デュエット・コード

蘿蔔

文字の大きさ
5 / 21

4話

しおりを挟む
社長が去った翌日から、メサイアは早速NiiTubeでの配信を開始した。


コンセプトは『メサイアの休憩時間』。ラフな部屋着姿でゲームや雑談を交わすアイドルとしては異例のカジュアルな企画だった。


配信の様子としては、普段クールなイメージの零がゲームで天然ボケを発揮し統が容赦なくツッコミを入れる姿がとても好評だった。かいの巧みな話術と律の愛嬌が更に『メサイアの休憩時間』を盛り上げ、遼は会話に混じりつつもコメント欄の動向や配信のテンポを常に把握し、時折統や日向のトークが長くなりすぎると「そろそろ次の話題へ行こう。」と冷静に軌道修正していた。

その行動の理由は統の体調を気遣い疲労を溜めさせないための遼なりのサポートでもあった。だがそんな話を統は知る術も無く。

そうしてMiiTubeで盛り上がりを見せていたある日の配信。櫂が画面に向かって手を振る。
「さて、皆さん。今日はなんとスペシャルゲストが来てくれています!」 


画面に現れたのは、統と同じ事務所のトップアイドル、藤堂 雅人ふじどう まさとだった。
彼はメサイアとは違い、正統派王子様路線を極めるαであり、その人気は国内外に及ぶ。


「こんばんは、皆さん。藤堂雅人です。メサイアの皆さんと一緒に配信できて光栄だよ」


藤堂はそう言いながら穏やかに微笑み、優雅なオーラを画面いっぱいに広げた。
思わぬ人物の登場にリスナー達の反応もいつもより一層と盛り上がっていた。


統は、配信を仕切る櫂の隣でマイクを握りながら冷静にトークを回す。
「まさか藤堂さんとご一緒できるとは。ファンの方も喜んでいるでしょうね」


統は雅人を前にしても臆することなくプロとしてのトークを維持する。

雅人は穏やかに、しかし芯のある声で語りかける。

「統くん、こちらこそメサイアの皆さんとこんな貴重な機会を頂けてとても嬉しいです。ここだけの話だけど、僕はメサイアさんの隠れファンなんだ。」
そう顔を赤くして話す雅人。

きっとお世辞だろうが、大先輩から「ファン」と言われる事は最大の褒め言葉だろうと感じ統の胸は嬉しさでいっぱいになった。

「特に僕は統くんの歌が好きで…。統くんの飾るステージがいつも完璧で君たちのライブを見る度に感心するんだよ。統くんがΩでセンターでいられるのは櫂くんや遼くんたちの支えがあるからなんだなって。」
ここまで俺達のグループが褒められると思わず照れる。

しんみりとした空気になった中でも雅人は構わず続け
た。
「でもあまり自分を酷使し過ぎるのは良くない。最高のパフォーマンスというのは心からリラックスできている時にこそ放たれる。自分を大切にしてこれからもメサイアの皆さんには頑張って欲しいです。」
またふんわりと王子様フェイスで微笑む。

リスナーも藤堂の言葉に感動して、『素敵過ぎる…』『一生ついて行きます!!』『神回』と各々様々な反応で盛り上がった。

一方統は藤堂の言葉で、Ωとしての苦悩を理解されたと感じた。人生の先輩としての気遣いが心に響き、温かい気持ちになった。
統はチラッと藤堂の方を見る。表情は静かで落ち着きがあり他者を威圧しない。圧倒的な穏やかさで皆を虜にしていた。

(こんな完璧なαが存在するんだな…)

人間として出来すぎている藤堂を目の前にして内心で遼と比べてしまう。
遼のαフェロモンは確かに倦怠感を吹き飛ばし統を機能させるが、それは統にとって効き目と引き換えに常に主導権を握られる独占欲という鎖として感じられていた。

一方藤堂は、フェロモンで権威を主張せず言葉だけで周囲に穏やかな安心感を与えている。
藤堂にも強大なα性を持つにもかかわらず、その力を優しさと配慮のために使う真の救世主のような人格を見てしまって統の心の中に一瞬だけ遼への「戸惑い」が生じた。

(遼のフェロモンは俺の身体を強制的に元気にしてくれる作用がある。でも藤堂さんの雰囲気は、俺の心を安らげる居場所のように感じる。) 


その時画面の端で静かにゲームコントローラーを握っていた遼が統に顔を向けた。
遼は配信中、雅人のトークを邪魔することはなかったが統が雅人に心を開いていく様子を冷たい視線で追っていた。

藤堂が統に質問を振った際、統が少し言葉に詰まると遼は画面の外から統の脇腹をそっと小突き、すぐにマイクを引き取る。

「統、そろそろ休憩モードの雑談に戻すぞ。ゲストを巻き込みすぎだ」
遼はそう言うと、統の手元にあるマイクを奪い取った。


画面越しには統の集中力を維持するためのサポートに見えるだろう。統もプロとして遼に感謝の目線を送る。
それを見た遼はマイクを握りながら統に向けて穏やかな顔で微量のαフェロモンを意図的に放った。

それは、統の疲労感を和らげ「俺がお前の傍にずっといる」という無言の独占欲を統にとって心地よい安息として刻み込むためだ。


統はフェロモンによる快感と安心を覚える一方で、遼の突然のフェロモンに背後に支配的な感情が潜んでいるのではないかと感じ取った。遼のこの行動は、統の心に微かな動揺と疑問を生み出す結果となってしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

起きたらオメガバースの世界になっていました

さくら優
BL
眞野新はテレビのニュースを見て驚愕する。当たり前のように報道される同性同士の芸能人の結婚。飛び交うα、Ωといった言葉。どうして、なんで急にオメガバースの世界になってしまったのか。 しかもその夜、誘われていた合コンに行くと、そこにいたのは女の子ではなくイケメンαのグループで――。

隣の番は、俺だけを見ている

雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。 ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。 執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。 【キャラクター設定】 ■主人公(受け) 名前:湊(みなと) 属性:Ω(オメガ) 年齢:17歳 性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。 特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。 ■相手(攻め) 名前:律(りつ) 属性:α(アルファ) 年齢:18歳 性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。 特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。

生意気Ωは運命を信じない

羊野迷路
BL
小学生の時からかっていた同級生と、進学校(自称)である翠鳳高校で再会する。 再会した元同級生はαとなっており、美しさと男らしさを兼ね備えた極上の美形へと育っていた。 *のある話は背後注意かもしれません。 独自設定ありなので1話目のオメガバースの設定を読んでから進んでいただけると理解しやすいかと思います。 読むのが面倒という方は、 1、Ωは劣っているわけではない 2、αかΩかは2つの数値によりβから分かれる 3、Ωは高校生以上に発覚する事が多い この3つを覚えておくと、ここでは大体大丈夫だと思われます。 独自設定部分は少しいじる事があるかもしれませんが、楽しんで頂けると幸いです。 追記 受けと攻めがくっつくのはまだ先になりますので、まったりお待ちください。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

【完結】番になれなくても

加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。 新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。 和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。 和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた── 新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年 天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年 ・オメガバースの独自設定があります ・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません ・最終話まで執筆済みです(全12話) ・19時更新 ※なろう、カクヨムにも掲載しています。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

処理中です...