現(うつつ)の夢

しらかわからし

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第2章 静かなまなざしで、未来を見守る

最終話:福祉の道へ、そして静かな幸せへ

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一九九〇年、平成二年。四十二歳になった龍児は、かつて「東京の風俗王」と呼ばれるほどの成功を収めていた。だが、その呼び名に誇りを感じることはなかった。むしろ、長年にわたって多くの人々と出会い、学び、支え合ってきた経験の方が、彼にとっては何よりの財産だった。

特に、弁護士や公認会計士の紹介で出会った人々の中には、ボランティア精神にあふれた人物が多くいた。その中の一人、内科医として活動していた女性——雲母坂綾香きららざかあやかとの再会は、龍児の人生を大きく変えることになった。

綾香は、龍児が少年時代に現川村で出会った初恋の人だった。彼女は風俗の世界から離れ、身寄りのない子どもたちが暮らす児童養護施設で、無償の医療支援を続けていた。その献身的な姿に心を打たれた龍児は、会社を後進に譲り、綾香と共に福祉の道を歩む決意を固めた。

二人は私財を投じて社会福祉法人を設立。障害者や生活困窮者を支援する救護施設を開所し、やがて更生施設、特別養護老人ホーム、地域包括支援センター、グループホームなど、複数の福祉拠点を運営するまでに成長した。

行政からの委託事業も受け、地域のセーフティネットとしての役割を果たす一方で、制度の隙間に取り残された人々にも手を差し伸べる活動を続けた。生活困窮者の自立支援、孤独死の予防、地域包括ケアの推進など、課題は尽きなかったが、龍児と綾香は一つひとつ丁寧に向き合っていった。

福祉の現場では、支援を受ける側だけでなく、支援する側の人生も豊かになる。龍児たちは、地域の人々が互いに助け合い、共に生きる「地域共生社会」の実現を目指し、活動の幅を広げていった。

救護施設では、心身の事情で自立が難しい人々に、健康で文化的な生活を提供しながら、社会復帰を支援。更生施設では、より軽度な支援を必要とする人々に対して、生活力の回復を目指した支援を行った。
龍児は、かつての華やかな世界とは対照的な、静かで地道な福祉の現場に身を置きながらも、そこに確かなやりがいと生きがいを感じていた。生活は質素だったが、綾香と共に過ごす日々は、何よりも豊かだった。

もちろん、かつての恩人である前社長の奥様・冴子のことも、龍児は生涯にわたって支え続けた。綾香には「私をここまで育ててくれた大切な人」と語り、冴子の晩年を静かに見守った。

二〇二〇年、令和二年。龍児は古希を迎え、現役を引退。綾香と共に、彼女の祖母の故郷の現川村に戻り、祖母の家を買い戻して暮らし始めた。庭には小さな家庭菜園を作り、季節の野菜を育てながら、静かな日々を楽しんでいる。

時折、村の子どもたちが遊びに来ては、龍児の昔話に耳を傾ける。綾香は今も地域の健康相談に応じ、二人は「村の頼れる夫婦」として親しまれている。

そして、龍児は今も信じている。人は誰かのために生きることで、自分の人生を豊かにできることを。

― 了 ―

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