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第2章 初恋と離別:ベルリンへの旅立ち
2-3話 グレッグは夢から覚めた時にはベルリンに居た
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グレッグは十七歳になっていた。
母と叔父の世話を姥捨て山の担当職員に任せ、ようやく本格的な独立を考えるようになった。
叔父が実家に来たことで、グレッグは「もう帰っていいだろう」と言った。
だが母は、「どうしても居てほしい」と懇願した。
眠り薬を飲んで休んでいると言っても、母と叔父は夜中に騒ぎ、グレッグの耳元で大声を出していた。
その騒がしさに耐えられず、彼は限界を迎えていた。
叔父から預かっていた金貨三枚の預金通帳と戸籍謄本を、彼の寝床に返した。
実家で進めていた相続関係の書類も机に置き、「もう自分たちでやれ」と言い残して家を出た。
外はまだ暗く、空気は冷たかった。
口の渇きと眠り薬の作用で体はふらついていたが、それでも歩き続けた。
若さゆえの無謀だったかもしれない。
それでも、湧水を見つけて喉を潤し、五時間半かけてスラム街の自宅に戻った。
実家では毎朝、汗びっしょりで目覚めていたが、この日は何ヶ月ぶりかに熟睡できた。
静かな部屋、誰にも邪魔されない時間。
それは、彼にとって初めての「自分だけの空間」だった。
夢の中に、ミリヤムが現れた。
引っ越しの時に言っていた言葉が、はっきりと聞こえた。
「ベルリンに行って女優になる」
夢の中で、グレッグもベルリンに引っ越していた。
その光景は、現実よりも鮮やかだった。
目が覚めたとき、彼は思った。
――これは神の思し召しかもしれない。
両親との悪しき子供時代から抜け出し、自分の力で生きていく。
そのための新たな生活の拠点が、ベルリンに変わったのだ。
最初は住む家もなかった。
スラム街の路地裏に、段ボールと毛布で住処を作った。
街を歩いていると、最初に目に入ったのが屑屋の仕事だった。
捨てられた物を修理して売る――貧乏人でもできる商売だった。
グレッグは毎日、街を歩き、廃品を拾い、取引場で金に換えた。
それは、彼にとって生きるための第一歩だった。
さらに、道端や川辺に生息する動植物の勉強を始めた。
幼少期から東洋の漢方薬に頼っていた彼にとって、薬草の知識は身近なものだった。
眠り薬の原料は、植物の根や木の皮、虫などを乾燥させたもの。
それを知っていたグレッグは、動植物の研究が将来の糧になると考えた。
仕事の合間には古本屋に通い、文献を読み漁った。
だが、この研究については誰にも話さなかった。
屑屋の仕事は、日々の生活のため。
薬草の研究は、いつか仲間たちの幸せのため。
グレッグは、静かに歩き始めていた。
誰にも頼らず、誰にも邪魔されず。
それは、彼自身の人生の始まりだった。
つづく
母と叔父の世話を姥捨て山の担当職員に任せ、ようやく本格的な独立を考えるようになった。
叔父が実家に来たことで、グレッグは「もう帰っていいだろう」と言った。
だが母は、「どうしても居てほしい」と懇願した。
眠り薬を飲んで休んでいると言っても、母と叔父は夜中に騒ぎ、グレッグの耳元で大声を出していた。
その騒がしさに耐えられず、彼は限界を迎えていた。
叔父から預かっていた金貨三枚の預金通帳と戸籍謄本を、彼の寝床に返した。
実家で進めていた相続関係の書類も机に置き、「もう自分たちでやれ」と言い残して家を出た。
外はまだ暗く、空気は冷たかった。
口の渇きと眠り薬の作用で体はふらついていたが、それでも歩き続けた。
若さゆえの無謀だったかもしれない。
それでも、湧水を見つけて喉を潤し、五時間半かけてスラム街の自宅に戻った。
実家では毎朝、汗びっしょりで目覚めていたが、この日は何ヶ月ぶりかに熟睡できた。
静かな部屋、誰にも邪魔されない時間。
それは、彼にとって初めての「自分だけの空間」だった。
夢の中に、ミリヤムが現れた。
引っ越しの時に言っていた言葉が、はっきりと聞こえた。
「ベルリンに行って女優になる」
夢の中で、グレッグもベルリンに引っ越していた。
その光景は、現実よりも鮮やかだった。
目が覚めたとき、彼は思った。
――これは神の思し召しかもしれない。
両親との悪しき子供時代から抜け出し、自分の力で生きていく。
そのための新たな生活の拠点が、ベルリンに変わったのだ。
最初は住む家もなかった。
スラム街の路地裏に、段ボールと毛布で住処を作った。
街を歩いていると、最初に目に入ったのが屑屋の仕事だった。
捨てられた物を修理して売る――貧乏人でもできる商売だった。
グレッグは毎日、街を歩き、廃品を拾い、取引場で金に換えた。
それは、彼にとって生きるための第一歩だった。
さらに、道端や川辺に生息する動植物の勉強を始めた。
幼少期から東洋の漢方薬に頼っていた彼にとって、薬草の知識は身近なものだった。
眠り薬の原料は、植物の根や木の皮、虫などを乾燥させたもの。
それを知っていたグレッグは、動植物の研究が将来の糧になると考えた。
仕事の合間には古本屋に通い、文献を読み漁った。
だが、この研究については誰にも話さなかった。
屑屋の仕事は、日々の生活のため。
薬草の研究は、いつか仲間たちの幸せのため。
グレッグは、静かに歩き始めていた。
誰にも頼らず、誰にも邪魔されず。
それは、彼自身の人生の始まりだった。
つづく
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