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第2章 若さは武器だった。だが老いは、物語になる
第13話 ライバルとの再会
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その日、店に一本の電話が入った。予約の名前を聞いて、アタシは思わず息を呑んだ。
「え?……美沙子?」
美沙子――かつて同じ店で働いていた女。アタシと同じ年で、同じ時期に入店し、同じようにNO.1を争っていた。
派手な顔立ちに、男を転がすような甘い声。アタシとは正反対のタイプだったけど、妙に張り合っていた。
彼女は10年前に店を辞めた。結婚して、地方に引っ越したと聞いていた。
そして今夜、彼女が客として店に来るという。
「圭子、久しぶりね」
店に現れた美沙子は、昔より少しふっくらしていたけど、相変わらず華やかだった。ブランド物のバッグに、高そうな香水の匂い。でも、どこか疲れたような目をしていた。
「元気だった?」とアタシが聞くと、彼女は笑って「まあね」と答えた。
席に着いて、昔話が始まった。あの頃の客、あの頃のミーティング、あの頃の嫉妬と競争。
「圭子って、いつも冷静だったよね。私は感情的になってばかりだった」
「冷静っていうか、諦めてたのかもね。あなたには勝てないって思ってたから」
「でも、今もこの店にいるってことは、勝ってるってことじゃない?」
アタシは笑った。「勝ち負けじゃないわよ。生き残ってるだけのはなし」
美沙子は、少し黙ってから言った。「私、離婚したの。去年。子供もいないし、今は一人。夜の世界に戻ろうかと思ってる」
その言葉に、アタシは複雑な気持ちになった。かつてのライバルが、同じ場所に戻ってこようとしている。
「戻ってくるなら、覚悟がいるわよ。若さは武器にならない。今は、心で勝負する時代よ」
美沙子は頷いた。「圭子がいるなら、少し安心かも」
その夜、彼女は店を出る前に言った。「また来るね。今度は、働く側として」
アタシは、彼女の背中を見送りながら思った。人生は、何度でもやり直せる。でも、やり直すには、過去を受け入れる勇気がいる。
アタシも、過去の自分を受け入れて、今を生きている。美沙子も、きっとそうなる。
夜の街は、そんな女たちの再出発を、静かに受け入れてくれる場所なのだ。
つづく
「え?……美沙子?」
美沙子――かつて同じ店で働いていた女。アタシと同じ年で、同じ時期に入店し、同じようにNO.1を争っていた。
派手な顔立ちに、男を転がすような甘い声。アタシとは正反対のタイプだったけど、妙に張り合っていた。
彼女は10年前に店を辞めた。結婚して、地方に引っ越したと聞いていた。
そして今夜、彼女が客として店に来るという。
「圭子、久しぶりね」
店に現れた美沙子は、昔より少しふっくらしていたけど、相変わらず華やかだった。ブランド物のバッグに、高そうな香水の匂い。でも、どこか疲れたような目をしていた。
「元気だった?」とアタシが聞くと、彼女は笑って「まあね」と答えた。
席に着いて、昔話が始まった。あの頃の客、あの頃のミーティング、あの頃の嫉妬と競争。
「圭子って、いつも冷静だったよね。私は感情的になってばかりだった」
「冷静っていうか、諦めてたのかもね。あなたには勝てないって思ってたから」
「でも、今もこの店にいるってことは、勝ってるってことじゃない?」
アタシは笑った。「勝ち負けじゃないわよ。生き残ってるだけのはなし」
美沙子は、少し黙ってから言った。「私、離婚したの。去年。子供もいないし、今は一人。夜の世界に戻ろうかと思ってる」
その言葉に、アタシは複雑な気持ちになった。かつてのライバルが、同じ場所に戻ってこようとしている。
「戻ってくるなら、覚悟がいるわよ。若さは武器にならない。今は、心で勝負する時代よ」
美沙子は頷いた。「圭子がいるなら、少し安心かも」
その夜、彼女は店を出る前に言った。「また来るね。今度は、働く側として」
アタシは、彼女の背中を見送りながら思った。人生は、何度でもやり直せる。でも、やり直すには、過去を受け入れる勇気がいる。
アタシも、過去の自分を受け入れて、今を生きている。美沙子も、きっとそうなる。
夜の街は、そんな女たちの再出発を、静かに受け入れてくれる場所なのだ。
つづく
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