ペットになった

アンさん

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クロの新技

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耳鳴りが治まったらしい2人はクロの着替えを再開し、ウンザリ顔のクロは此方にどうにかしろと言わんばかりに視線を投げかけてくる。


「クロちゃんもうちょっと我慢してねぇ」


……どうしようもない。


母さんは昔から誰かにオシャレをさせたがっていた。


自分の服も髪も興味が無い癖に、やたらと周りは気にするよく分からない性質持ちなんだ。


「どうかしら?」


「いい。似合っている」


薄い青の甚平を着させられ、髪は後ろに一纏めにし花飾りが挿されている。


「誰にも負けないくらい別嬪だわ。クロちゃん、口角を上げて?こうよ、こう」


そう言いながらクロの頬を摘む母さんにクロはフンッと鼻息を返し 、手を払う為か顔を振った。


「どうやら我慢の限界のようだな。一度休憩を挟もう」


準備していた飲み物を全員分机に運び、いつものクロの場所にプリンを置けば、クロは目にも止まらぬ早さで位置についた。


プリンの横にミルクを置き、スプーンを封がついたままのプリンの上に置く。


「クロ、待て」


ソワソワと合図を待つクロは「待て」の合図で俺と視線を合わせた。


「……よし、いいぞ」


別に躾が必要な訳では無いが、落ち着かせる合図が必要だったのだ。


特にプリンの前だと落ち着かないクロは、もしかしたら店で買っていない物を勝手に食べ始めたり、知らない人について行ったりする可能性がある。


今の所は平気でも、将来困るのは俺だからな。


落ち着かないと食べられない、と教えておいて損は無い、という事だ。


先程と同じように自分で封を開け、一掬いしたプリンを口へと運んでいく。


「さっきも食べてたのに…本当にプリンが好きね…。肉より甘味が好きなのは意外よね。ヒトのイメージは生肉とか生魚なんだけど…」


「野菜以外の生物は食べない。そもそも医者からも生肉と生魚は食べさせないように言われている。他のヒトより耐性も免疫力も無いから、細菌感染や寄生虫に勝てないらしい。野菜もドレッシング系がかかってないと食べないし。火が通ったら沢山食べるんだがな」


「今までマトモに食事がとれてなかったせいかしらね。野菜は青臭い匂いが嫌なのかしら?」


「卵好きだが、魚卵は食べるのか?」


「魚卵か…たらこやいくらは食べた時があるが…特に鶏卵のような反応は見せなかったな」


「卵の勢いは凄いわ。少しでも入ってたらそれちょうだいって見つめてくるもの…全部あげちゃいたくなっちゃう」


頬に手をやってプリンを噛み締めるクロに全員の視線が行く。


「今は適正体重に向けて増量中だから多少の栄養の偏りは仕方ないにしても、もう少し色々な物を口に入れてくれたらな…初見の物はほぼ食べたがらないのが難だ。もっと体重が増えてもいいくらい食べているのに何故増えないのか、謎の部分も気になる」


「腸に寄生虫がいるんじゃ?宿主は栄養が足りなくなると言うだろう?」


「血液や便等を色々と検査したが異常が無かった。高栄養剤入りの完全食を2日に1度食べさせているんだが…」


「もっと増やしたら?」


「これでも上限だ。本来10日に1度が適量なんだ。医者の監視の元許された量だからな…お陰で月4回病院に通わないといけない。病院があまり好きじゃないクロを連れていくのは、ストレスになりかねないから減らしたいんだが…出来るだけ早く適正体重になってほしい」


「あらまぁ…クロちゃん、もうちょっと体重増やしましょうね」


そう言って母さんは自分のプリンをクロに与えている。


さっきよりも目を輝かせたクロがふんふんと鼻息荒くプリンにがっついた。


少ないとゆっくり、多くなると取られまいと早食いになる傾向にあるのは変わらない。


「いい?クロちゃん。大食いの人は細い人が多いけど、それは常に気を付けているからよ?気にせず食べて太らない、なんて世の女性の敵になっちゃうわ。太りなさい」


「うぅーん…りゅーる」


色々言われ理解の出来なかったクロは俺の近くに移動してきた。


「分かったらはいよ、はい」


母さんは諦めずに話しかけ、クロは頭を傾げたまま空になったプリンの入れ物を舐めている。


「うーぅぅん」


「はい」


「うぁあい」


「はーい」


「う、ぁい…ああーい」


「はーい」


「んあーい」


「あら、上手ね。クロちゃん、はーい」


「ぅあーい」


どうやら新しく返事を覚えたようだ。


「クロちゃん」


「あーい」


返事をする度に頭を撫でられ、ライージュに一口ずつプリンを貰い続けたクロは得意気に返事をする様になった。


「母さん、そろそろ終わりにしてくれ」


「もう?」


「祭りに行くんだろう?」


「そうだったわ!さ、クロちゃん、行く準備しましょうね」


「あーい」


最後に1個小さなプリン…名前は…ちびっこプリンだったか…を貰い、満足そうなクロはちびっこプリンを隠しにクッションの方へと歩いていった。


普通のプリンと違い常温保存出来る為重宝している。


「今日の屋台は何かしら?楽しみね」


ちびっこプリンを隠し終わったクロが寝転ぶ前に出掛ける用のハーネスを持ち玄関へ向かうと後ろからクロがあいあい言いながら着いてきた。


…あーいって言えばプリンが貰える、と思っていないといいが…。





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