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クロを考察
しおりを挟む胸元でさっき貰った匂い玉を必死に嗅ぐクロを連れ、今度はチョーカーを売っている「ピーファール」へと向かう。
装飾品に興味の無いクロは店内に入っても特に反応を示さない。
「はーい、本日はどのような品をお探しに?」
「このヒトに付けるチョーカーを少し」
近くにあるショーケースから順に見ていく。
今のと代わり映えしない物ばかりだな。
もう少し、何か目を引くものがあればな……。
店内を練り歩くがあまりピンとくる物が無く、ため息をひとつこぼした。
「えーっと、何か、気になる物は?」
「特に無いな。今付けている物とそう変わらないし。邪魔したな」
他にも装飾品を扱う店があったはずだ。
そっちで見繕うか。
「あ、あの、少し、すこーしだけ待っててください」
店を出ようとしたら引き止められ、店員はガタガタと鍵の閉まっていた棚を開け何か物色しだした。
まぁ、急ぎはしないし良いのだが。
だがもう少ししたら食事を摂りに行かないとな。
折角食事を摂ってくれるようになったんだ。
何かクロの好物で且つ豪勢なものを探さないと。
あと甘味か。
既に匂いで満足そうにしているが、匂いじゃ腹は膨れないし栄養にもなりはしない。
近くに椅子に腰掛けクロの頬を撫でてやると、クロは目を細め少し口角を上げた。
目を細めるのは良い傾向だ。
最近は目を見開いて警戒していたからな。
クロにも警戒する能力が備わっていた事に気付けて良かったが、あの状態は宜しくない。
今みたいに懐いている……懐いている?
ヒトが、懐くものなのか?
クロはヒトらしくないが…一応ヒトだ。
喉を鳴らし俺の手にマーキングするクロを見て、頭に疑問符が浮かぶ。
これは……甘えているんだよな?
甘えるという事は、懐いているという事、か?
まぁ、良いか、何でも。
俺の服を強く掴み、首元に顔を埋めたクロの項から後頭部をゆっくり撫でてやる。
撫でられるのが好きで、抱っこも好き。
お昼寝が好きだったし、散歩も好きだった。
鈴と喉を鳴らし、2足で歩いて俺らと同じように手を使う。
俺と自分の名前を喋れて、簡単な合図や単語をすぐに覚えた。
普通のヒトとは違う、ヒト。
他のヒトには目もくれず、構ってくれる人に対してはかなり友好的だ。
俺以外には自分から手を伸ばさず、相手からの行為を享受する。
人への好みがあり、対応はかなり極端に別れる。
暴れはしないが、今は…暴力的思考を持っているのかもしれない。
鳴き叫ばないが、小さく鳴き時折唸る。
……ヒト……か。
どこに行っても驚かれるクロの所作と態度。
エミュウでも驚かれた静寂さと賢明さ。
クロ。
お前は俺の願いを叶えてくれた。
だから、俺はお前を終生飼育すると決めたし、何不自由無い生活を送らせたい。
お前は、何を望む?
こういう時、言葉が通じると良いのに。
誰かの視線を感じ目を向けると、店員がこちらを見ていた。
「あの、えっと…コチラは、どうかな、と」
店員の持っているものを見ると……成程。
またもこれはヒトに向かない物だな。
少し細い黒いチョーカー。
リードを付けれるものを首輪、リードを付けるのではなく一体型若しくは付けられ無い物をチョーカーと区別するが、これは…チョーカー、だよな?
ピッタリと肌に張り付く物ではないとヒトは隙間に爪を立て簡単に壊してしまう。
このチョーカーは、ゆったりとしたリボンに近い形状をしている。
「その子なら、付けられると、思ったのだけれど…どうかしら?」
視線がうろついているのは何故だ?
渡されたチョーカーをクロに見せると、頭を傾げてから上を向いた。
外しやすいように自ら上を向くなんて、とても賢いだろう?
付けているチョーカーを外し、渡されたチョーカーを付けてみる。
触り心地は悪くなかった。
匂い玉を付けられるフックも付いているし、黒いのも良い。
クロは店員が持ってきた鏡で自分の首元を見てユラユラと横に揺れた。
「ん?んー、んん」
クロが揺れる度、チョーカーも少し動く。
似合っているが、クロはどう思っているのか。
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