月影に濡れる

しらかわからし

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第7章:罪の記憶と影の囁き

第7話 行方と影

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夜が明けても、私は一睡もできなかった。主人からの電話で知らされた「下着盗難」の事実が、心を締め付けていた。

窓ガラスを割ってまで侵入し、私の私物だけを持ち去った者は誰なのか。  

警察は淡々と現場検証を進めていたとのことだったが、私の心には恐怖と羞恥が重く残り、まるで身体の奥に冷たい刃を突き立てられたようだった。  

「もしかして……」  
頭をよぎるのは、失踪した娘婿の影だった。彼以外に、私の下着を狙う理由を持つ者がいるだろうか。あの夜の言葉が再び蘇る。  

――「麻衣子さんを抱いて、またあの声と顔を見たい」  

その執着が、彼を狂わせ、家庭を壊し、そして今なお私を追い詰めているのではないか。私は娘の家で朝食を支度しながら、震える手を必死に抑えた。  

娘は泣き腫らした目で食卓に座り、無理に笑顔を作ろうとしていた。母として支えなければならないのに、心の奥では罪悪感と恐怖が渦巻いていた。  

「お母さん……彼はどこに行ったの?」  

娘の問いに、私は答えられなかった。行方は分からない。だが、私の心の奥では確信めいた予感があった。彼はまだ近くにいる。私を忘れられず、影のように付きまとっている。  

昼過ぎ、主人から電話が入った。彼の声には疲労と憂慮が滲んでいた。  
「警察は調べているが、犯人の手掛かりはまだない。だが、俺はお前を守る。麻衣子、怖がるな」  

その言葉に、私は少しだけ救われた。だが同時に、主人の存在が新たな葛藤を呼び起こした。彼に守られる安心感の中で、女としての自分が再び目を覚ましそうになる。  

夜、娘が眠りについた後、私は主人に電話をした。  
「私のせいなの……私は貴方に出会う前に娘婿の康彦さんに抱かれて女になってしまったの」  

思わず口をついて出た言葉に、和永さんは静かに言った。  
「違うよ。彼が弱かったんだ。お前を女として見てしまったことも、家庭を捨てたことも、全部彼の選択だ。麻衣子、お前は責められるべきじゃない」  

その言葉に涙が溢れた。だが、心の奥では否定できない事実があった。私は母である前に、一人の女だった。

娘婿の欲望を拒絶できず、身体を重ねてしまった。そしてあの声も、あの高みに連れていかれた淫靡な恍惚に震えた歪んだ顔も、罪として消えない。  

窓の外は冷たい雨が降り始めていた。雨音が静かな部屋に響き、私の心をさらに揺らした。

娘婿の行方は依然として不明。だが、下着盗難という影は、彼がまだ私を追っていることを示しているように思えた。  

「麻衣子……これからは俺がそばにいるんだから心配するな。俺は店を守るから、お前は美月さんを守ってやってくれ」  

主人の言葉は力強かった。だが、その優しさにすがればすがるほど、若き一途な性を求めてしまう女としての自分が再び目を覚まし、罪の記憶が濃くなる。  

私は心の奥で決意した。娘を守るために、そして自分を守るために、もう二度と過去に囚われてはならない。だが、胸の奥に残る熱は消えず、影のように私を追い続けていた。  

◇◆◇  

その夜、私は眠れぬまま窓辺に立ち尽くしていた。雨に濡れたガラスの向こうに、誰かの視線を感じるような錯覚があった。

娘婿なのか、それとも別の誰かなのか。答えは分からない。ただ、私の罪と記憶が呼び寄せた影が、確かにそこに潜んでいるように思えた。  

――つづく。  
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