エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第二章 ライオネル

07 ハロルド

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「悪い、これを鍛冶場に持っていってくれるか?」

 ローエングルグ家の嫡男と剣の手合わせをしていたらしい少年が、刃こぼれした剣を渡して来る。

「分かりました」

 見習いである自分が引き受けるのは当然なので、剣を受け取るとその場で彼が話し始める。

「お前、名前は?」
「はい、ハロルドと申します」

「ハルだな」
「ハル?」

「お前の事だ、、、で、ハルは家を移る気は無いのか?」
「ゼネルト家から出ると言う事ですか?」
「そうだ」

 何故、少年がそんな事を言い出したのか、さっぱり分からないが、ハロルドにはそれが難しい事が分かっている。

「出来ません、私は父を早くに亡くしていますので、ずっとゼネルト家の援助を受けています」
「移るなら、その費用を支払う必要があるって事か?」
「はい」
「もう約定を結んでいるのか?」
「いいえ」

 これらの約定は、ゼネルト家と母との間にある約定だった。
 母もゼネルトの館で働いていたが、ハロルドや弟を育てるには足りず、ゼネルト家から約定以上の報酬を受け取っていると聞いていた。

「ふ~ん、だがそれさえ支払えば、お前を縛るものも無い」

 確かに本人の意思で結んだ約定は変える事が難しいが、そうで無ければ単に金銭的な問題になる。

「しかし、十年以上になります。それを肩代わりする方がいるとは思えません」
「気にする必要は無い、その位、ライが何とかする」
「私が?」

 側に立っていた年長の騎士が驚いたように答える。

「お前はラングロアなんだから、その位平気だろ?」
「貴方が支払うのでは無いのですか?」

「なぜ俺が、お前の見習いの費用を持つんだ」
「私の?」
「俺に育てられる訳が無いだろう」

「ウエストリア家に付けるのかと」
「今は必要無い、それにコイツは“風使い”なんだから、お前が適任だろう」

「しかし、私は、、、」
「ライ、一年も側にいれば俺がどう動くかは分かっただろう、これ以上、側にいても意味は無い。無駄な事はするな、そろそろ人を育てろ」

「しかし、、、」
「お前が心配性なのは知っているからな、遠出する時は話をするさ、それでいいだろう」

 少年の言葉に納得したのか、諦めたのか、青年が言い含める。

「分かりました。ですが、必ず出掛けるに知らせて下さい、よろしいですか?」
「お前、感が良くなったなぁ」

 えらく楽しそうな少年と年長の騎士が目の前で話していたと思うと、彼らの話が終わったのか、ライと呼ばれた人に話しかけられる。

「ライオネル・ラングロアと申します。貴方が了承して頂けるなら、この仕事が終わった後、ホスロ殿に此方から申し込みましょう。よろしいですか?」
「ラングロア家に仕えると言う事でしょうか?」

「見習い終了時に決めて頂くのが、正しい形なので、その時に決めて下さい」
「ローエングルグに仕えろ。ラングロアにこれ以上、“風使い”は必要無い」

 横から少年の声が聞こえて来る。

「せっかく私が育てる騎士を、勝手に他家に連れて行かないで下さい」
「その代わり、ファーが最初に育てた騎士をラングロアで引き取れ」

「ちょっと、僕まで巻き込まないでくれよ」
「どちらが優秀になるか見てみたい、面白いだろう?」

「面白いのは、ウルフだけじゃないか」
「面白いのは、貴方だけではありませんか」

 領主の息子が二人に諌められ、肩をすくめて見せるが更に続ける。

「ハルのやる気にもなるだろう?」
「決めるのは、貴方ではありませんよ」

 年長の青年に更に指摘され、彼が分かった、分かったと言う様に手を振っている。
 いくら年少とは言え領主の息子に遠慮ない物言いを続けていた青年が、ハロルドの方を向いて話を続ける。

「気にする必要はありません、見習いが終わった時に我が家に仕えるか、ローエングルグ家に仕えるか決めて頂けば良いのです」

「はっ、はい、ありがとうございます」

 一体何が起こったのか、これでゼネルト家にあった借財を肩代わりして貰った上に、どうやら目の前にいる真面目そうな青年の指導を受ける事が出来るらしい。

 ハロルドは、ゼネルト家の騎士見習いとしてメルニアの街に来たが、この家の騎士達にはどうも仕える気になれず、数日前からローエングルグ家の騎士を見て、その気持ちが大きくなっていた。

 騎士は自分の主である家に仕え、その家から俸禄を受け取る。
 
 受取る俸禄が多ければ、自分の身の回りを整える従者を雇う事もできるが、そうで無ければ武具や魔具の手入れまで全て自分で行う事になる。

 見習い騎士は従者を持たない騎士にとって、騎士に育てる代わりに身の回りの雑用を行ってくれる便利な者で、報酬でも支払えば個人的な指導も受けられるが、ハロルドの様な者は、その家にいる騎士達の小間使いをしなければならない。

 それでも尊敬できる人がいればいいが、畑でのやり方を見ているとどうしてもそんな気になれなかった。

 確かにポロの木に取り付いた、手のひらサイズの魔物を狩る仕事は、楽な仕事では無かった。
 それも日を追うごとに数が増えて行くのだから、嫌になる気持ちも多少は理解出来る。

 だが、畑で働く人達が魔物に襲われているのを、見て見ぬふりをするのは間違っている。

 ファロ川の支流を挟んで広がるポロの畑のうち、川の対岸にあるエリアは、昼の間、カストリア家から来た一人の騎士見習いとハロルドを含めた四人のゼネルト家の見習い騎士が守っていた。

 左側をカストリア家の見習いと一番若いハロルドが、右側を残りの三人が担当し、畑で働く人を守り、実を喰うために集まる魔物を狩る。

 始めから人数も多く、手も足りているはずなのに、しばらくすると右側の畑が荒れるようになり、畑が荒れれば魔物が集まるので、少しずつ自分達の方にも魔物が増えてくる。

 そのうち怪我をした農民を見るようになり、畑に女性達が現れないようになった。

 何度かゼネルト家の騎士に話しても相手にされないし、これではどうしようも無いと思い始めた頃、ローエングルグ家の人達がやって来て、やっと農民たちが傷つけられる事は無くなったが、既に畑は手の付けられない状態になっていた。

 それを目の前にいる一人の少年が収めていた。

 何故、彼が自分に声を掛けたか分からないが、後悔されるようにだけはなりたく無い。
 それに何の縁もない自分を引き受けてくれた人の名を、汚す事も絶対に出来ない。
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