スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。

赤木 咲夜

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北太平洋浮島編

第35話 海と恋

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メラメラと火は燃える。
夏場に南国の地で火にあたる。

もうそれだけで脱水症状になりそうだ。

炭に火が移り安定してきた。

「もう限界、俺海に行ってくる!!」
森は軍手を炭が入ってる段ボールに投げ、そのまま海に走っていった。

「俺も限界。一ノ瀬任せた!」
真斗は上着を脱いで海に走る。

俺も暑くて熱くてたまらない。気温も火も俺から水分を奪っていく。

「チャン、はいジュース。」
「冷たっ!」
アンジェリーナが急に背後から冷たいペットボトルに入ったジュースを俺の首筋にあてた。アンジェリーナを見るといたずらに成功したと言わんばかりにここ一番の満面の笑みを見せる。

ペットボトルには水滴が大量についている。
どうやら荷台でもってきたクーラーボックスから取り出したばかりみたいだ。

「ありがとう、アンジェリーナ。」
俺は御礼を言って、ペットボトルを開けてゴクゴクと喉を鳴らしながら一気飲みをする。

さっきまで水分が抜けてすこし体が怠かったのだが、一気に復活した。

「一ノ瀬もどうぞ、スポドリでいいよね?」
アンジェリーナは一ノ瀬にも某有名な青いラベルのスポーツドリンクを渡す。
「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていたところです。」

「いい感じじゃない、これならいつでも焼肉できそうね。」
海水浴場備え付けのテーブルにお肉を置く神山。

俺は火が付いた炭火の上から炭を追加し、焼き網をのせた。

「健太、ご苦労様。」
鈴が野菜をお肉の横に置き、金属製の串に指していく。

テーブルの上にはトウモロコシやピーマン、玉ねぎなど、様々な野菜とサンドイッチされたお肉の串が、女性陣によって量産されていく。

そう言えば、ゆりちゃんと妹がいないな。
海で泳いでいるのかな。

「バーベキューコンロ使ってもいいですか?」
そう言って俺がセッティングしたバーベキューコンロに鍋を置くジャック。

「ジャック、何をつくるんだ?」
「ミネストローネです。いつもみたいな味は出せませんが、あった方がいいかとおもいまして。」
そう言いながらきざんだ玉ねぎや、ニンジンなど、野菜をどんどん鍋に入れていく。
鍋で炒めるジャックを始めてみた。普段は絶対に鉄のフライパンを使っているのに。

どんどんと、料理が量産されていく。
俺はやる事がなくなり、アウトドア用の組み立て式キャンプチェアに座る。

いや、正確にはやれることは沢山あるけど、もうしんどいからサボりたい。

「チャン、海に行かないの?」
アンジェリーナがビール瓶から直接飲みながら言う。

「アンジェリーナ、昼からお酒飲んで大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。今日はまだそんなに飲んでない。」

と言うことはこれからたくさん飲むんですね。わかります。

「アンジェリーナ、せめてちゃんと歩けるくらいにはセーブしろよ。」
「わかってるわよ。飲み過ぎないようにはするわ。
チャン、それよりも海に一緒に行かない?」
「別にいいけど、俺そんなに泳ぐのうまくないぞ?」
「いいから、いいから。」

アンジェリーナは上着を脱ぐ。
白色の普通のビキニの水着。
工夫のない水着がアンジェリーナのスペックの高さを強調する。

西洋人特有の張りのある胸、すこしパーマがかかった金髪の長めのポニーテール。そして腕についた輪の銀色のアクセサリーが、腕の細さを強調している。お尻やそれほど大きくないが、腰がほっそりしていてシルエットが綺麗だ。
お腹も縦に一本腹筋が割れている。
足も適度に筋肉がついていて、モデルと言われても通じるレベルだ。

アンジェリーナに限った話ではないが、神山以外は割とみんな筋力がある。毎日ダンジョンに潜って、モンスターと戦っているからだろう。

俺も引きこもっていた時代に比べたら、かなり筋肉がついた。
さすがに本気で鍛えている人には遠く及ばないが、体の各所についていた脂肪は全部なくなった。

俺がアンジェリーナの水着に見惚れていたら、俺の腕を引っ張られた。

「ちょっとまって、アンジェリーナ。行くから。」
シャツが濡れるとあとで面倒なので、俺もシャツを脱いで海に向かう。

海に行くと、浅瀬の方でゆりちゃんに泳ぎ方を教わる真斗。
妹と森は結構深いところまで泳いでいた。

一方、俺は持ってきた大きな浮き輪に乗っかり、海の上を漂っている。
キャッキャウフフなんて、正直恥ずかしくて無理。そもそもする相手がいない。
それが、俺の海水浴だ。

いつもと違うのはアンジェリーナも俺と同じように浮き輪の上に乗っていて、俺の浮き輪と白色の綱でつながっていることだ。

「よく、真斗は平気だな。おれならゆりちゃんに泳ぎ方を教えてもらうなんて恥ずかしさで死ぬ。」
一生懸命バタ足をする真斗と、真斗の手を持つゆりちゃん。
その二人を遠めに俺は見ていた。

「真斗は幸せそうよ。」
「いや、あれはどう見ても苦しそうだろ。」
海の波がたまに真斗を飲み込む。そのたびに真斗はゆりちゃんに必死に捕まるのだ。

「なぜ、海で練習するのかしら。練習ならプールですればいいのに。」
アンジェリーナがド正論を言うが、きっと真斗が泳ぎを教えてとゆりちゃんを誘ってもゆりちゃんはいかないだろうな。

「ゆりちゃんは真斗には興味ないからね。」
いつの間にか俺の浮き輪にやってきた妹。

「でも、告白したら結果が変わるかもしれないぜ?」
森までやってきた。

「それは森の経験談か?」
俺は突っ込みを忘れない。

「まぁ....そうだけど。」
森は案外あっさりと白状した。
「神山に絶対に言うなよ。あまり神山は俺と付き合ってること知られたくないらしいから。誰も見ていないところで手を繋いできたりして、変化がちょっと可愛いし、神山の飲んだペットボトルとかを何気なく飲んだら真っ赤になってた。
間接キスとか思っているのだろうけど、そんなの別に恋人とかでなくてもよくあるのに初々しいなって。」

うわー、結論は知りたかったけど、その話は聞きたくなかった。
口の中がじゃりじゃりしそう。

「チャン、ほらほら手を繋ごう。」
そう言って手を伸ばすアンジェリーナ。

アンジェリーナの場合は精神的よりも肉体的恥ずかしくなるからちょっと無理。

「無理、アンジェリーナ。いろいろ恥ずかしい。」
さすがにストレートには言えなかった。

ーーーーー

海で少しの間漂ってから浜に戻ると、焼き肉の香ばしい美味しそうなにおいが俺の胃を刺激する。
ぎゅるるとなる俺のお腹。
アンジェリーナと妹も同じようにお腹が鳴る。

少し恥ずかしそうなアンジェリーナ。
全く気にせず、焼き肉串を取る妹。

「ほら、はやくみんな食べて。お肉が焦げるから。」
鈴と神山、一ノ瀬はずっとひたすらお肉を焼いていたらしい。

ジャックは周辺には見当たらない。

「志帆、ジャックはどこに行った?」
お肉をむしゃむしゃと必死に食べている志帆。なんだかリスを見ているみたいだ。
しばらく咀嚼し、くちの中を空にしてから言う。
「さきほど、知らない女性に話しかけけられて、そのままどこかへ行きましたよ。」

「ああー、ジャックは逆ナンされてどこかへ行ったわよ。色黒にきれいに焼けたビキニのお姉さんだったわ。きっと今頃海で遊んでいるはずよ。」
鈴がジャックが残していったのだろう、ミネストローネを自分の器によそいながら言った。

「ジャックさん、最近恋がしたいって言ってましたから。きっと今頃楽しくしてるともいますよ。」
一ノ瀬はピーマンを食べながらいう。

「たしかにそんなこといってたわね。確かに私たち中学生や高校生に手を出すわけにはいかないだろうし。」
神山は俺が座っていたキャンプチェアに座りながら言う。

たしかに、30代の男が高校生相手に色々したら、完全に犯罪だ。

「ジャックは年上好きだから、あなた達に手を出すことはないわよ、庇護対象ではあるみたいだけど。ジャックはお姉さんみたいな主導権を握ってくれる胸とお尻が大きい子が好きって言ってたわ。

私がもう少し年を取っていたら守備範囲とか言っていたから、私はチャン以外お断りって言ったけど。」
さすがよくジャックとお酒を飲んでいるアンジェリーナ。そういう情報には詳しい。

「確かに、ジャックを誘ってきたビキニ女子、大人のエロさがありました。胸もおしりも大きかったし。成熟した女性って感じでしたね。水着を直すときは少し興奮しましたし、見惚れてしまいました。」
一ノ瀬がすこし顔を赤くしながら思い出す。少し鈴の顔が一瞬ゆがむ。

「健太、トウモロコシ余ってるから食べない?」
「え、鈴、僕はトウモロコシが苦手なのしってるでしょ?」
「知ってるわよ。でもなんとなくイラッとしたら食べて。私がゆっくりと焼いて育てたトウモロコシよ。」
そう言って一ノ瀬のお皿にトウモロコシを乗せる。

「鈴が食べろっていうなら食べるけど。僕なにか悪い事した?」
「健太は何も悪いことしてないよ。私がなんとなくイラッとしただけだから。」
理不尽と思いつつも、トウモロコシを食べる一ノ瀬。その顔をみて満足そうな鈴。

鈴が過剰に反応しすぎなのか、一ノ瀬が無神経すぎるのか。

「私は嫉妬したら、肉体の方で発散するから安心して、チャン。」
その肉体って暴力の方ですか?それとも性的なほうですか?
さすがに聞けなかった。

お腹いっぱいになったら、ある程度バーベキューの後片付けをしてからみんなで海で遊んだ。

神山は周りのお腹がみんな美しいボティラインになっているのを気にしてか、珍しくウンディーネにならずに普通の人間の姿で遊んでいる。

なんとなくそれが可笑しくて笑っていると。
「チャンは神山みたいな、お腹が好みなの?」
とアンジェリーナに聞かれてしまった。

「いや、神山がカロリー消費を気にしてウンディーネにならないと思うと笑えてしまって。」
俺は誤解が無いように正直にアンジェリーナに言ったが、神山は俺の言葉を聞いてみたみたいで、変身こそしなかったもののスキル能力で大波を作り、俺の浮き輪をひっくり返した。ついでにアンジェリーナも犠牲になった。

「なにするのよ。せっかくチャンと二人で話せる機会だったのに。」
恥ずかしいことを堂々というアンジェリーナ。きっと思っていることが全部勝手に口から出てきているのだろう。

明らかにしまったという顔をする神山。
「アンジェリーナ、ごめん。松ちゃんは普段そんなことを言わないから、松ちゃんだとは思わなかったのよ。」

それは暗に俺を貶しているのか?

「神山、もっと運動しないと森に嫌われるぞ。」
俺は仕返しに暴露してやった。

顔が真っ赤になる神山。
「うっさい、松ちゃん。見てなさいよ!!」

俺は神山の水操作で作った水の竜巻で揉みくちゃにされる。ついでに俺と一緒にいたアンジェリーナもだ。
俺は本能的にアンジェリーナに必死に抱き着いた。
いろいろ柔らかいものが顔や腕に当たったが、この瞬間には仕方がないともう。
アンジェリーナも嫌がってなかったし、むしろアンジェリーナも抱き着いてきた気がする。状況が状況だったので、詳しくは覚えていない。

ただ、水の竜巻から抜けたして落ち着いた後、アンジェリーナの水着に俺の手がずっと入っていたことを知ったときは、ちょっとアンジェリーナに申し訳ないなとは思った。

正直この瞬間が、この浮島の思い出の中で一番の幸せだったのかもしれない。

ーーーー

「アンジェリーナ、さっきの海のことだけど。本当にごめん。」
俺は荷物を詰めて帰る準備をするアンジェリーナに話しかける。

「なぜ、謝るの?私むしろチャンにアピールできて良かったと思ってるわよ。他の男なら死んでもごめんだけど。」
アンジェリーナ、さすがにそれはストレート過ぎじゃないか?

「どう?私の胸の感触、気持ちよかった?」
「・・・。」
俺は照れてしまって、俯いてしまう。

アンジェリーナの顔も今は見れない。いま俺の顔はどうなっているのだろうか。

それと同時に俺はアンジェリーナのことが好きなのか、それともアンジェリーナの肉体が好きなのだろうか。そんなことを考えていた。

アンジェリーナは俺のことを本当の意味で好きだと思いていると思う。
俺の容姿ははっきり言ってそれほどいいわけではない。今はだいぶん体つきがマシになってきたが、アンジェリーナが俺のことを好きと言い始めた時は俺はそんなに引き締まった身体を持っていたわけではなかった。

対して俺はアンジェリーナの身体が好きかと言われれば、否定ができない。

アンジェリーナは俺をいろいろ支えてくれる。
料理もできるし、俺の知らないことを知ってるし、可愛いし、体も俺嫌いではなくむしろ好きだ。

でもそれってアンジェリーナが好きと言えるのだろうか。

アンジェリーナが好きなのは確かだ。だけど俺はアンジェリーナの何が好きなのだろうか。

俺は純粋にアンジェリーナが好きではなく、不純にアンジェリーナが好きなだけなのか。

きっとこのままいけば、俺はアンジェリーナと間違いなく付き合う。
でも俺はアンジェリーナと本当に付き合っていいのか。

俺にとってアンジェリーナって何だろう?

たかが、高校生のカップルだ。
そう言われれば、確かにそうかもしれない。

だけど、真剣なアンジェリーナの気持ちが伝わってくる以上、俺は生半可な気持ちでは付き合いたくはない。

アンジェリーナは自らの体をも使って俺に振り向いてもらおうと必死だが、俺はアンジェリーナと付き合うなら、肉体的ではない気持ち的な何かが欲しいと感じた。それが真にアンジェリーナが好きということだろう。


「チャン、チャン?大丈夫?」
アンジェリーナの呼びかけに、現実の世界に意識が引き戻される。
「チャン、どうしたの?急にだまって。私の話を聞いてた?」

「アンジェリーナ、聞きたいんだけど。アンジェリーナってなぜ俺のことが好きなんだ?」
俺はアンジェリーナに聞く。俺の思いがけない突然の質問に、アンジェリーナはあっと言う間に顔が真っ赤になる。

「そんなわからないわよ。私はなぜチャンが好きになったのか自分でもわからないもの。チャンの顔が好みというわけでもないし、もっとかっこいいと思える人はいくらでもいるわ。一番大好きで一番大事な研究を辞めても一緒に居たいと思えたのがチャンだった。それだけよ。」
何と言うか、アンジェリーナらしいな。

「それを言うってことは、私と付き合うことにしたの?」
「いや、もうちょっと考えさせて。アンジェリーナの気持ちはわかっているからちゃんと考えたいんだ。言われた通り旅行が終わるころには結論を出すから。」
アンジェリーナは俺を引き寄せて抱きしめる。

「やっぱり私はチャンが好きだわ。私はチャンのそういうところに惚れたのよ。」

俺とアンジェリーナの抱擁は誰かが寝室の大部屋に近づく音がするまで続いた。



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