現(うつつ)の夢

しらかわからし

文字の大きさ
83 / 92
第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第43話:二十歳の節目と未来への約束

しおりを挟む
一九六九年、昭和四十四年。龍児はついに二十歳を迎えた。十六歳から夜の世界で働き始め、社長が経営する風俗店や外国人クラブ、さらには賃貸マンションの清掃など、裏方の仕事を黙々とこなしてきた。長年の誠実な働きぶりが認められ、この年、名実ともに正社員として採用されることになった。

これまでの龍児は、パートスタッフとして肩書きもなく、掃除や雑務を中心に働いていた。だが、社長をはじめ、風俗店の支配人、外国人クラブのママ、社長の奥様、そしてお姉さん方まで、皆が龍児の働きぶりを高く評価していた。陰日向なく働く姿勢は、誰からも信頼され、可愛がられていた。

正社員としての初任地は、風俗店の支配人。肩書きは「課長職」となり、龍児はようやく自分の居場所を得たような気持ちになった。これまで関わってきた店舗——風俗店、外国人クラブ、日本人クラブ、焼肉店、そして社長の奥様が住むマンション——そのすべての構造や備品の位置まで把握している龍児にとって、現場の即戦力としての信頼は揺るぎないものだった。

会社の組織は、パート・アルバイトから始まり、平社員、係長、課長、部長、そして役員へと昇進していく。社長はオーナー経営者であり、最終的な地位には届かないが、全店舗を統括する「総支配人兼営業部長」のポストは空席だった。

「龍児、あと五年頑張ってくれれば、その地位を授けるからな」

社長のその言葉は、龍児にとって大きな励みとなった。だが、龍児の心には別の夢もあった。いつかは独立して、自分自身の店を持ちたい——そんな目標を胸に秘めていた。社長の誘いには感謝しつつも、それ以上の夢、つまり社長の娘・美香との結婚という話には、首を縦に振る気にはなれなかった。

美香は華やかで目立つ存在だったが、龍児は彼女の本質を見抜いていた。親の庇護のもとで自由に振る舞う姿に、どこか違和感を覚えていた。龍児が理想とする女性像は、社長の奥様のような、家庭的で教養があり、料理や伝統芸に親しむ落ち着いた人だった。

この頃の龍児の月給は十万円。中学時代の同級生の中では群を抜いて高収入だった。だが、彼は派手に使うことはせず、毎月の給料は銀行に送金し、着実に貯金を増やしていた。

十六歳から働き始めて以降、給料に加えて、外国人クラブのママや社長の奥様から受け取った謝礼なども含めると、すでに五百万円以上の貯金があった。若くしてこれだけの蓄えを持つ龍児は、金銭面でも精神面でも、着実に大人への階段を登っていた。

二十歳という節目を迎えた龍児は、これまでの経験と人間関係を糧に、次なる目標へと静かに歩みを進めていた。夜の世界で培った信頼と実績は、彼にとって何よりの財産だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...