金蓮花をあなたに

雫石 ひな

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第1幕  桜と紫苑

第4話 告げられた真実

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翌朝、私は優人の母と駅前のカフェで待ち合わせた。

待ち合わせ場所に現れたその人は、以前会った時より随分窶れたように思う。

「あの…お加減、大丈夫ですか?」

大丈夫。と微笑む姿に以前の明るい快活さは窺えなかった。

お互い言葉を発することなく、どのくらいの沈黙があっただろう。凄く長く感じた沈黙の後、徐に、昨夜、優人の死を病院から掛かってきた電話で知ったと、ぽつりぽつりと、話しだした優人の母。

その内容に、血の気が引いていくのが自分でもわかった。

急いで病院に行って案内された病室では、全ての機能が止まった状態の優人がベッドに静かに眠っていたという。もう動かぬ優人との対面の後暫くして、主治医と名乗る医者から話があったと言う。

優人が病を患い余命宣告されていたこと、病気や入院していることに対し、誰にも知られないようにして欲しい家族にですら連絡するのは自分の心臓が止まってからにして欲しいということを病気の宣告をした時から最期まで望んでいたと聞かされたという。

しかしそれは、生きることへ絶望して自暴自棄になっていた訳ではなく、優人は最期まで優人らしく生きていたと伝えられたと。
そして最後に、2通の手紙を渡されたと。

1通は、家族へ宛てたもの。

手紙の内容は、病気になってしまったことへの謝罪。何も知らせず先に逝ってしまう事への謝罪。自分が居なくても続くこれからの人生を悲しみで埋めずに謳歌して欲しいということ。そして、感謝と愛情を伝える言葉だったと。

泣きながら話す優人の母に、かける言葉が見つからなかった。
この人は一体、どれほどの、悲しみを…苦しみを…胸の痛みを……感じでいるのだろう。

きっと、後悔しているだろう。

きっと、自分を責めているであろう。

私に何か出来ることはあるのだろうか………いや、きっとこの人は、私に何も望んでいないだろう。

ふと、もう1通の手紙が気になった。目の前でそっと握られていたその手紙は、そっと私へと差し出された。

震える手で差し出された手紙を受け取ると、見慣れた優人の字で封筒に宛名が書かれていた。



華田 紫苑  様

それは間違いなく私へ宛てたものであった。

「     な、んで…」

何故、優人は別れたはずの私に手紙を遺したのだろう。
理解したくない、きっと真実であろう内容が書いてあるだろうことが想像出来る。

恐る恐る封を開け、手紙に目を通す。



ごめん。

その一言から始まる手紙に一気に視界が歪む。
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