25年間の闘いー奪われた恋、奪い返す命ー

しらかわからし

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第3章 過ぎゆく温もり:王の側室となった彼女へ

3-5話 夕食の余韻:静かな肯定

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料理が運ばれてくるたびに、グレッグはカルラの皿に少しずつ取り分けていた。
「熱いうちに食べてね」
その言葉には、彼なりの気遣いと、どこか誇らしげな響きがあった。

カルラはステーキを一口頬張りながら、グレッグの顔を見つめた。
「本当に美味しいわ」
その感想に、グレッグは満足げに頷いた。
「でしょう? ここの料理人は僕の憧れなんです」
カルラは不思議そうに首を傾げた。

「どうしてそんなに詳しいの? まるで厨房の人みたい」
グレッグは少し笑ってから、静かに語り始めた。

かつて、この店の軒先で眠っていたこと。
残飯の中に、丁寧に仕込まれたコンソメの痕跡を見つけたこと。
そして、料理の本を読み漁りながら、夢を育てていた日々のこと。
カルラは黙って聞いていた。
彼の言葉の一つひとつが、彼の過去と未来を繋いでいるように感じられた。

「君に教えてもらえるなら、僕はもっと遠くまで行ける気がする」
グレッグの言葉に、カルラは少しだけ目を伏せた。
その瞳の奥には、教師としての誇りと、女性としての揺らぎが混ざっていた。

食事を終え、会計を済ませたグレッグは、カルラと並んで乗合馬車に乗った。
夜風が窓から入り込み、二人の間に静かな余韻を残した。
「良いのかな? 年下の、それも子供にご馳走してもらって……」
カルラが小さな声で呟くと、グレッグは彼女の耳元に顔を寄せて、冗談めかして囁いた。

「いいんじゃない? 年下の、それも子供に『頼りになる』って言ってくれたんだから」

カルラは「バカッ」と言って笑いながら、グレッグの肩にもたれた。
その仕草は、まるで長年連れ添った恋人のようだった。
馬車の揺れの中で、二人は言葉を交わすことなく、ただ静かに寄り添っていた。
それだけで、十分だった。
その仕草は、照れ隠しでもあり、安心の証でもあった。

馬車の窓から見える街の灯りが、少しずつ遠ざかっていく。
カルラはグレッグの隣で、静かに目を閉じた。
彼女の頬にかかる髪を、グレッグはそっと指で払った。
二人の間には、言葉にしなくても伝わる何かがあった。
それは、恋人という言葉よりも、もっと柔らかく、もっと深いもの。

カルラの家に着くと、彼女は「上がって」と言って、グレッグを部屋へ招いた。
その声には、もう迷いはなかった。
部屋の灯りを落とすと、静かな夜が再び二人を包み込んだ。
紅茶の香りがほのかに漂い、窓の外では風が静かに木々を揺らしていた。

「今日は、ありがとう」
カルラがぽつりと呟くと、グレッグは微笑んで頷いた。
「こちらこそ。楽しかったです」
それは、日常の中にある小さな奇跡のような時間だった。
誰かと過ごす穏やかな夜――それだけで、心は満たされていた。

つづく
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