エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

文字の大きさ
26 / 74
第三章  南へ

05 出会い

しおりを挟む
 ウルフレッドと始めて会ったのは、7歳の頃だった。

 その日ウエストリア屋敷では、5歳になる緋色の瞳を持った少年のお披露目が行われていた。

 領主であるルベス様も、先代の領主であったテリス様も緋色の瞳を持っていなかった。

 次期領主と言われているセリス様も同様で、ウエストリアの緋色あかと呼ばれる瞳を持って生まれた彼を、ウエストリアの貴族達はみな歓迎していた。

 緋色の瞳は、西方辺境伯にとって無くてはならないもので、百年近くその誕生が無かった為に、王都ではウエストリア家に辺境伯の資格が無いのではと言う者さえ現れていた。
 
 領主であるルベス様が、アッタリアを何度か退けていなければ、ウエストリア領が分割され、他の貴族に領主が変わっていたかもしれない。

 領民と同様、貴族も領主と約定を結んでいる。

 ウエストリア家との約定に不満が無ければ、領主が変わる事を望む者はいないが、領主の交代により、理を得られると考えればそれを望む者もいる。

 緋色の瞳を持った彼が、どの位の魔力を持ちどの様な人間なのか、多くの思惑と共に人々は集まっていた。

 ウエストリア中の貴族が集まったその場に、子どもと呼べるのは、お披露目される少年といずれ彼のリグになる森の落とし子、そして年も近く剣の相手として考えられていたファーレンの三人だけだった。

 その為、ファーレンは彼がどんな剣を使うのだろうと、少し離れた所から大人達とは違う興味を持って、彼を目で追っていた。

 それは一つのゲームを見ているようだった。

 盤上は、屋敷。
 駒は、多くの貴族達。

 ゲームが開始された時、貴族達は彼に対する期待に溢れていた。

 その中を誰に意識されること無く移動し、彼らと言葉を交わし、たわいもない姿を見せる事で、貴族達の中にあった大きな期待は多少の落胆と共に消え、緋色の瞳を持っていても、彼は5歳の少年でしか無く、それ以上でも、それ以下でも無いのだと思わせられている。

 そうして貴族達の期待を、まるでゲームの駒を裏返して行くように少しずつ変えて行く作業を、確実に一つ一つ続ける彼はとても楽しそうだった。

 ゲームが終わった頃、彼がファーレンに近づいて話しかける。

「お前、ローエンの親父に余計な事を言うなよ」
「どうして?」
「面白くない」

 面白くないとはどう言う事なんだろう? 
 
 家督争いに巻き込まれるのが面倒だと言う意味なら多少理解できるが、今までゲームを楽しんでいた様に、彼はそれさえも楽しむのではないだろうか?

 彼の言葉の意味が理解できず言葉を返す。

「、、、嘘をつくのは嫌だな」
「なら、何か聞かれたら『よく分からなかった』と答えればいい」
「よく分からなかった?」

「嘘では無いだろう?」
「そうだね、それは確かに嘘では無い」

 彼が何を考えているのかは、確かに今でもよく分からない。
 バーナードとは違うが、彼の頭の中には、自分とは違う何かが見えていて、それによって彼は動く。

「どうして僕には見せたの?」

 彼がやっている事にファーレンが気付いている事を、彼は知っていたはずだった。

「今日は、兄上がいたからな、オルが兄上とお前の両方に気が回らなかった」
「かれ、この屋敷の中にいる人の位置を全て把握していたの?」

「当たり前だろ?」
「僕は彼を知らないから」

「なら知っておけ、オルがいれば俺の望まない相手は、誰も俺に近づけない」
「分かった」

「、、、お前、変わっているな」
「そうかな?」
「理由を聞かないのか?」
「それには余り興味は無いよ、、、でも君がどんな剣を使うかは興味がある」

 ファーレンは、政治にどうも興味が持てない。
 相手の腹の中を探りあい、自分が優位になるように立ち回るなど、自分に出来るとは思えない。

 それに相手がどう言った人間かは剣を合わせた方が分かるのだから、その方が簡単で分かりやすく、自分にも合っている。

 呆れられるかと思ったが、それを聞いて彼がとても楽しそうに笑って答える。

「後二年、待っていろよ」
「二年?」

「今やっても俺はお前の相手にはならん」
「ふ~ん、なら二年後に」
「そうだな、二年後に」

 そしてその約束から二年後、彼とはローエングルグの馬屋で再会する事になった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...