ペットになった

アンさん

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ヒトを買う

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「この店で1番静かなヒトをくれ」


疲れきり、クマのできた顔で入ったのは多くの店が立ち並ぶ中の一店舗。


ペットショップ『ヒト売り屋・ラヴィ』。


「1番静かな子・・・ですか?」


「あぁ、そうだ」


ガラスウインドウの向こうでは、何やら吠え暴れまくるヒトの姿。


静かな、出来れば多少吠えてもいいから暴れることの無いヒトがいい。


「えーっと・・・その、静か、とは」


「暴れない奴だ。声量も小さい方がいい」


こめかみに指を当て考え込む店員に、まさか存在しないとは言わないだろう、と思考する。


「でしたら、こちらのベイ種など如何ですか?他の子に比べて声量は大きくありませんよ」


そう言って店員が指さしたのは、眉間に皺を寄せ唸る金髪のメス。


「1番暴れない奴は?声量は二の次でいい」


「・・・あの、暴れた時の無い子なら居るのですが、その・・・訳ありの子になりまして・・・保護個体で、今の所吠えた時も鳴いた時も有りませんので声量は分かりませんが」


「そいつはどれだ?」


スっとカウンターの前の席に案内され椅子に座る。


「少しお待ちください。連れて参りますので」


そう言って裏方に入っていった店員が連れてきたのは、黒い毛玉の様なものだった。


ギュッとタオルケットを握り締め、体を丸めた状態で、黒くて長い髪のせいで顔は分からないが、体は痩せこけているように見える。


「こちらのヒトはニチ種と呼ばれる種類でして、他の種類に比べて吠える頻度は低いです。痩せこけていますが、これでも保護当初よりは肉付きは良くなってきています。これからの出費が他の子達に比べて多くなると思われますので、オススメは致しませんが」


そう言ってカウンター上に毛玉を置くと、ツンツンとつつく。


モゾモゾとゆっくり動いた毛玉はキョロキョロと周りを見た後に俺と目を合わせた。


「ん、ん?」


頭を傾げ静かに鳴いた声に、この子にしようと思った。


「コイツにする」


「よろしいのですか?」


訳あり書類に目を通し、オプションの毛のカットと予防接種全種を選択する。


「後、必要最低限の飼育道具を適当に」


「かしこまりました。引渡しは明日の夕方以降になりますが、いつ頃来ていただけますでしょうか?」


「明後日の朝一に」


「はい、かしこまりました。では、コチラの・・・」


書類やら説明やらを軽く流し、専門医師と店員の名刺を貰い会計を済ませ、領収書と引渡し証を受け取る。


・・・普通のヒトより断然安い。


まぁ、それもそうだろう。


保護個体と言っていたし、請求内容は殆ど治療料金と書いてあったから察しはついていたが。


まぁ、普通ヒトは吠える事こそが元気な証拠だと言うし、吠えないからという事もあるのだろうが。


でも、それでいい。


今の俺に必要なのは、元気溢れるペットではなくーーーー。


    
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