ママチャリごと召喚された私は異世界を子連れで爆走する

和ともなか

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ラストスパートだと信じたい

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「敵だろうが味方だろうが避ければいいのよ。無理なら突っ切ればいいのよ」

 自分に言い聞かせるように呟いてから、私は自転車ごと屋根から飛び降りた。
 着地すると同時に猛然と足を動かす。どういう仕組みかわからないが、いまだに足に疲労は感じられない。

「どいてどいてどいてー!」

 猛然と土煙を立てて接近する私たちに、交戦していた騎士たちがギョッとしたように動きを止める。そのすきに横をすり抜けていく。
 半分破壊された大きな門をくぐったが、こちらを狙う魔法使いに気づき、発動する前に急ハンドルで死角になる方へと走る。

「正面突破は無理っぽい」
『侵入出来るルートを検索、設定します』

 ナビの光の道から逸れ、建物を右手に庭木の間を縫うように進んでいると、進行方向に光の道が新たに出現したのだが――。

「うわっ直角に曲がってる!」

 急ブレーキをかけながらハンドルを切る。
 土埃を立てながら車輪がザザッと派手に音を立てて滑る。
 生まれて初めてのドリフトに感動する間もなく、方向が変わった瞬間ペダルを踏みこむ。
 だってナビが示す1階テラスの窓が、頑丈な扉で封鎖されそうになってるから!

「窓開いてないけど、どうするの!?」
『このまま体当たりで破ってください。今回は緊急事態ですからね、普段は不必要に――』

 ガッシャーン! パリンパリン
 
 アシがしゃべり終わる前に突入を果たす。なんか騒いでるけどゴメンね、たぶん味方の人達。こちとら時間がないのよ。

 高そうな置物や絵画を飾った廊下を自転車で走る。縦横に無駄に広いが自転車で進めるのはありがたい。

「父親どこよ?」

 交戦している箇所を避けているのか、やたら何度も曲がらされ、大理石っぽい大階段の下に着いた。光の道は階段の上に伸びている。

 え…階段のぼるの?

 一瞬どうしようかと停止した時だ。
 サイラス様! と叫びながらメイド服の女性が飛び出してきた。

「サイラス様、こちらでございます。こちらに旦那様が」

 メイドが階段横にある廊下を指さす。
 えっ階段のぼらなくていいの? もしやそっちに近道の入口があるとか?
 時間がないので全速力で近づくと、ドンッと衝撃音と共にメイドが吹っ飛んだ。

「くっおまえもか! おまえも敵か! ちょっとでも楽しようと思った自分が憎い」

 く~~っと悔しさに顔を顰めながら自転車から下りる。

「持ち上げられるかな…」
『身体強化してるので余裕ですよ。でも外壁のぼれたんだから階段くらい』
「いや、一旦止まったらあんなの無理だから。あれ、心身の負担が半端ないから」

 かなりの重さを想像しながら持ち上げると、ひょいっと持ち上がった。あ、これなら行ける。

「サイラスくん、このまま階段あがるから、ちょっと揺れるよ」

 振り向いて声をかけると、険しいお顔だけど素直に頷く。大丈夫、目の輝きは失われていない。なんて強い子。
 身体強化は伊達じゃないらしく、すたすたと階段をあがる。
 2階に到着して、また自転車にまたがる。

「よし、あとちょっとじゃないかな」

 と思ったのだが、部屋に入って違うドア出て下に降りて、またちょっと先にあった部屋に入って階段をあがったりと、なかなか父親の元に着かない。

「サイラスくんのお父さん、いったいどんなとこで暮らしてんのさ」

 自転車を抱えながら、階段をのぼる。これでおそらく5階に到着する。

『真奈様、残り15分を切りました』
「うそでしょ……」

 メイドすら信用ならない館の中で、幼児一人を放り出したくはない。出来れば父親へ直接手渡したい。
 階段をのぼりきり、はあ…と一息つきながら扉を開けると、空気が変わった。

「ここは通さんぞ」

 低く鋭利な声にハッとして顔をあげると、すぐ前に大男が槍をこちらに構えて立っていた。

「トニー!」

 背後から甲高い声があがる。
 反射的に振り返れば、サイラスくんの顔が輝いている。あ、知り合い?
 
「サイラス様! きさま、坊ちゃまをどうする気だ?」

 大男が槍を向けて、私に殺気を放つ。結界あるから大丈夫…ってこの人の槍、3mの結界内に入ってない? 味方なのに生命の危機!

「ちょっ誤解! 私は父親に届けるように頼まれて」
「トニー てき ちがう! ポットのせいれいさまだよ!」

 慌てて弁解すると、サイラスくんも加勢してくれた。
 うん、そうだったね。私ったら、ポットという名の急須で呼び出されたらしいよね。

「なんと…ポットの精霊様でしたか! ということは奥方様は…いや、今は考えまい。どうぞこちらへ」

 もう自転車から下ろしても大丈夫だろうかと、ふと頭をよぎったが、すぐに打ち消す。ここで気を抜いて子どもを危険にさらすのはダメ。
 どうせ廊下も扉も日本のサイズより大きいんだから、自転車ごとでいいでしょ。
 私はサイラスくんを乗せたまま、自転車を押して後をついていった。
 
 窓のない、これまで通ってきた廊下よりも狭い廊下を進めば、今までの扉よりも随分と簡素な扉の前で大男が立ち止まる。
 
「ここから先は公爵家の者しか入れません。精霊様といえど、お控えください」

 大男のトニーが、私に向かって頭を下げる。
 
「はあ? こんな小さな子に1人で入っていけって言うの?」
「その扉にはそういう魔法が施されているのです」
「だったら父親呼んできて」
「旦那様は中でお待ちです」
「実際に見ないと信用できないわ」

 確かに光の道は、この扉の向こうへと伸びている。
 でも、中にいるのが父親だけとは限らないでしょ。敵がまぎれてたらどうするの!

『真奈様、残り5分です』

 アシが淡々と無情に告げる。
 あーもう腹立たしくて泣きそう!

「魔法魔法って…ちょっとアシ、父親呼ぶ魔法ないの!?」

 やけくそで叫んだ時だ。目の前の扉がゆっくりと開き始めた。

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