エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

文字の大きさ
4 / 74
第一章 イルネラの街

02 ガマ狩り

しおりを挟む
「本当に行くのか?」
「ん?」
「東の森だよ」
「他の奴らとカチ合わなくていいぞ」

 他の連中が行かないのは、“ガマ狩り”は辛い割に利益が少ないからなのだが、そんな話をしても納得しそうにない。

 仕方ないので今日は従う。
 一日働いてたいした利益が無ければ、彼も考えるだろうと東の森に行くが、クリンはそこで酷い目にあった。

「くそ、お前達も動けよ!」

 森に入ると沼地は嫌だと二人は木の上に登ってしまい、少年は時々火炎で”ガマ”を狩るが、もう一人は何もしない。

「オルに期待するな。こいつは攻撃も防御の魔具も持っていない」
「はぁ?」

 信じられない。
 真っ黒い瞳を持ったオルと呼ばれた人は、地の魔力に優れているのだろうが、だからと言って他の力を使えない訳ではない。
 それを魔物のいる場所に来て、全く使わないなんて考えられない。

 それでも数十の”ガマ”を狩る。
 沼地に落ちた魔石を拾うのは面倒だし、彼らは一向に手伝う様子も見せない。

「おい、いつまでも木の上で遊んでいないで手伝えよ」
「そんな物はいらん」
「はぁ? なら何の為に狩ったんだ」
「ガマが落とした魔石なんて、幾つあってもたいした“エル”にならない」

 では、この数時間は何だったんだ!
 腹が立つし、こんな奴と組んだ自分が情け無いし、やってられるかと沼地から出ようとすると、今まで黙っていたリグが静かにと言う。

「ウル」
「どのくらいだ」
「八十七」
「まぁ、そんなものか」

「何の話だ」
「お前、“ガマ狩り”がなぜ冒険者に嫌われているか知らないのか?」
「誰だって、こんな沼地で臭い思いをしたくないからだろう」

 ”ガマ”は沼地に住む魔物で、粘液を出して獲物を動けなくしてから沼地の奥に引きずり込む。
 ドロドロとした粘液は臭いし、狩った後はもっと臭いので、沼地にはガマの匂いが充満していた。

「それより”ガマ”が残した臭いに吊られて、“ギルネラ”が集まって来るから嫌われているんだ、アレは硬いし、捕まえにくいからな」

「ギルネラ?」
「お前、喰いつかれるなよ、痛いし、血を吸われると面倒な事になるぞ」

 冗談じゃない。
 何十匹ものギルネラに襲われたら、無傷で居られない。

「あゝ、それから、ガマを狩っていた魔力では、ギルネラは狩れないからな覚えておけよ」

 相変わらず木の上から、のんびりと続ける。

「おい、逃げないのか!」
「馬鹿を言うな、何の為にガマを狩ったんだ、”ガマ狩り”よりずっと効率がいいぞ」

 そんな話をしている間に羽音が聞こえて来て、既に逃げる時間がない事が分かる。

 “ギルネラ”は、血を吸うのと同時に人に卵を産み付ける。
 産み付けられた卵は、焼いて殺すしかないので、処置をするのが大変だしとにかく痛い。

 痛い思いをしたくないなら、必死になるしか無いと覚悟を決めた瞬間、彼の魔道具から放たれた火炎が何個かに分かれて数十のギルネラを落とす。

「なぜ残したんです?」
「これ以上は効率が悪い。ほら、数は減らしたからな後は頑張れよ」

「お前が全部落とせるだろう!」
「何を言っている。それではお前がどのくらい使えるか分からないだろ?」

 くそ、腹が立つ。
 沼地で汚れた足は重いし、”ギルネラ”は硬いのでとにかく魔力の消費が激しい。

「このくらいかな」

 それでも数匹狩った頃、自分が必死になっていた魔物を、彼がそう言ってあっという間に火炎で狩る。

 体力を削られ、魔力もほとんど使い果たし、言い返す気力も無くしていると、オルと呼ばれたリグが“ギルネラ”の落とした魔石を集めている。

 集めた“ギルネラ”の魔石があれば、しばらく困る事はない。

 イルネラの街に着いてからやっと安心する事ができ、宿でゆっくり休みたいと思っていると、彼が今度はイルネラの街で一番の魔具屋に入って行こうするので必死に引きとめる。

「ちょっと待て、魔具が必要でもここは無理だ」
「馬鹿を言うな、ここで無いと無理だ」

 彼が楽しそうに魔具屋に入って行く。

「ガキのくる所じゃない、さっさと帰りな」

 早速、店主に相手にされていない。

「なんだ、ここは客を選ぶのか?」
「客でない者に入って欲しく無いね」
「なら、俺達は客だから大丈夫だ」

 そう言って持っていた黒い袋を店主に投げる。
 中を確認した店主が“ギルネラ”の魔石を見ると、胡散臭そうにこちらを見る。

「ふん、ギルネラを狩れる力はあってもこの数では話にならないね」

 すると、彼が保管箱から小さな袋を取り出してそれを渡すと、今度は店主が手のひらを反すように愛想がよくなる。

「それは預けておく。俺達が十日の間に金を持って来れなかったら、それをやるよ。それまでは売るなよ」
「わかった、わかった。何でも好きな物を持って行きな」

 えらく店主の機嫌がいい。

「何を渡したんだ」
「そんな事はどうでもいい」

 クリンを相手にせず、彼が店主と話を続ける。

「奥にある双剣を持って来いよ、赤い魔鉱石の付いた奴だ」
「双剣? お前さん、双剣使いなのか」

「俺は違う、コイツが使うんだ」
「俺が?」

「ワシは構わんが、双剣は使いづらいぞ」
「それは問題ない、コイツが練習すればいいだけの話だ」

 勝手に店主と話をしかたと思えば、ギルネラを一万匹狩っても支払えない様な双剣と、保管箱を手に入れて魔具屋を出る。

「ほら」

 双剣の入った保管箱を渡され、喜べばいいのか、呆れたらいいのか分からずにいると、

「こっちは俺が貰うぞ」

 そう言って今までクリンが使っていた剣を、自分の保管箱に入れている。

「剣が使えるのか?」
「当たり前だろ、なぜ左手に火炎を付けていると思ったんだ、俺は左利きではないぞ」

 全く腹が立つ。
 考え付かなかった自分にも問題あるが、コイツの言葉が足りないのは、今に始まった事ではない。

「おい」
「なんだ」

「なぜ双剣なんだ」
「左手も使えるだろ」

「剣を使える訳じゃない」
「なら使えるようになればいい、これから十日間、”ガマ狩り”はちょうどいい練習になる」

 翌日、また東の森に行くと言う。

「お前が剣も使えるなら、わざわざ”ガマ狩り”なんかしなくてもいいだろう。もっと奥の森で、大物を狙えばいい」
「そんな事をすれば、お前が死ぬだけだぞ。俺はどちらかを選ぶ場面になれば、オルを選ぶからな、自分を守れん奴にはまだ早い」

「そこは嘘でも、どちらも、と言えよ」
「馬鹿を言え、そんな事をして全滅したらどうするんだ。そんな無駄なことはしない」

 そう言ってさっさと東の森に入って行き、

「さぁ、”ガマ狩り”だ。今日は左手だけ使えよ、いきなり両手だと混乱するからな」

 沼地に着くと、相変わらず木の上にからクリンに声をかけてくる。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...