はぐれオーガさん本気だす

KMR

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オーガさん声を出す

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目の前には大きな谷。下に覗く川の流れは急速で、泳いで渡るのは難しい。深さもかなりあるように見える。
谷に掛かる橋は強固ではあるが、対岸にいる門番らしき兵士相手に暴れるとなると少し心許ない強度だ。身長もかなり有るため一本橋を見つからず渡りきるのは不可能だろう。

飛び越えて渡ろうにも谷の隙間は広く、橋の中間で跳ぼうにもグランツの脚力で踏み込むと橋の底が抜けてしまうであろうことは目に見えている

「じゃあどうするか」

答えは簡単。

「空を蹴るんだよ」

グランツは空気抵抗を最小限に抑えるように姿勢を低くし地面を蹴り抜く。
鍛え抜かれた腹筋と脚力を使い目にも止まらぬ速度で蹴り足を畳む。
蹴り足と連動して反対側の足を谷底から吹き上げる強風に対して踏み込む。そしてそれらの動作を繰り返すとグランツは浮き上がるように空を翔ける。

風がグランツの足で叩かれる為、乾いた音が鳴り響く。五歩、六歩。そして七歩目。グランツは両手を伸ばし、平手打ちで二人の門番の後頭部を破砕しながら対岸へ着地。
門番達の破砕された頭部は血液ごと霧状になり、地面には一滴の血も滴ってはいなかった。

橋を渡りきると目の前には看板が設置されており、整備こそ満足にされてはいないが、草の生えていない三本の畦道に対してそれぞれこの先に何があるかを示していた。

「えーっと。見張り台、村、そして中継地点か」

見張り台はグランツから見て右手にある木製の櫓のことだろう。
中継地点は前に襲撃したお粗末な堤のある所と似通った作りであるのは確かだ。なぜならグランツの左手側にはもうすでに中継地点の影が見えているからだ。
なら行くべき方向は正面の、村へ続く畦道の筈だが……

グランツが櫓の方向を向いた瞬間。櫓からけたたましい鉄鐘の音が鳴り響いてきた。

それを聞いたか左手に見える中継地点からも、返答なのか敵襲を知らせる合図なのかは分からないが、同様に鉄鐘の音が聞こえ初めてきた。

「逃げるのも面白くない。ここは一つお遊戯会といこうか」

左右から重い蹄の音が挟み込むようにグランツを襲う。
馬上には弓をつがえた兵士。あるいは使い捨ての投げ槍を構える兵士、そして馬の牽く荷台の上で弩を構える射手達が四割の怯えと六割の敵対心を孕みグランツへ武器を向ける

「さあさあ!俺を楽しませろぉ!!」

だが、グランツの願いは虚しく散った。
なぜなら先程の咆哮で馬は気絶し兵士は全員落馬。グランツの足元へ投げ出された兵士達は六割の敵対心をへし折られ恐怖に染め上げられ茫然自失となってしまったからだ。

しかし、これは兵士達にとって仕方の無いことだった。野生動物よりかは劣るのは当然としても、人間は人間に対して声を使い戦いを有利に進める力を持つ。怒鳴る。叫ぶ。といった心理的優位に立つための力だ。

しかしこれがグランツ対人間ならどうなるだろうか。心理的優位などと生易しいものではない。生物としての格の違いを叩きつけるような超攻撃的な恫喝。生きている事を否定させる咆哮。

グランツほどの生物ともなると、「声」ですら武器になる。本気を出せば相手の鼓膜を破るのは勿論。声の音を衝撃波に変化させる程の音波を出すことも可能だ。

「わっ!!!!!」

グランツの発した声は周囲の兵士達の鼓膜を破壊しつつ直接脳へ深刻なダメージを与える。

…つまりブラックアウト。いや殆どは即死だろう。

「後はこいつらを谷に落としてお遊戯会は終了っと」


グランツはちゃんとお遊戯会の後片付けがしっかりできるいい子ちゃんだった。


「俺が恐れる声は学校からの電話に出た母親のいつもと違う声だけだ」










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