デュエット・コード

蘿蔔

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2話

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楽屋を出て、俺はマネージャーが運転する車に乗り込んだ。活動拠点から自宅への帰り道だ。車に揺れながら自分を落ち着けてる中、疲労と息苦しさが再び襲いかかる。抑制剤の効果が限界みたいだ。

窓の外に流れる夜の街を見つめながら、俺は無意識のうちに遼が乗っているはずの別の車の方向へ意識を向けた。


遼は俺とは違うαとしての専用車で帰る。その車の中にも遼の才能が作り出すαのフェロモンの静かな残り香が満ちているだろう。その香りを俺は今渇望していた。


(お願いだ。もう少しだけそのフェロモンで俺を助けてくれ。)


遼が近くにいなくとも、俺の身体は彼が放ったαのフェロモンの痕跡を求めていた。愛じゃない。これは薬だ。俺のキャリアを守るための、不可欠なαの才能なんだ。

俺はその安堵に身を委ねながら、自宅へ向かった。









遼の自宅。都心を見下ろす高層マンションの最上階。


遼は、誰にも邪魔されない自室でジャケットを脱ぎ捨てた。すばるが遠ざかれば遠ざかるほど、αフェロモンの暴走が抑えられるため遼は統と別行動をとることを常に選んでいた。


俺の部屋は無機質で、統の甘い香りの痕跡すら残らないように徹底して換気されている。

俺は統を愛し、守りたい。だが、俺には統と番になる資格がない。


(俺が統に触れることは罪だ。統の未来を俺の身勝手な愛で壊すわけにはいかない)


遼は統と離れた孤独な場所で理性の壁を維持し続けていた。その理由を統が知ることはこの先一生ないだろう。


窓の外の光景は、彼自身の孤独と支配欲を映しているかのようだった。遼はキャビネットから、錠剤のケースを取り出した。Ω向けの抑制剤とは異なり、これはαの過剰なフェロモン分泌を抑え込むための極めて強力な薬だった。


(統。お前は、俺の才能だけを望んでいればいい)

薬を水なしで飲み下した瞬間、喉の奥から全身に冷たい鎖が巻き付くような感覚が広がる。αとしての本能の熱が急速に冷やされていく。


これで数時間は俺のフェロモンが暴走する危険はない。統が俺の気配を無自覚に探り、安堵するだけの「才能」の微量な残滓だけが俺の周辺に残るだろう。


俺は知っている。統のヒートサイクルが予定よりも早く、そして深刻に乱れ始めていることを。数日前の楽屋での律の不安や統の焦るような目の動きは、すべてそのサインだった。


(零のバイタルデータがどれほど「許容範囲」を示そうと律の直感は正しい。統の身体はもう限界だ)


統は俺のフェロモンを摂取することでわずかながら自分を保っている。その偽りの安息を崩すわけにはいかない。

遼は統の甘いフェロモンの幻影がよぎるたびその冷たい鎖をさらにきつく締め付けた。愛するΩをあえて飢えさせるという、この孤独で矛盾した支配こそが彼が統に与えられる唯一の「愛」だった。



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