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楽屋に戻ると、五人はソファにだらりと身を沈めた。
櫂さんはすぐにスマホを弄り始め、リーダーとしての仕事に戻る。ムードメーカーの律は、一番年下の零にちょっかいを出していた。
「零くん、さっきのダンスの時ちょっとタイミングずれてたよ? 統さんのセンターを食っちゃ駄目だよ~」
「日向さん。オレの分析では、あれは統さんの振りが一瞬大きくなったことによる相対的なズレだ。それに、統さんのセンターは誰も食えん」
零の言葉に、統は小さく笑った。このグループの安定感は、リーダーの櫂さんとこの冷静沈着な零に支えられている。
一方、遼は部屋の隅で誰とも目を合わせず、沈黙を守っていた。統は意識して、遼から少し距離をとったソファに座る。
「櫂。次の打ち合わせまで何分だ」
遼がリーダーの櫂に声をかける。
「あと30分。遼、お前も少しは休めよ。顔が怖いぞ」
櫂に指摘され、遼は鼻を鳴らすだけでソファに深く身体を預けた。
瞬間、遼の身体からごく微量の、しかし圧倒的に質の高いαフェロモンが放出された。
それは、統の周囲の空気を濾過するかのように澄ませ、統の脳裏にあった疲労と息苦しさの残滓を完全に消し去った。統は思わず深く安堵の息を吐いた。
(すごい。やっぱり遼のフェロモンは次元が違う。ま、俺の身体は遼のαとしての才能にただ仕方なく従っているだけだけどね)
統は、それが運命の番からの安息だと知らずに遼の「才能」に感謝した。
その時、統の隣に座る律が統の腕にそっと触れてきた。
「すばるくん。もう少し、僕のそばにいた方がいいよ」
律の目は、統と同じΩとして遼の無意識の独占から統を庇おうとする、切実な光を宿していた。
「律…大丈夫だよ。さっき抑制剤飲んだし、ライブも今日でおしまいだろ?」
安心させるためにそう口にしたが律の顔は変わらず眉が下がったままだった。
(流石に無理しすぎたか…?すぐ遼に近寄ったから大丈夫だと思ったんだけどな)
話を聞いていたのか櫂がスマホを置いてこちらを見る。
「本当に大丈夫なんだよね?今日がライブ最終日だからって無理して体壊したら俺もう泣いちゃうよ~?」
統は少し困ったように笑い、「本当に大丈夫だ」と繰り返そうとした。
その時、零が口を挟んだ。
「櫂さん。統さんのバイタルは、ライブ前よりライブ後のほうが安定しているケースが多い。経験則に基づくなら、その懸念は不要だ」
零の冷静沈着な声は、いつもなら統を安心させた。しかし、今日は違った。
「でも、零くん...今日はすばるくんの呼吸がちょっと浅いよ。僕にはそう聞こえる。」
律は不安を隠さず統の腕を掴んだまま離さない。そのΩ同士の共鳴を統は煩わしく感じていた。
(俺は大丈夫だ。遼のフェロモンでもう集中力は戻っている。律は過敏になりすぎだ)
統が立ち上がり、空気を変えようとした。
「心配しすぎだよ律。ほら、もう着替えよう。俺のバイタルは俺が一番よく分かってるから」
その瞬間、ソファの隅で沈黙を守っていた遼がゆっくりと目を開けた。
遼は口を開かなかったがその冷たい瞳が統の首筋を、そして律が触れている統の腕を、静かに、しかし鋭く射抜いた。
遼から無意識の威圧が放たれる。統はその殺気のような気配に背筋が凍った。
統はすぐに察した。この圧は俺の体調への懸念ではない。律が俺の集中力を乱していることへの、αとしてのプロ意識の現れだ。
(遼は誰かが俺に触れることで俺のパフォーマンスに影響を及ぼすかを、常に監視しているんだ…)
統は一瞬にして遼への誤解を深め、律から身体を離した。
「...じゃあ、俺、先に着替えてくる」
統は逃げるように楽屋を出た。遼の厳しい視線から逃れるように、統は更衣室を目指した。
櫂さんはすぐにスマホを弄り始め、リーダーとしての仕事に戻る。ムードメーカーの律は、一番年下の零にちょっかいを出していた。
「零くん、さっきのダンスの時ちょっとタイミングずれてたよ? 統さんのセンターを食っちゃ駄目だよ~」
「日向さん。オレの分析では、あれは統さんの振りが一瞬大きくなったことによる相対的なズレだ。それに、統さんのセンターは誰も食えん」
零の言葉に、統は小さく笑った。このグループの安定感は、リーダーの櫂さんとこの冷静沈着な零に支えられている。
一方、遼は部屋の隅で誰とも目を合わせず、沈黙を守っていた。統は意識して、遼から少し距離をとったソファに座る。
「櫂。次の打ち合わせまで何分だ」
遼がリーダーの櫂に声をかける。
「あと30分。遼、お前も少しは休めよ。顔が怖いぞ」
櫂に指摘され、遼は鼻を鳴らすだけでソファに深く身体を預けた。
瞬間、遼の身体からごく微量の、しかし圧倒的に質の高いαフェロモンが放出された。
それは、統の周囲の空気を濾過するかのように澄ませ、統の脳裏にあった疲労と息苦しさの残滓を完全に消し去った。統は思わず深く安堵の息を吐いた。
(すごい。やっぱり遼のフェロモンは次元が違う。ま、俺の身体は遼のαとしての才能にただ仕方なく従っているだけだけどね)
統は、それが運命の番からの安息だと知らずに遼の「才能」に感謝した。
その時、統の隣に座る律が統の腕にそっと触れてきた。
「すばるくん。もう少し、僕のそばにいた方がいいよ」
律の目は、統と同じΩとして遼の無意識の独占から統を庇おうとする、切実な光を宿していた。
「律…大丈夫だよ。さっき抑制剤飲んだし、ライブも今日でおしまいだろ?」
安心させるためにそう口にしたが律の顔は変わらず眉が下がったままだった。
(流石に無理しすぎたか…?すぐ遼に近寄ったから大丈夫だと思ったんだけどな)
話を聞いていたのか櫂がスマホを置いてこちらを見る。
「本当に大丈夫なんだよね?今日がライブ最終日だからって無理して体壊したら俺もう泣いちゃうよ~?」
統は少し困ったように笑い、「本当に大丈夫だ」と繰り返そうとした。
その時、零が口を挟んだ。
「櫂さん。統さんのバイタルは、ライブ前よりライブ後のほうが安定しているケースが多い。経験則に基づくなら、その懸念は不要だ」
零の冷静沈着な声は、いつもなら統を安心させた。しかし、今日は違った。
「でも、零くん...今日はすばるくんの呼吸がちょっと浅いよ。僕にはそう聞こえる。」
律は不安を隠さず統の腕を掴んだまま離さない。そのΩ同士の共鳴を統は煩わしく感じていた。
(俺は大丈夫だ。遼のフェロモンでもう集中力は戻っている。律は過敏になりすぎだ)
統が立ち上がり、空気を変えようとした。
「心配しすぎだよ律。ほら、もう着替えよう。俺のバイタルは俺が一番よく分かってるから」
その瞬間、ソファの隅で沈黙を守っていた遼がゆっくりと目を開けた。
遼は口を開かなかったがその冷たい瞳が統の首筋を、そして律が触れている統の腕を、静かに、しかし鋭く射抜いた。
遼から無意識の威圧が放たれる。統はその殺気のような気配に背筋が凍った。
統はすぐに察した。この圧は俺の体調への懸念ではない。律が俺の集中力を乱していることへの、αとしてのプロ意識の現れだ。
(遼は誰かが俺に触れることで俺のパフォーマンスに影響を及ぼすかを、常に監視しているんだ…)
統は一瞬にして遼への誤解を深め、律から身体を離した。
「...じゃあ、俺、先に着替えてくる」
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