泡のように、生きる

しらかわからし

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第2章 若さは武器だった。だが老いは、物語になる

第21話 若い客との世代を超えた共感

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 その夜、店に現れたのは、まだ20代前半と思しき青年だった。スーツは新調したばかりのようで、ネクタイの結び目が少し歪んでいた。名刺を差し出す手も、どこかぎこちない。

「初めて来ました。緊張してます」

 アタシは笑った。「そんな顔してたら、ウイスキーも苦くなるわよ」

 彼は、少し照れながら笑った。名前は悠人ゆうとくん。都内のIT企業に勤めているという。仕事のストレスで、同僚に勧められてこの街まで足を伸ばしたらしい。

「圭子さんって、何歳なんですか?」

「52よ。賞味期限はとっくに切れてるけど、まだ腐ってないわ」

 彼は目を丸くして、「そんなふうに見えないです」と言った。お世辞だと分かっていても、少しだけ嬉しかった。

 話しているうちに、彼が意外と『古いもの』に興味があることが分かった。昭和の歌謡曲、レトロな喫茶店、フィルムカメラ。

「なんか、昔のものって、温かい気がするんです」

その言葉に、アタシは少しだけ胸が締めつけられた。

「温かいっていうのはね、人の手がちゃんと触れてたってことよ。今は、何でも効率的で、早くて、便利だけど、触れた記憶が薄いのよ」

 悠人は、静かに頷いた。

「圭子さんの話、もっと聞きたいです。なんか、心が落ち着きます」

 アタシは、彼のグラスにウイスキーを少しだけ足した。

「じゃあ、今夜は『昭和の夜』にしてあげる」

 その夜、アタシは久しぶりに、若い客と心を通わせた気がした。年齢も価値観も違う。でも、どこかで繋がっている。

そして私は舞い上がってしまい珍しく彼と連絡先の交換をしていた。人は、時代を超えて共感できる。それは、言葉の温度と、心の柔らかさがあればこそ。

 アタシは、悠人くんのような若者が、夜の街に何かを求めて来ることが嬉しかった。そして、アタシ自身も、まだ誰かの『心の居場所』になれたことに、少しだけ誇りを感じていた。

 つづく

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