった。

大人数の客が来店した際には、大ボックス席が埋まることもある。そんな時は龍児がテーブルを追加して席を作り、スムーズな案内を心がけた。客がトイレに立つと、お姉さんがトイレ前でおしぼりを持って待機するため、その準備も龍児の役目だった。

姉の美奈子からは、「次に何をしてもらったら嬉しいかを予測して動くといい」と教えられていた。龍児はその言葉を胸に、常に一歩先を見て行動するようにしていた。

その姿勢が評価され、店のママをはじめ、お姉さん方やスタッフからも龍児はよくしてもらっていた。お姉さんが客と同伴で来店する際には、龍児にお土産を買ってきてくれることも多く、夕食はその差し入れで済ませることが日常になっていた。

龍児は、ただ仕事をこなすだけでなく、人の気持ちを汲み取り、場の空気を整えることに心を砕いていた。その姿勢が、店の信頼を支える大きな柱となっていた。
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