はぐれオーガさん本気だす

KMR

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オーガさん一蹴する

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グランツの後方から地を蹴る蹄の音が聞こえてくる。一頭。いや、まだまだだ。
その蹄の音はけたたましく、姿が視認できないのにも関わらず威圧感がひしひしと伝わってくる。

「馬であることには変わらないだろうが…この蹄の音は重すぎる。こんな所に重装備騎兵が現れるのか?」

グランツの疑問はもっともだがグランツは知らない。人間は火葬せずに埋葬するとゾンビになることを。
現時刻は夜の八時過ぎ。星空の元、あらゆる生物が眠りに着く準備を始める。

「生」物は…。


「魔王領は人間がいないから、ゾンビと戦うのはこれが初めてだな」


魔王領では人間の死体が残る事は珍しい。何故なら弱過ぎる人間達はゾンビとして復元出来ないほどに千切られ刻まれるからである。
もし体が運良く原型を留めていたとしても、魔王領には死体を常食にする「餓鬼」や「死鬼(グール)」といった魔物も多いため、魔王領では実体の無いゴースト等がアンデットと認識されていた。

今回の敵は死馬に跨がる死人重装備騎兵の団体。鎧は錆び付き、剣は刃こぼれくらいで済んでいれば上々、といったような出で立ちだが、これがなかなか手を焼く魔物である。

それは何故か?答えは重さである。馬を間近で見たことのある者ならば想像し易いだろうが、あれに馬鎧を付けて上に鎧兵が乗った状態で自分へ、向かい全速力で突進して来たと想像して欲しい。


…殆ど軽自動車が突っ込んで来るようなものだ。

それが群となり軍となり、一つの生き物のように突進してくる。さながら鉄の津波だ。
勢いを付けた津波は止まる事を知らず、敵を真正面から打ち砕き走り抜ける。それが体力の底が無いゾンビだったならば、その脅威は止まる所を知らない。

「錆び付いていてよく分からないが、鎧の種類や色がバラバラだな」


殆どは鎖帷子の上に厚手の布を着た格好だったが、ちらほらと高級感の漂う鎧を着た死人もいる。生前は指揮官だったのだろうか、鎖帷子に大きめの盾のみの死人も見受けられる。

「さて、蹂躙だ」


けたたましい蹄の音が地鳴りを生み出し砂利や土を巻き上げる。死臭と錆びた鉄の臭いが巻き上がった土の臭いと混じり合い、重苦しく、呼吸を無意識に止め、えずいてしまうような空気を作る。
五メートル。三メートル。一メートル。そして衝突。

その瞬間、死人の重装備騎兵達は力の方向を急激に変えられ真上に打ちあがる。最前列の騎兵から順に、直角に打ち上がり、そして後列の元へ降り注ぐ。
鉄の砕ける音が間隔を狭めていき、遂に一つの長音に聞こえた頃、重装備騎兵達は鉄と死肉の山に変わっていた。

地平線の彼方へ重装備騎兵が奏でた轟音が寂しく溶けていき静寂を語り出す。
…まさに夢の跡。かつて数々の人間を恐怖に陥れ命を奪ってきた死肉と鉄の魔物は粉々に砕け散りそよ風一つに巻き上げられる。

残ったのは白銀に輝く鎧に身を包んだ一匹の鬼。慈悲もなく手加減も無い、一匹の鬼だった。

「弱い」

鬼は一言。これまでの人生、いや鬼生の中で散々言い放ってきたであろう三文字を呟き、瓦礫の中を次の目的地に向かい歩き出す。
俺はこれしか弱者に投げ掛ける言葉を知らない。そう言わんばかりの淀みの無さはむしろ清々しく高潔であるとさえ感じられる。

死してなお、眠る事すら赦されず肉体を弄ばれた死人達。彼らはこの苦痛に終止符を突きつけてくれた白銀の鬼に対して何を思うのだろうか。



「おごれる人も久しからず、唯春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂にはほろびぬ、偏に風の前の塵に同じ」













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