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クロの好み
しおりを挟む運転手の山羊人が言っていた香屋に着き店内に入ると、様々な匂いが漂っていた。
嫌な匂いではないが…強い匂いに少し酔いそうだ。
「すー、はー」
クロには丁度良いらしく深呼吸をして匂いに酔いしれている。
「いらっしゃいませ」
店員の勧めを聞きながらクロに匂いを嗅がせて、好みの物を調べていく。
「コチラは最近良くヒトに気に入ってもらえるものです」
そう言って出された物に、クロはフイっと顔を逸らした。
「あら、気に召さなかったかしら…コチラはどうかしら?」
クロはまた顔を逸らした。
どうやら、あまり刺激のある物は嫌いなようだな。
「店内の香りに反応していましたし、花の香りが好きなのかしら」
パタパタと走り違う棚から3つ程持ってきた。
「コチラはどうかしら?」
今度は顔を逸らさずしきりに匂いを嗅いでいる。
「あら、やっぱり。ならコチラは?」
店員が2人がかりであれこれとクロに匂いを嗅がせていく。
クロは嫌いな物には顔を逸らし、興味の無い物はさっさと店員に返し、好きな物はずっと匂いを嗅いでいる。
特に反応を示したのは、ラベンダーとジャスミン、桃と檸檬の匂いだった。
匂いを混ぜ合わせた物にも数個反応していた。
「あらあら、好まれにくい物ばかり…なら、アレは?ほら、密閉した物あったじゃない?」
「ああ、アレ。どうなのかしら?」
そう2人で話し合い、1人が奥から鍵の掛けられた瓶を持ってきた。
「それは何だ?」
「これはですね…ヒトが1番好まない物です。正直私達は好きな方なのですが、何故かヒトは強く反応して離れようとするんです。この子、ヒトが好まない物が好きそうなので、1度試してみようと思いまして」
……クロはゲテモノ好きみたいな立ち位置なのか?
はぁぁ、と満足そうに息を吐いているクロの前で、カポッと密閉されていた物が開いた。
「きゅ、くーん、くるるるる」
瓶を受け取り今までで1番反応良く匂いを嗅いでいる。
「あら、やっぱり。ふふ」
「いい匂いだもの。ヒトの中にも分かる子が居たのね」
「これは……バニラか?」
「ええ、そうです。ヒトは食べ物は食べるのですが、こう、匂いだけの物はあまり好まない様ですね」
甘い物が好きなクロだ。
口の中が涎で溢れないと良いが。
くるるくるると喉を鳴らし一生懸命匂いを嗅いでいる。
「匂いは何に付けれる?」
「そうですね…飼い主にもよりますが、主に消臭剤に混ぜて使われる方が多いですね。石鹸にも出来ますし、芳香剤としても使えます。柔軟剤に混ぜると、服にも匂いを付けれますよ」
「くくくく、くる、きゅきゅ」
顔を近づけこれでもかと匂いを嗅ぐクロに、少し不安になる。
中の液体は絶対に飲むなよ?
「ふふ、可愛いわ。こんなに大人しく良い子に出来るなんて。液体を舐めようともしないし、とても賢いのね」
「普通触らせないのにねぇ」
店員2人に撫でられながらクロはコチラをチラチラ見ながら匂いを嗅いでいる。
そろそろ嗅ぐのを止めないか?
寧ろそんなに気に入ったのか?
ミルクやプリンの匂いがあれば同じ様な反応をしそうだな。
「匂い玉をお渡ししますね」
匂い玉は首輪に付けれる云わばアロマペンダントの様なものだという。
これからチョーカーを新調するし、匂い玉の見た目を確認したい。
瓶を返そうとしないクロに手を差し出すと、すぐに店員に瓶を返し俺の手を握った。
…匂いより俺を選んでくれた事に喜ぶべきか、そうじゃないと呆れるべきか。
とりあえず頭を撫でてやり抱き上げる。
クロの好みの物だ。
色んなものに付けてやりたい。
俺もこの匂いは嫌いではないし、問題無い。
機嫌の良いクロの背を撫でながら店員の話を聞き、クロの好みの匂いだったもの全てをそれぞれ頼み、宅配を頼んだ。
匂い玉の見た目はシンプルな見た目から華美な物まであり、かなり悩んだが一応決めクロに手渡した。
今付けているチョーカーには付けられないから、手で持って嗅いでいてくれ。
新しい物を買ったら付けてやるからな。
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