エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第二章 ライオネル

05 ポロの畑(2)

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「それにポロの実を育てている人達は、もっと大変だ」

 彼らは一年、この収穫の為に働いているのだから、収穫が減ればそれだけ彼らの収入も減る事になる。

「まぁ、その辺りは兄上が上手くやるだろうが、、、収穫を早められては困るな」
「ホスロ殿にしたら少しでも早く収穫して、僕達にも帰って欲しいからね」

「馬鹿を言え、既に数が減っているのに質まで悪くなっては話にならん」
「でもこのままでは、後二週間も持たないと思うよ」

「だろうな、、、オルどんな感じだ」
「川向こうは三割くらいかな。特に右側は酷いね、今も沢山魔物が取り付いている」

「こちら側は」
「一番外側はダメかな、ファーもそのつもりで排除してるでしょ?」
「特に川に近い辺りはね、手が回らない」

「よし、なら掃除だな」
「どうするつもりさ」
「燃やす」
「そんな事だろうと思ったよ」

 大人しく二人の話を聞いていたが、物騒な事を言いだすので割り込む。

「どうするおつもりなのです」
「このまま放置してもいい事は無い。魔物が取り付いた木はどうせ処分する事になるしな」
「守る範囲が狭くなれば、今の人数でも何とかなると」
「そう言う事だ」

「組合のおさに話はしないの?」

 ウエストリアで働く農民達は、大人になると組合に入って仕事をする。
 領主はこの組合との約定によって彼らを守り、彼らの作った物を得る。

 メルニアの街周辺に住む者達は、貴腐ワインを作る“フィゼル組合”に入り、ポロを育て貴腐ワインを作るが、出来上がったワインの質と量に寄って領主から支払われる報酬が変わって来る。

 良いワインが沢山出来れば組合の収入が増え、そこに連なる農民達の収入も増えるが、今回のように出来上がるワインの数が減れば収入も減少する。

 それらを予測して貯えを持つのも組合の仕事だし、彼らを代表して畑を守る貴族との交渉や、作った貴腐ワインの価格の交渉を領主と行ったりもする。

「そっちには後で話すが、働いている者達は、、、今、集められるか?」

 畑の中で魔物が喰った実を取り除き、そのままにすると害になるため、落ちている“チュルリ”や“モズリ”の小さな魔石を拾っている彼らに集まって貰う。

「申し訳ない」

 彼の顔を知らない者達でも、彼がどんなに幼くても、緋色の瞳を持った者が領主の息子である事は分かる。

 その人が頭を下げ、せっかく育てて来た木の三割程度をこれから処分する事、この状況まで対応が遅れた事を農民等の前で謝り、いつも通りの報酬が得られる事を伝えていた。

「よろしいのですか?」
「ん?」

「このままでは出来上がるワインの量は、いつもの半分にも満たないものになるでしょう。それを領主様がご負担されるのは、、、」

 領主に納入される商品が減れば、領主の収入が減少する事になる。
 一時いっとき自分達の収入が守られても、領主の力が弱くなれば、それらはいずれ自分達に帰ってくる事にもなる。

「これが麦ならばどうしようも無いだろうが、お前達が良いものを作ってくれれば兄上が上手くやるさ」

 麦のような必需品は、国内の取引価格が決められているが、嗜好品になるワインなどは価格が決められている訳ではない。

「本当にいつもと同じ報酬を約束して頂けるのですか?」
「約束する、今回の事はこちらの落度だ。但し、良いものを作ってくれよ」

「もちろんです」
「来年、植林に人手が必要なら手も回す、長にも伝えてくれ」
「ありがとうございます」

 おそらくずっと不安であった人達の顔に安堵の色が見える。

 夜明けと共にこんな所まで来たのは、この為だったのかと驚かされる。
 それにしても彼がこの街に到着して一時間も経っていなかった。

 予定していた行動なのか、決断の速さなのか、それから数時間で全ての事が終わってしまっている。

「アイツの対応の遅さでは話にならん」

 彼が魔石を使って荒れた畑を燃やし終わった頃、喚きながら畑に近づく一人の貴族を見つけ、彼の呟くような声が聞こえる。

「どうなっているんだ! 誰がこんな事をした!?」
「俺が燃やした」

「ウルフレッド様!? どうしてこの様な場所に?」
「そんな事はどうでもいい」
「しかしこれは困ります、ここは私が、、、」

 今年、ポロの畑を守る仕事は、ゼネルト家が請け負っている。
 何かあれば全て彼の責任になるので、彼が焦る気持ちは良く分かる。

「ホスロ、約束の報酬を保証するよう俺が兄上と交渉しよう、だが、収穫の時期や摘み取りは組合に任せてお前は口を出すな」
「しかし」
「今、決めろ。次は、無い」

「最初の報酬だけでしょうか?」
「欲をかくな、俺が状況を分からないと思うなよ」
「わ、わかりました」

「これ以上畑が荒れた時は、後が無いと言う事も覚えておけ」
「しょ、、、承知しました」

 彼がホスロ殿に収穫に口を出さない事や、これ以上畑が荒れる事がないよう約束させると、メルニアの街の中に移動する。

「この為に来られたのですか?」
「ファーがメルニアに呼ばれたのは聞いていたし、組合の長から親父の所に知らせが来ていたからな」
「フィゼル殿から?」

「ホスロが随分強引に収穫をさせようとしていたみたいだな」
「彼らの為に此処に来たのですか?」
「これはついでだ、俺が動かなくても兄上が動いたさ、こちらの方が少し近かっただけだ」

 一緒に街に戻りながらファーレン殿が彼に話しかけている。

「このまま手合わせするかい?」
「当たり前だ、時間を取られた」
「なら修練場に行こうか」

 彼がファーレン殿とメルニアの街にある修練場で、練習用の剣を取りながらこちらを向いて話す。

「ライ、これからが本命だ。一刻したら戻るからな、少し休んでおけよ」

 彼のリグは街中に入った事で居心地の良さそうな場所を見つけ横になり、当の本人は先ほどまで馬を駆っていた事も、数ヘクタールの畑を一瞬で灰にした事も、無かった事のように友人と剣を合わせ始める。

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