エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第一章 イルネラの街

04 アリアント

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「その間、お前はどうするんだ?」
「ちょっと探し物をする。森には魔石以外にも売れる物があるからな。
 お前、気を付けろよ、ガマは学習能力が高いんだ。今日ちゃんとリーダーを残して置いたからな、明日になれば、あの沼のガマは全部同じレベルになっている」

「はぁ?」
「おまけにガマは仲間が減ると一定の数に戻そうとするからな、明日辺りは面白いことになってるぞ、そろそろ両手を使えよ!」

 恐ろしい言葉を残して部屋に戻って行く。
 元々単体で攻撃して来るガマが、今日は複数同時に攻撃して来た。それで済めばいいが、連携し始めると恐ろしい。
 ガマはギルネラのような攻撃力は無いが、ドロドロとした粘液でこちらの動きを悪くする。

 粘液で動けなくなり、沼地の深いところに引きずり込まれるとまず助からない。
 こちらが沼地に入らない限り襲っても来ないが、それではギルネラも呼び込めない。

 翌日、双剣を持って沼地に入ると、思った以上に剣が使えるようになっている。
 今までは使っていた慣れない左手と違い、面白いように剣が振れる。

 これならと思っていると、ガマの中に明らかに色の違う個体が現れる。
 冗談じゃないとそれを狙うが、相手もこちらの間合いを知っていて近づいて来ない。

 どんどん学習したガマが増えて行き、これ以上はと思った時、聞き慣れた羽音がする。
 沼地から抜け出し、彼奴ら何処に居るんだ? と思った瞬間、少し離れた所でほとんどのギルネラが火炎で落とされる。

 あのリグの力かも知れないが、距離を問題にしていない彼等の力は頼もしいし、腹立たしい。
 全滅させることも出来るはずなのに、今日は十匹以上のギルネラが残っている。

 そのくらいはどうにかしろ、と言う意味だと分かるが、こちらが何とか対応出来るギリギリの数を残しているのが、本当に腹が立つ。

 おまけに魔力が無くなりかけたおかげで、魔具への魔力の流し方が何となく分かる。
 それが、昨日『なぜ出来ない?』と真顔で聞かれた時より腹が立つ。

「おっ、面白い事になってるなぁ」

 何処からともなく現れた彼が、沼地を見ること無く妙に楽しそうに話す。

「おい、どうするつもりだ、今日以上になっているなら、明日はさすがに無理だぞ」
「どんなに数が増えても、連携しても、ガマの攻撃に当たらなければいい」

「俺はお前と違って攻撃を飛ばせないぞ」
「なぜ出来ない」

「いや、無理だろう、俺は“剣使い”なんだ!」
「お前は本当に物事を知らないな、だから効率が悪い。もう少し勉強しろ」

 本当に腹が立つ。
 確かに学ぶ事が好きだとは言わないが、平民の出ならこんなものだ。

「仕方ないな、もう少し数が集まってからの方が良かったけどなぁ、ちょっとついて来い」

 そう言うと、沼地を避け、さらに森の奥へと進んでいく。

 付いて行くと、先を歩く彼は何だかぶつぶつ言いながら、左手の火炎を外し、保管箱の中から前に自分が使っていた剣を取り出している。

 暗くなれば魔物も活発に動きだすのに、大丈夫なんだろうか? そう思い始めた頃、甘ったるい匂いが辺りに漂い始める。

「なんだ? この匂い」
「今日、仕掛けて置いたんだ。明日になったらアリアントが集まっていたんだけどなぁ、アイツらは共喰いするから、残っているのだけ狩ればいい。楽でいいぞ!」

 そう言いながら準備運動とばかりに剣を左右に振っている。

 “アリアント”は大きさが人と同じくらいの八本足の魔物で、四本の前足を剣の様に使って攻撃して来る。
 剣を使う自分にとっては天敵のような魔物で、相手にしたくないし、弓の様な魔具を持った相手とは戦わない知恵まである。

 腕に覚えのある“剣使い”が、“アリアント”に捕まって斬り刻まれたと言う話があるくらいで、見つかれば相手が逃げる前に火矢などで狩るか、そうで無ければ、こちらが逃げた方がいい魔物だった。

「なんで火炎を外したんだ」
「アイツらが逃げるからに決まっているだろ、せっかく集まって来るのに逃がしてどうするんだ」

 こっちがいくら心配しても、彼のリグは平気な顔で風上に移動して高みの見物を決め込んでいる。

「この匂いは苦手です、これ以上は近寄りませんからウルも適当に切り上げて下さいよ」
「分かった、分かった」

「おい、俺も当てにするなよ、アリアントなんて相手にした事ないからな」
「だろうな、別に当てにしないから、よく見ていろよ」

 そう言ったかと思うと、一匹目の“アリアント”の首を落とす。

 なんだ? 一瞬剣を交えた様に見えたのに、次の瞬間には“アリアント”の首が落ちていた。

 “アリアント”は剣士にとって厄介な魔物だった、人同士が剣で戦うと、必ず相手の剣を受ける瞬間が出来る、剣を受けて離れてと攻撃するが、“アリアント”だとそれが通用しない。

 一瞬でもこちらが受け身になると空いている手で攻撃されるので、常に自分の剣に魔力を流して相手を弾くように戦うことになるが、これが魔力を使うので結構辛いし、体力も奪われる。

 彼も同じようにしているはずなのに、一瞬剣を受ける様に見えた後、次の瞬間には、魔物が狩られていく。
 おまけに見ていろと言うが、剣捌きが早くて参考にもならない。

 それにやはり心配にもなる。
 位置取りが良いのか、甘い蜜に夢中なのか、“アリアント”は彼を目的にしていないが、彼が言った様に共喰いを始めていて、淘汰された魔物の色が濃くなっているのが良く分かる。

「おい、放っておいて大丈夫なのか?」
「そろそろ限界みたいですね」

 妙に落ち着いた声で、彼のリグが答える。

「おい、それを早く言えよ、どうすればいいんだ」
「あゝ、違いますよ、限界なのは剣の方で、、、」

 言い終わらないうちに彼が使っていた剣の折れる音が聞こえる。

 丁度、ひと回り大きな“アリアント”を相手にしていたので、魔石でも使ってどうにかするしか無いと覚悟を決めた瞬間

「なんだ、終わりか」

 彼が残念そうに呟いて、半分に折れた剣を左右にはらって炎の刃を飛ばし、数十匹いた“アリアント”を狩ってみせると、その周りにいた魔物が森の奥に消えて行く。

「おい、魔石を集めるぞ、手伝えよ」

 “アリアント”の落とした魔石を集め始める彼に問いただす。

「なんだ、あれは?」
「見ただろう?」
「見ただけで分かる訳が無いだろう」

「見ても分からないなら、どうすれば分かるんだ」
「説明しろ」
「火炎を飛ばしただけだ」

「なぜ剣でそんな事が出来る」
「出来るだろう? なぜ出来ない。剣に込めた魔力を外に出すだけの話だ、明日のガマ狩りから頑張れよ」

 そんな事が出来るなら、多くの剣士達がやっているはずで、少なくともクリンは見た事がない。
 “アリアント”の魔石を集めている彼を指さして、隣にいたリグに話しかける。

「お前のリグは本気で言っているのか?」
「ウルは教師に向かない」

 確かにこの男は、師にはなれない。

 "百聞は一見にしかず"とでも思っているのかも知れないが、いくら見せて貰っても、何をしているのか分からなければ、見た意味も無い。

 それ以上にたちが悪いのは、それで説明が充分だと思っている事と、自分が出来るなら誰にでも出来るくらい、簡単だと思っている事だ。
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