5 / 6
ラストスパートだと信じたい
しおりを挟む
「敵だろうが味方だろうが避ければいいのよ。無理なら突っ切ればいいのよ」
自分に言い聞かせるように呟いてから、私は自転車ごと屋根から飛び降りた。
着地すると同時に猛然と足を動かす。どういう仕組みかわからないが、いまだに足に疲労は感じられない。
「どいてどいてどいてー!」
猛然と土煙を立てて接近する私たちに、交戦していた騎士たちがギョッとしたように動きを止める。そのすきに横をすり抜けていく。
半分破壊された大きな門をくぐったが、こちらを狙う魔法使いに気づき、発動する前に急ハンドルで死角になる方へと走る。
「正面突破は無理っぽい」
『侵入出来るルートを検索、設定します』
ナビの光の道から逸れ、建物を右手に庭木の間を縫うように進んでいると、進行方向に光の道が新たに出現したのだが――。
「うわっ直角に曲がってる!」
急ブレーキをかけながらハンドルを切る。
土埃を立てながら車輪がザザッと派手に音を立てて滑る。
生まれて初めてのドリフトに感動する間もなく、方向が変わった瞬間ペダルを踏みこむ。
だってナビが示す1階テラスの窓が、頑丈な扉で封鎖されそうになってるから!
「窓開いてないけど、どうするの!?」
『このまま体当たりで破ってください。今回は緊急事態ですからね、普段は不必要に――』
ガッシャーン! パリンパリン
アシがしゃべり終わる前に突入を果たす。なんか騒いでるけどゴメンね、たぶん味方の人達。こちとら時間がないのよ。
高そうな置物や絵画を飾った廊下を自転車で走る。縦横に無駄に広いが自転車で進めるのはありがたい。
「父親どこよ?」
交戦している箇所を避けているのか、やたら何度も曲がらされ、大理石っぽい大階段の下に着いた。光の道は階段の上に伸びている。
え…階段のぼるの?
一瞬どうしようかと停止した時だ。
サイラス様! と叫びながらメイド服の女性が飛び出してきた。
「サイラス様、こちらでございます。こちらに旦那様が」
メイドが階段横にある廊下を指さす。
えっ階段のぼらなくていいの? もしやそっちに近道の入口があるとか?
時間がないので全速力で近づくと、ドンッと衝撃音と共にメイドが吹っ飛んだ。
「くっおまえもか! おまえも敵か! ちょっとでも楽しようと思った自分が憎い」
く~~っと悔しさに顔を顰めながら自転車から下りる。
「持ち上げられるかな…」
『身体強化してるので余裕ですよ。でも外壁のぼれたんだから階段くらい』
「いや、一旦止まったらあんなの無理だから。あれ、心身の負担が半端ないから」
かなりの重さを想像しながら持ち上げると、ひょいっと持ち上がった。あ、これなら行ける。
「サイラスくん、このまま階段あがるから、ちょっと揺れるよ」
振り向いて声をかけると、険しいお顔だけど素直に頷く。大丈夫、目の輝きは失われていない。なんて強い子。
身体強化は伊達じゃないらしく、すたすたと階段をあがる。
2階に到着して、また自転車にまたがる。
「よし、あとちょっとじゃないかな」
と思ったのだが、部屋に入って違うドア出て下に降りて、またちょっと先にあった部屋に入って階段をあがったりと、なかなか父親の元に着かない。
「サイラスくんのお父さん、いったいどんなとこで暮らしてんのさ」
自転車を抱えながら、階段をのぼる。これでおそらく5階に到着する。
『真奈様、残り15分を切りました』
「うそでしょ……」
メイドすら信用ならない館の中で、幼児一人を放り出したくはない。出来れば父親へ直接手渡したい。
階段をのぼりきり、はあ…と一息つきながら扉を開けると、空気が変わった。
「ここは通さんぞ」
低く鋭利な声にハッとして顔をあげると、すぐ前に大男が槍をこちらに構えて立っていた。
「トニー!」
背後から甲高い声があがる。
反射的に振り返れば、サイラスくんの顔が輝いている。あ、知り合い?
「サイラス様! きさま、坊ちゃまをどうする気だ?」
大男が槍を向けて、私に殺気を放つ。結界あるから大丈夫…ってこの人の槍、3mの結界内に入ってない? 味方なのに生命の危機!
「ちょっ誤解! 私は父親に届けるように頼まれて」
「トニー てき ちがう! ポットのせいれいさまだよ!」
慌てて弁解すると、サイラスくんも加勢してくれた。
うん、そうだったね。私ったら、ポットという名の急須で呼び出されたらしいよね。
「なんと…ポットの精霊様でしたか! ということは奥方様は…いや、今は考えまい。どうぞこちらへ」
もう自転車から下ろしても大丈夫だろうかと、ふと頭をよぎったが、すぐに打ち消す。ここで気を抜いて子どもを危険にさらすのはダメ。
どうせ廊下も扉も日本のサイズより大きいんだから、自転車ごとでいいでしょ。
私はサイラスくんを乗せたまま、自転車を押して後をついていった。
窓のない、これまで通ってきた廊下よりも狭い廊下を進めば、今までの扉よりも随分と簡素な扉の前で大男が立ち止まる。
「ここから先は公爵家の者しか入れません。精霊様といえど、お控えください」
大男のトニーが、私に向かって頭を下げる。
「はあ? こんな小さな子に1人で入っていけって言うの?」
「その扉にはそういう魔法が施されているのです」
「だったら父親呼んできて」
「旦那様は中でお待ちです」
「実際に見ないと信用できないわ」
確かに光の道は、この扉の向こうへと伸びている。
でも、中にいるのが父親だけとは限らないでしょ。敵がまぎれてたらどうするの!
『真奈様、残り5分です』
アシが淡々と無情に告げる。
あーもう腹立たしくて泣きそう!
「魔法魔法って…ちょっとアシ、父親呼ぶ魔法ないの!?」
やけくそで叫んだ時だ。目の前の扉がゆっくりと開き始めた。
自分に言い聞かせるように呟いてから、私は自転車ごと屋根から飛び降りた。
着地すると同時に猛然と足を動かす。どういう仕組みかわからないが、いまだに足に疲労は感じられない。
「どいてどいてどいてー!」
猛然と土煙を立てて接近する私たちに、交戦していた騎士たちがギョッとしたように動きを止める。そのすきに横をすり抜けていく。
半分破壊された大きな門をくぐったが、こちらを狙う魔法使いに気づき、発動する前に急ハンドルで死角になる方へと走る。
「正面突破は無理っぽい」
『侵入出来るルートを検索、設定します』
ナビの光の道から逸れ、建物を右手に庭木の間を縫うように進んでいると、進行方向に光の道が新たに出現したのだが――。
「うわっ直角に曲がってる!」
急ブレーキをかけながらハンドルを切る。
土埃を立てながら車輪がザザッと派手に音を立てて滑る。
生まれて初めてのドリフトに感動する間もなく、方向が変わった瞬間ペダルを踏みこむ。
だってナビが示す1階テラスの窓が、頑丈な扉で封鎖されそうになってるから!
「窓開いてないけど、どうするの!?」
『このまま体当たりで破ってください。今回は緊急事態ですからね、普段は不必要に――』
ガッシャーン! パリンパリン
アシがしゃべり終わる前に突入を果たす。なんか騒いでるけどゴメンね、たぶん味方の人達。こちとら時間がないのよ。
高そうな置物や絵画を飾った廊下を自転車で走る。縦横に無駄に広いが自転車で進めるのはありがたい。
「父親どこよ?」
交戦している箇所を避けているのか、やたら何度も曲がらされ、大理石っぽい大階段の下に着いた。光の道は階段の上に伸びている。
え…階段のぼるの?
一瞬どうしようかと停止した時だ。
サイラス様! と叫びながらメイド服の女性が飛び出してきた。
「サイラス様、こちらでございます。こちらに旦那様が」
メイドが階段横にある廊下を指さす。
えっ階段のぼらなくていいの? もしやそっちに近道の入口があるとか?
時間がないので全速力で近づくと、ドンッと衝撃音と共にメイドが吹っ飛んだ。
「くっおまえもか! おまえも敵か! ちょっとでも楽しようと思った自分が憎い」
く~~っと悔しさに顔を顰めながら自転車から下りる。
「持ち上げられるかな…」
『身体強化してるので余裕ですよ。でも外壁のぼれたんだから階段くらい』
「いや、一旦止まったらあんなの無理だから。あれ、心身の負担が半端ないから」
かなりの重さを想像しながら持ち上げると、ひょいっと持ち上がった。あ、これなら行ける。
「サイラスくん、このまま階段あがるから、ちょっと揺れるよ」
振り向いて声をかけると、険しいお顔だけど素直に頷く。大丈夫、目の輝きは失われていない。なんて強い子。
身体強化は伊達じゃないらしく、すたすたと階段をあがる。
2階に到着して、また自転車にまたがる。
「よし、あとちょっとじゃないかな」
と思ったのだが、部屋に入って違うドア出て下に降りて、またちょっと先にあった部屋に入って階段をあがったりと、なかなか父親の元に着かない。
「サイラスくんのお父さん、いったいどんなとこで暮らしてんのさ」
自転車を抱えながら、階段をのぼる。これでおそらく5階に到着する。
『真奈様、残り15分を切りました』
「うそでしょ……」
メイドすら信用ならない館の中で、幼児一人を放り出したくはない。出来れば父親へ直接手渡したい。
階段をのぼりきり、はあ…と一息つきながら扉を開けると、空気が変わった。
「ここは通さんぞ」
低く鋭利な声にハッとして顔をあげると、すぐ前に大男が槍をこちらに構えて立っていた。
「トニー!」
背後から甲高い声があがる。
反射的に振り返れば、サイラスくんの顔が輝いている。あ、知り合い?
「サイラス様! きさま、坊ちゃまをどうする気だ?」
大男が槍を向けて、私に殺気を放つ。結界あるから大丈夫…ってこの人の槍、3mの結界内に入ってない? 味方なのに生命の危機!
「ちょっ誤解! 私は父親に届けるように頼まれて」
「トニー てき ちがう! ポットのせいれいさまだよ!」
慌てて弁解すると、サイラスくんも加勢してくれた。
うん、そうだったね。私ったら、ポットという名の急須で呼び出されたらしいよね。
「なんと…ポットの精霊様でしたか! ということは奥方様は…いや、今は考えまい。どうぞこちらへ」
もう自転車から下ろしても大丈夫だろうかと、ふと頭をよぎったが、すぐに打ち消す。ここで気を抜いて子どもを危険にさらすのはダメ。
どうせ廊下も扉も日本のサイズより大きいんだから、自転車ごとでいいでしょ。
私はサイラスくんを乗せたまま、自転車を押して後をついていった。
窓のない、これまで通ってきた廊下よりも狭い廊下を進めば、今までの扉よりも随分と簡素な扉の前で大男が立ち止まる。
「ここから先は公爵家の者しか入れません。精霊様といえど、お控えください」
大男のトニーが、私に向かって頭を下げる。
「はあ? こんな小さな子に1人で入っていけって言うの?」
「その扉にはそういう魔法が施されているのです」
「だったら父親呼んできて」
「旦那様は中でお待ちです」
「実際に見ないと信用できないわ」
確かに光の道は、この扉の向こうへと伸びている。
でも、中にいるのが父親だけとは限らないでしょ。敵がまぎれてたらどうするの!
『真奈様、残り5分です』
アシが淡々と無情に告げる。
あーもう腹立たしくて泣きそう!
「魔法魔法って…ちょっとアシ、父親呼ぶ魔法ないの!?」
やけくそで叫んだ時だ。目の前の扉がゆっくりと開き始めた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜
山いい奈
ファンタジー
味噌蔵の跡継ぎで修行中の相葉壱。
息抜きに動物園に行った時、仔カピバラに噛まれ、気付けば見知らぬ場所にいた。
壱を連れて来た仔カピバラに付いて行くと、着いた先は食堂で、そこには10年前に行方不明になった祖父、茂造がいた。
茂造は言う。「ここはいわゆる異世界なのじゃ」と。
そして、「この食堂を継いで欲しいんじゃ」と。
明かされる村の成り立ち。そして村人たちの公然の秘め事。
しかし壱は徐々にそれに慣れ親しんで行く。
仔カピバラのサユリのチート魔法に助けられながら、味噌などの和食などを作る壱。
そして一癖も二癖もある食堂の従業員やコンシャリド村の人たちが繰り広げる、騒がしくもスローな日々のお話です。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる