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12話 恐るべき才能
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それからザインたちは魔導書に載っている詠唱魔法を裏庭で実践し、マナの扱い方を身に着けていった。
(流石、異世界人と言ったところか……)
ルナは魔導書に載せられた魔法を詠唱なしで使ってみせる。ザインとしては正しくイメージが出来ていなかったときが恐ろしいので正しい詠唱をさせたいのだが、目の前で行われる精度の高い無詠唱魔法に何も言えなくなってしまう。
マナの扱いが上手い、という点は異世界人がマナに敏感であるという部分で納得がいく。だがそれにしても、ルナの扱う魔法には隙がない。魔法を使い始めたばかりの人間は、多少なりとも魔法を発動してから維持するのに苦労したり、発動した魔法に綻びが見える。ルナにはそれが全くと言っていいほど見当たらない。ザインはルナの魔法を見ながら、末恐ろしいと感じる。
(このまま行けばルナはすぐに上達するだろう……それこそ、一つの戦局を引っくり返せるくらいの力が彼にはある。俺が召喚術に手を加えなかったら、あの時失敗していたらと思うと……震えが止まらん、考えるのをやめよう)
「ちょっとザイン様?ちゃんと見てますか?」
「……ああ」
「じゃあさっき僕が何の詠唱魔法使ったか言ってください」
「…………すまない、考え事をしていた」
ルナはマナの扱いも上手くなったが、ザインの扱いも上達している。
「はあ……いいですけど、こういうときくらい僕に集中して、他のことなんか考えないでくださいよ」
怒っているときのルナも可愛いな、と思いながら冷静さを保ちつつ、
「今度から気を付けよう」
と返す。いつもならこういうときルルシアが茶々を入れてくるものだが、最近は忙しいのかあまり反応が返ってこない。過去にもこういうタイミングはあったが、ルルシアに直接聞いても「大丈夫だから!」としか言わないので、まあ本人がそう言うなら大丈夫だろうと放置している。
「もっと実用性のある魔法が使えたらいいんですけど……炎の玉とか水の玉とか投げられるようになっても僕、使うタイミング無さそうですし」
「ん?十分実用性はあると思うが……?」
ザインはキッチンから鍋を一つ持ち出すと、その中に水の玉を入れ鍋を満たす。その中に火の玉を加えると、中の水が一瞬で沸き立った。
「マナで作った水を飲むのは衛生的にあまり推奨されていないが、非常時には役に立つ。あとは……そうだな。今は君をこの家から連れ出す気は無いが、魔法での戦い方は覚えていて損はない。俺がいなくなっても、身を守れるようにしておくのに越したことはない。」
ルナはザインの言葉に驚いた顔をする。それはどういう顔だ?とザインは首を傾げながらも言葉を続ける。
「今は俺が常に結界を張っているが、この地には多くの魔物が住んでいる。無いとは思うが、万一結界が切れて魔物がこの建物の中に入ってきても、魔法がある程度使えれば俺が来るまで持ち堪えられはするだろう……。念の為言っておくが、この山の魔物は人が踏み入らない地なだけあって独自の進化を遂げていてかなり強いらしい。ルナに渡した初級の魔法で倒しきれるかは俺にも分からない。……まあ、初級だからな。普段日常生活を送っている人間が日常的に使うであろう一般的な魔法しかそこには載っていないんだ。そういうことだから、その魔導書の魔法が一通り使えるようになるまでは俺の許可なくこの家を出ないように。分かったな?」
「も、勿論……!まだ死にたくないですし……それよりも早く、魔法覚えますね」
ルナはもう一度魔導書に向き直り、1から魔法を反復練習する。ザインは懲りずにそれを眺めながら、考え事をする。
(万一俺がいなくなったら、か。考えたことも無かったが……はあ。しばらく街に降りるつもりはなかったが、何かあってもいいようにある程度根回ししておくことも必要か……ああ、あの魔導書には見た目を変える魔法なんかは載っていない。それも教えなければ……)
ザインは考え事に夢中で、近付いてきているルナに全く気付かない。
「ザーイーンーさーまー__!」
「うおっ!?すまん、何だ?」
「やっぱり考え事してたでしょう!もう、次やったらくすぐりの刑ですからね!」
ザインの頬を引っ張りながらルナが頬を膨らませて怒る。
(くすぐりの刑……それは俺にはご褒美かもしれないな)
思わず笑みがこぼれる。ルナは
「何笑ってるんですか!もう、僕から目を離さないでくださいね!」
と言って、ザインから離れていく。怒るルナは可愛いが、流石に三度目は許してくれないだろう。ザインは口元を手で隠しながらくつくつと笑う。今は可愛い弟子に集中するとするか。ザインはルナの練習風景を穏やかな目で見守った。
(流石、異世界人と言ったところか……)
ルナは魔導書に載せられた魔法を詠唱なしで使ってみせる。ザインとしては正しくイメージが出来ていなかったときが恐ろしいので正しい詠唱をさせたいのだが、目の前で行われる精度の高い無詠唱魔法に何も言えなくなってしまう。
マナの扱いが上手い、という点は異世界人がマナに敏感であるという部分で納得がいく。だがそれにしても、ルナの扱う魔法には隙がない。魔法を使い始めたばかりの人間は、多少なりとも魔法を発動してから維持するのに苦労したり、発動した魔法に綻びが見える。ルナにはそれが全くと言っていいほど見当たらない。ザインはルナの魔法を見ながら、末恐ろしいと感じる。
(このまま行けばルナはすぐに上達するだろう……それこそ、一つの戦局を引っくり返せるくらいの力が彼にはある。俺が召喚術に手を加えなかったら、あの時失敗していたらと思うと……震えが止まらん、考えるのをやめよう)
「ちょっとザイン様?ちゃんと見てますか?」
「……ああ」
「じゃあさっき僕が何の詠唱魔法使ったか言ってください」
「…………すまない、考え事をしていた」
ルナはマナの扱いも上手くなったが、ザインの扱いも上達している。
「はあ……いいですけど、こういうときくらい僕に集中して、他のことなんか考えないでくださいよ」
怒っているときのルナも可愛いな、と思いながら冷静さを保ちつつ、
「今度から気を付けよう」
と返す。いつもならこういうときルルシアが茶々を入れてくるものだが、最近は忙しいのかあまり反応が返ってこない。過去にもこういうタイミングはあったが、ルルシアに直接聞いても「大丈夫だから!」としか言わないので、まあ本人がそう言うなら大丈夫だろうと放置している。
「もっと実用性のある魔法が使えたらいいんですけど……炎の玉とか水の玉とか投げられるようになっても僕、使うタイミング無さそうですし」
「ん?十分実用性はあると思うが……?」
ザインはキッチンから鍋を一つ持ち出すと、その中に水の玉を入れ鍋を満たす。その中に火の玉を加えると、中の水が一瞬で沸き立った。
「マナで作った水を飲むのは衛生的にあまり推奨されていないが、非常時には役に立つ。あとは……そうだな。今は君をこの家から連れ出す気は無いが、魔法での戦い方は覚えていて損はない。俺がいなくなっても、身を守れるようにしておくのに越したことはない。」
ルナはザインの言葉に驚いた顔をする。それはどういう顔だ?とザインは首を傾げながらも言葉を続ける。
「今は俺が常に結界を張っているが、この地には多くの魔物が住んでいる。無いとは思うが、万一結界が切れて魔物がこの建物の中に入ってきても、魔法がある程度使えれば俺が来るまで持ち堪えられはするだろう……。念の為言っておくが、この山の魔物は人が踏み入らない地なだけあって独自の進化を遂げていてかなり強いらしい。ルナに渡した初級の魔法で倒しきれるかは俺にも分からない。……まあ、初級だからな。普段日常生活を送っている人間が日常的に使うであろう一般的な魔法しかそこには載っていないんだ。そういうことだから、その魔導書の魔法が一通り使えるようになるまでは俺の許可なくこの家を出ないように。分かったな?」
「も、勿論……!まだ死にたくないですし……それよりも早く、魔法覚えますね」
ルナはもう一度魔導書に向き直り、1から魔法を反復練習する。ザインは懲りずにそれを眺めながら、考え事をする。
(万一俺がいなくなったら、か。考えたことも無かったが……はあ。しばらく街に降りるつもりはなかったが、何かあってもいいようにある程度根回ししておくことも必要か……ああ、あの魔導書には見た目を変える魔法なんかは載っていない。それも教えなければ……)
ザインは考え事に夢中で、近付いてきているルナに全く気付かない。
「ザーイーンーさーまー__!」
「うおっ!?すまん、何だ?」
「やっぱり考え事してたでしょう!もう、次やったらくすぐりの刑ですからね!」
ザインの頬を引っ張りながらルナが頬を膨らませて怒る。
(くすぐりの刑……それは俺にはご褒美かもしれないな)
思わず笑みがこぼれる。ルナは
「何笑ってるんですか!もう、僕から目を離さないでくださいね!」
と言って、ザインから離れていく。怒るルナは可愛いが、流石に三度目は許してくれないだろう。ザインは口元を手で隠しながらくつくつと笑う。今は可愛い弟子に集中するとするか。ザインはルナの練習風景を穏やかな目で見守った。
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