現(うつつ)の夢

しらかわからし

文字の大きさ
84 / 92
第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

第44-1話:支援のかたちと新しい風

しおりを挟む
風俗店の支配人が売上を不正に操作し、私的に使い込んでいたことが発覚した。社長は即座にその支配人を解雇し、代わりに龍児を店長として抜擢した。十六歳から清掃業務を中心に誠実に働いてきた龍児にとって、これは大きな転機だった。

これまで龍児は経営には一切関わっておらず、現場の雑務や清掃が主な仕事だった。店長就任にあたり、龍児は社長に経営ノウハウを尋ねたが、社長は「支配人に任せきりだったから、実はよく分からない」と苦笑いするばかりだった。

そこで龍児は、姉の美奈子に助言を求めた。美奈子は長年この業界で働いており、接客だけでなく店舗運営にも精通していた。彼女は帳簿の付け方、スタッフの配置、接客マナー、衛生管理など、細部にわたって龍児に教えてくれた。

最初の一年は、龍児が生徒で美奈子が先生のような関係だった。だが、二年、三年と経験を重ねるうちに、龍児は自分なりのスタイルを築き始めた。現場の声を聞き、働く人の気持ちに寄り添いながら、少しずつ店の雰囲気を変えていった。

その中で、龍児が特に力を入れたのが「身体に障害のある方へのサービス」だった。以前、店に車椅子の男性が来店した際、姉の美奈子が丁寧に対応したことがあった。その時の経験が龍児の心に残っていた。

「障害があっても、人との触れ合いや癒しを求める気持ちは変わらない」

そう考えた龍児は、日本国内の障害者人口を調べた。総人口の約六・七パーセントが何らかの障害を持っていることが分かり、その中でも身体障害者は約三百九十四万人と最も多かった。

知的障害や精神障害については、対応の難しさや安全面の懸念から、今回は対象外とし、身体障害者に特化したサービスを検討した。店に来てもらうのではなく、こちらから出向く「出張型」のスタイルを構築することにした。

若いお姉さん方は店内勤務を続け、年齢を重ねたベテランの女性たちは出張部隊として編成した。美奈子にはその指導係を任せ、サービスの内容や対応方法を一から考えてもらった。

この取り組みにより、美奈子は会社の正社員として迎え入れられ、接客をしなくても安定した収入が得られるようになった。長年の現場経験で心身ともに疲れていた美奈子にとって、これは新しい働き方への転換でもあった。

龍児は、姉の体調や気持ちを考えながら、無理なく働ける環境を整えた。それは単なる業務改善ではなく、「人を大切にする経営」の第一歩だった。

障害のある方々への支援と、働く女性たちの新しい役割。龍児が店長として歩み始めた道には、社会的な視点と優しさが込められていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...