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第3章 過ぎゆく温もり:王の側室となった彼女へ
2-1話 食堂と屑屋経営の女主人ベティーナとグレッグの出逢い
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ベルリンの街で、グレッグは毎日のように屑屋の取引場へ通っていた。
拾い集めた廃品を金に換えることで、わずかな生活費を得ていた。
ある日、彼がいつものように取引を終えようとしたとき、四十代と思しき女性が声をかけてきた。
艶やかな髪をまとめ、鋭い眼差しを持つその女性は、取引場の経営者だった。
「あなた、毎日ここに来てるわね。よくそんなに見つけてくるものだわ。もし良かったら、うちの店で働かない? 給料は特別に多く出してあげるけど、どう?」
グレッグは驚いた。
だが、アリーナの家を出る時期が迫っていたこともあり、すぐに尋ねた。
「住まいも用意してもらえますか?」
「そんなの、お安い御用よ。どう?」
「……よろしくお願いします」
即答だった。
彼女の名はベティーナ。
食堂と酒場、そして屑屋を兼業する女主人だった。
店に連れて行かれると、そこは活気に満ちた場所だった。
厨房では料理人たちが忙しく鍋を振り、奥では屑屋の従業員が廃品を仕分けしていた。
グレッグが雇われたのは、屑屋の若い従業員の働きが悪かったためだった。
ベティーナは、すでに屑屋の仕事に慣れていたグレッグを気に入り、すぐに任せるようになった。
だが、従業員はグレッグを目の敵にし、陰湿な嫌がらせを始めた。
それでも、グレッグは動じなかった。
苛めには慣れていた。
それよりも、寝床があり、食事があり、給料まで出るこの環境は、彼にとって天国のようだった。
朝は屑拾いに出かけ、昼には食堂に戻って厨房の洗い場を担当。
夕方まで再び屑拾いをし、夜は酒場の洗い場を手伝った。
その後は入浴し、ようやく自由時間となる。
グレッグは給料の中から、毎月一冊ずつ東洋の漢方薬に関する本を買って読んだ。
それが、彼の密かな楽しみだった。
何より嬉しかったのは、プロの料理人が作る賄いを無料で食べられることだった。
食材の目利き、獣の解体、魚の下ろし方――料理人たちは惜しみなく技術を教えてくれた。
賄いは、屑の食材ではなく、新メニューの試作だった。
景気が良かったのか、「食べられるだけ食べていい」と言われ、大食漢のグレッグには至福の時間だった。
真面目に働く姿勢が評価され、従業員たちにも次第に可愛がられるようになった。
半年が経つ頃には、洗い場だけでなく、野菜の仕込みも任されるようになっていた。
事務所の掃除をすると、給料とは別に小遣いがもらえることもあった。
グレッグは、古本以外の金はすべて貯金に回した。
ある土曜日の午後、誰もいない厨房の隅で、ベティーナが声をかけてきた。
「グレッグは真面目で一生懸命だから、ご褒美をあげたい。今夜、私の部屋に来なさい」
その言葉に、グレッグは胸の奥がざわめいた。
何かが始まる予感が、静かに彼の中で膨らんでいた。
つづく
拾い集めた廃品を金に換えることで、わずかな生活費を得ていた。
ある日、彼がいつものように取引を終えようとしたとき、四十代と思しき女性が声をかけてきた。
艶やかな髪をまとめ、鋭い眼差しを持つその女性は、取引場の経営者だった。
「あなた、毎日ここに来てるわね。よくそんなに見つけてくるものだわ。もし良かったら、うちの店で働かない? 給料は特別に多く出してあげるけど、どう?」
グレッグは驚いた。
だが、アリーナの家を出る時期が迫っていたこともあり、すぐに尋ねた。
「住まいも用意してもらえますか?」
「そんなの、お安い御用よ。どう?」
「……よろしくお願いします」
即答だった。
彼女の名はベティーナ。
食堂と酒場、そして屑屋を兼業する女主人だった。
店に連れて行かれると、そこは活気に満ちた場所だった。
厨房では料理人たちが忙しく鍋を振り、奥では屑屋の従業員が廃品を仕分けしていた。
グレッグが雇われたのは、屑屋の若い従業員の働きが悪かったためだった。
ベティーナは、すでに屑屋の仕事に慣れていたグレッグを気に入り、すぐに任せるようになった。
だが、従業員はグレッグを目の敵にし、陰湿な嫌がらせを始めた。
それでも、グレッグは動じなかった。
苛めには慣れていた。
それよりも、寝床があり、食事があり、給料まで出るこの環境は、彼にとって天国のようだった。
朝は屑拾いに出かけ、昼には食堂に戻って厨房の洗い場を担当。
夕方まで再び屑拾いをし、夜は酒場の洗い場を手伝った。
その後は入浴し、ようやく自由時間となる。
グレッグは給料の中から、毎月一冊ずつ東洋の漢方薬に関する本を買って読んだ。
それが、彼の密かな楽しみだった。
何より嬉しかったのは、プロの料理人が作る賄いを無料で食べられることだった。
食材の目利き、獣の解体、魚の下ろし方――料理人たちは惜しみなく技術を教えてくれた。
賄いは、屑の食材ではなく、新メニューの試作だった。
景気が良かったのか、「食べられるだけ食べていい」と言われ、大食漢のグレッグには至福の時間だった。
真面目に働く姿勢が評価され、従業員たちにも次第に可愛がられるようになった。
半年が経つ頃には、洗い場だけでなく、野菜の仕込みも任されるようになっていた。
事務所の掃除をすると、給料とは別に小遣いがもらえることもあった。
グレッグは、古本以外の金はすべて貯金に回した。
ある土曜日の午後、誰もいない厨房の隅で、ベティーナが声をかけてきた。
「グレッグは真面目で一生懸命だから、ご褒美をあげたい。今夜、私の部屋に来なさい」
その言葉に、グレッグは胸の奥がざわめいた。
何かが始まる予感が、静かに彼の中で膨らんでいた。
つづく
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