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3話
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それから数日後の早朝。練習スタジオの床に座り、統統は鏡の前でストレッチをしながら身体の限界が近づいているのを感じていた。
ライブ後のオフ期間にもかかわらず連日のレッスンは続く。抑制剤を飲み続けているせいで、溜まった倦怠感は一向に抜けない。そして何よりも疲弊するのは遼の存在だった。
遼は統が疲弊していることを承知の上で統の集中力が途切れるたびに刺すような目線をこちらに向けて来る。その度統はどうしてここまで嫌な顔されてるのかわからず益々誤解を深めた。
(俺の集中力の乱れを遼は許さない。俺のキャリアのためなのか…?)
「統、今日はちょっと動きが硬いな。最終日の疲れが残ってるか?」
櫂は気づいてくれたが、βである彼には統のΩとしての隠された疲労、抑制剤がもたらす血中の冷えまでは決してわからない。
「大丈夫です、櫂さん。少しウォームアップが足りなかっただけです」
統はそう誤魔化し、すぐに遼から視線を逸らした。
律はストレッチのフリをして統のそばに近づいた。その顔には数日前から消えない不安が浮かんでいる。
「すばるくん、本当は痛いんじゃないの? 僕は数日前からすばるくんのフェロモンがずっと張り詰めているのを感じるよ」
律はΩとしての直感で統が感じている本能的な苦痛を察している。だが律自身が隠しΩであるため公然と助けを求めることもできない。二人の間の会話はいつも秘密の暗号のようだった。
律の言葉を聞きつけた零が二人の間に割って入る。
「日向さん、過度な会話は集中力を乱す。統さんの体調はオレが定時で記録しているバイタルデータに基づけば許容範囲だ。不要な感情論はここでは排除しろ」
そう間に入って律を諭す零。律のΩとしての直感は恐らく当たってるが、律の事情を知らない零からしたら「不要な感情論」として切り捨てるべきという言葉には一理ある言葉ではあった。律は事情が事情なだけあって言い返すことが出来ず、下を向いて黙り込むしかなかった。
それを見た統は安堵した。零の理詰めが律の感情的な介入を防いでくれたおかげで余計な心配をかけなくて良くなったからだ。
もし仮に強い抑制剤の使用と遼のフェロモンで耐えてたなんてわかったら何を言われるかわからないし、遼に至っては気持ち悪がられるだけだろう。
「ありがとう零。心配しなくて大丈夫だよ、律。もし何かあったらちゃんと言うから」
統は律を遠ざけ、意識を遼に向けた。
(遼、見ていろ。俺はお前のフェロモンがなくてもお前の才能に頼らずこの舞台で立ち続けてみせる)
統はそう心に決め、自分の身体に鞭を打ちまたレッスンを続けた。
レッスンも終わり帰ろうか~なんて話していた頃、レッスン室の扉が開く。
「やあ『メサイア』の諸君。元気にしていたかな?」
そんな陽気な声がしてくる。うちの社長だ。
「こんばんは、社長。丁度ダンスの練習が終わって帰ろうかなんて話をしてました。」
そう櫂がお得意の営業スマイルで話しかけに行くと、社長は櫂の方を見向きもせずこちらを見つめる。
「…統くん、君体調は大丈夫そうかな?なんだか顔が青白い気がするけど。遼やうちの子いるんだからちゃんとケアしてもらうんだよ。本番で倒れたりなんかしたらファンの子も心配になっちゃうからね」
と、釘を刺す社長。
正論に返す言葉も出なくて黙っているとつまんなさそうにスマホをいじっていた遼が顔を上げ言う。
「この間のライブ疲れとダンスの練習でバテちゃってるだけだから心配しなくても大丈夫ですよ。うちにはしっかりものの末っ子がいますし。」
そういいながら零に目線を向ける遼。
「そうだよ、俺がしっかりみんなの体調チェックしてるし人一倍ヒートやラットに関して耐性と知識があるんだから心配しないで」
「ふ~ん。ま、でも統と遼はうちのトップだからね。ついつい心配しちゃうのよ」
ヘラヘラしながら上から下まで舐めるように見てくる社長の目線にゾッとして目を逸らす。
それに知ってか知らずか急ににっこりして
「そういえばみんな、今度からNiiTubeの方でメサイアで配信することになったから覚えておいてね~」
手をヒラヒラとしながら捨て台詞を吐くかの如く去っていく。
…いや、一番大事なことでは!?
周りを見渡すとびっくりしている律と櫂、呆れる零、射貫かんばかりの強い視線を扉に向ける遼がいた。
(また明日から一波乱起きそうだな…)
胃が痛くなってきた。
ライブ後のオフ期間にもかかわらず連日のレッスンは続く。抑制剤を飲み続けているせいで、溜まった倦怠感は一向に抜けない。そして何よりも疲弊するのは遼の存在だった。
遼は統が疲弊していることを承知の上で統の集中力が途切れるたびに刺すような目線をこちらに向けて来る。その度統はどうしてここまで嫌な顔されてるのかわからず益々誤解を深めた。
(俺の集中力の乱れを遼は許さない。俺のキャリアのためなのか…?)
「統、今日はちょっと動きが硬いな。最終日の疲れが残ってるか?」
櫂は気づいてくれたが、βである彼には統のΩとしての隠された疲労、抑制剤がもたらす血中の冷えまでは決してわからない。
「大丈夫です、櫂さん。少しウォームアップが足りなかっただけです」
統はそう誤魔化し、すぐに遼から視線を逸らした。
律はストレッチのフリをして統のそばに近づいた。その顔には数日前から消えない不安が浮かんでいる。
「すばるくん、本当は痛いんじゃないの? 僕は数日前からすばるくんのフェロモンがずっと張り詰めているのを感じるよ」
律はΩとしての直感で統が感じている本能的な苦痛を察している。だが律自身が隠しΩであるため公然と助けを求めることもできない。二人の間の会話はいつも秘密の暗号のようだった。
律の言葉を聞きつけた零が二人の間に割って入る。
「日向さん、過度な会話は集中力を乱す。統さんの体調はオレが定時で記録しているバイタルデータに基づけば許容範囲だ。不要な感情論はここでは排除しろ」
そう間に入って律を諭す零。律のΩとしての直感は恐らく当たってるが、律の事情を知らない零からしたら「不要な感情論」として切り捨てるべきという言葉には一理ある言葉ではあった。律は事情が事情なだけあって言い返すことが出来ず、下を向いて黙り込むしかなかった。
それを見た統は安堵した。零の理詰めが律の感情的な介入を防いでくれたおかげで余計な心配をかけなくて良くなったからだ。
もし仮に強い抑制剤の使用と遼のフェロモンで耐えてたなんてわかったら何を言われるかわからないし、遼に至っては気持ち悪がられるだけだろう。
「ありがとう零。心配しなくて大丈夫だよ、律。もし何かあったらちゃんと言うから」
統は律を遠ざけ、意識を遼に向けた。
(遼、見ていろ。俺はお前のフェロモンがなくてもお前の才能に頼らずこの舞台で立ち続けてみせる)
統はそう心に決め、自分の身体に鞭を打ちまたレッスンを続けた。
レッスンも終わり帰ろうか~なんて話していた頃、レッスン室の扉が開く。
「やあ『メサイア』の諸君。元気にしていたかな?」
そんな陽気な声がしてくる。うちの社長だ。
「こんばんは、社長。丁度ダンスの練習が終わって帰ろうかなんて話をしてました。」
そう櫂がお得意の営業スマイルで話しかけに行くと、社長は櫂の方を見向きもせずこちらを見つめる。
「…統くん、君体調は大丈夫そうかな?なんだか顔が青白い気がするけど。遼やうちの子いるんだからちゃんとケアしてもらうんだよ。本番で倒れたりなんかしたらファンの子も心配になっちゃうからね」
と、釘を刺す社長。
正論に返す言葉も出なくて黙っているとつまんなさそうにスマホをいじっていた遼が顔を上げ言う。
「この間のライブ疲れとダンスの練習でバテちゃってるだけだから心配しなくても大丈夫ですよ。うちにはしっかりものの末っ子がいますし。」
そういいながら零に目線を向ける遼。
「そうだよ、俺がしっかりみんなの体調チェックしてるし人一倍ヒートやラットに関して耐性と知識があるんだから心配しないで」
「ふ~ん。ま、でも統と遼はうちのトップだからね。ついつい心配しちゃうのよ」
ヘラヘラしながら上から下まで舐めるように見てくる社長の目線にゾッとして目を逸らす。
それに知ってか知らずか急ににっこりして
「そういえばみんな、今度からNiiTubeの方でメサイアで配信することになったから覚えておいてね~」
手をヒラヒラとしながら捨て台詞を吐くかの如く去っていく。
…いや、一番大事なことでは!?
周りを見渡すとびっくりしている律と櫂、呆れる零、射貫かんばかりの強い視線を扉に向ける遼がいた。
(また明日から一波乱起きそうだな…)
胃が痛くなってきた。
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