デュエット・コード

蘿蔔

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12話

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遼を追い出した翌日。統の身体は熱く火照っていた。


(まただ...)


統の身体が、制御を失ったヒートの予兆を訴えている。今日は偶々休みだったが遼にヒートの連絡は入れるべきなのはわかっている。けれど昨日の喧嘩をまだ引きずっており「裏切られた」という絶望から、遼に連絡を入れるのをやめてしまった。

ふと外を見ると、昨日の喧嘩など何もなかったかのように静かな朝の光が差し込んできた。一方で、統の体内で蠢く熱は昨夜の出来事の傷跡そのものだった。


(俺は、また同じ過ちを繰り返したんだ。αを信じようとした。遼なら違うと、一人の人間としての愛を選んでくれると思ったのに。)

遼の「事故で...」という弁解も、統の脳裏では過去にαに裏切られた際の言い訳と重なって聞こえた。微かなΩの匂い。その小さな証拠が、長年かけて統が築いてきた遼への信頼を脆くも崩壊させてしまったのだ。


(結局俺の身体が遼のα性に従っているように、遼の心は運命という名の本能に従っているだけ。実際、俺に熱烈な告白をした翌日には他のΩと接触しているのがそれが答えになるだろう。例えそれが事故だろうが何だろうが、俺を本気で愛しているなら、そんなリスクは回避するはずだと俺は考えているから。)


統は、ソファに沈み込みながら、うなじをそっと撫でる。チョーカーの下の皮膚が、じんじんと熱く火照る。遼のフェロモンを「薬」として必要とする自分自身が、情けなくて泣きそうになる。


(遼は、俺を『アイドルとして機能させるための道具』だと割り切っている。だから、他のΩの匂いをつけたまま俺のところへ来た。俺のヒートを止める義務だけを果たしに来たんだ。)

ならば、もう遼には頼らない。この熱がどれほど辛くても、あのキスで一時的に安息を得たとしても、これ以上遼の「愛」という名の支配に身を委ねたくなかった。αへの不信感と、自己嫌悪、そして裏切られた愛の痛みが、統の理性を支配していた。


(大丈夫。病院から処方された抑制剤は切れているけど、緊急用に買っておいた市販薬がある。あれは効きが弱いけど、時間を稼ぐくらいはできる。この熱を、誰にも知られずにやり過ごすんだ。そして、遼の告白の返事もヒートが治まったら終わらせるんだ。)


家にある作り置きのごはんを食べて、市販の抑制剤を飲み込む。きっと起きるころには酷くなっているだろうから今のうちに寝ることにした。あの後からスマホに遼からの連絡がわんさか来ていて見るのが辛かったから電源を切ってベッドに入り目を閉じた。





汗がびっしょりになったのに気づいて起きると、ヒートは朝より酷くなっており、体の芯からの熱さと自分のαへの渇望でフラフラしていた。

壁に手をついてなんとかリビングに入る。冷蔵庫にある水をゴクゴクと飲むとさっきよりは体の熱が逃げていくのがわかる。


その時スマホの存在を思い出す。明日はメサイアのみんなで集まる予定があったので櫂さんに連絡しないといけない。電源ボタンを押して起動させると、大量の連絡と珍しく藤堂さんからの連絡が来ていた。

メッセージには『久しぶり。元気にしてたかな?気になることもあるし電話出来たらなって思うんだけどどうかな?』と来ていた。


(ヒートが来てる中出るのはどうなんだ…?)

そう考えていると、既読に気づいたのかスマホに着信が来る。

画面を見ると「藤堂 雅人」の文字。統は未だ冷めない熱に朦朧としつつ、無意識に電話に出てしまった。


「はい...、藤堂、さん...」

統の掠れた声は、すでにヒート特有の甘く誘う響きを帯びていた。電話の向こうの藤堂は、穏やかだが少し驚いた声で答える。

「統くん? 大丈夫かい? 声がいつもと違うけど...。急に連絡してごめんね。今なら大丈夫かと思って…」

「ぁ...、ごめ、んなさい...、少し、体調、が...」


統はそれ以上言葉を続けることができず、ただ苦しさに喘いだ。

「いいんだよ、僕がちゃんとメッセージ待てばよかったんだから。それより体調は大丈夫?抑制剤飲んだ?」

「ぁ…さっき、のんで…」

そうたどたどしく答えると、藤堂は意を決したかのように切り出す。


「統くん、君には今パートナーのαは居るのかい?」

「………え?」

突然の質問に思わず顔を顰める。オメガだのアルファだのに関心の無さそうな藤堂から出てきたのが意外だったからだ。


「ぇ…あ、いや、あの………」

遼との関係が秘匿なので「いる」とも「いえない」とも言えずどもってしまう。

「もしいないんなら僕が症状軽くしてあげれるよ。もちろん統くんが良いって言うならだけどね。僕は君の事気に入ってるし…」

「でも藤堂さん…俺は」

そこで「申し訳ないのでお断りします。」と発しようとした瞬間。


「統…!!」

後ろには怒りを露わにした遼が俺のスマホを奪っていた。

「藤堂さん。来なくて結構です、俺がいるんで。」

そう言って電話を切る遼。


「統、どういうことか説明してくれるよな?」
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