エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

文字の大きさ
39 / 74
第四章 ミリオネア

04 船の上(2)

しおりを挟む
「なぁ、どうして見えないふりをしているんだ?」

 ウルフレッドが、船の“精霊使い”に後ろから話しかける。

「何の話ですか?」

 “精霊使い”が、声のした方に振り向いて答える。

「やっぱり、お前、見えてるだろ?」
「何を言っているんです?」

「俺の良く知っているヤツが、お前と同じだったんだよなぁ。お前、ソイツと同じなんだよ、見えている者の動きなんだよなぁ」
「それが貴方にとって、何か不都合でも?」

「いや、なぜ見えないふりをしているのかと思ってさ」
「、、、、、、」

 こちらが何も答えないと、それで興味を失ったのか、いきなり声をかけた男は視線を外して隣にいた少年と話始める。

 嫌な相手だった。

 瞳を隠している事にそれほど意味は無い。
 特にミリオネアの中心から外れた島々では、自分を何者なのかと考える者などいないだろう。

 ミリオネアの人々はおおらかで良く働き、人生を楽しむ事を良く知っている。
 他人の容姿を気にかけるより、のんびりとした自分達の時間を楽しむ事を大切にしている。

 瞳が見えない事で困っているならともかく、不自由していないのなら、その理由など気にしない。

 瞳を閉じているのは、ヒューイ自身の問題だった。

 精霊は、強い人の意志に弱い。
 そして人と目を合わせると言う事は、彼らの意志と真っ直ぐに向き合う必要がある。

 ミリオネアの人々にとって、精霊は自分達より上位にいる存在なので、対価を支払い精霊に願いを叶えて貰う。

 確かに気まぐれな精霊達の気を引くには、彼らの好きなものを与える事は間違っていない。
 人々の願いが聞こえ、贈り物が気に入れば精霊達は喜んで手を貸してくれるだろう。

 だが精霊を最も強く動かすのは、贈り物では無く強い意志や想いの力だ。
 ヒューイは、それらに引きずられる事を嫌い、人と目を合わせないために瞳を閉じている。

 それにヒューイは、強い意志を持つ人が嫌いだった。

 あの時もそうだった。
 かつてエルメニアから来た人は、ヒューイの大切な人を奪って行った。

 彼女は、時々こちらの世界に来ては、人に紛れて遊んでいた。

 だがその人は、いきなり彼女の目の前に現れたかと思えば、あっという間に彼女の心を奪い、遠くに連れ去ってしまった。

 彼女が精霊である事も、同じ時を生きられない事も、彼の意志を変える事は無く、彼女も側にいる事を望んだ。
 結局、父の怒りを買い、彼と共に生きる事を選んだ人は、その力を無くし人として生涯を終えてしまった。

 彼女が幸せだった事は分かっているし、その選択を責めるつもりは無いが、、、彼女を奪った人達と関わりを持ちたく無い事を見透かされた気がした。


 本当に嫌な男だ。
 彼の近くにいると、あの男を思い出す。

 自分に興味を無くした人から離れながら、しばらく嫌な思いをすればいいと、周囲の精霊達に彼に力を貸さないよう伝えておく。

 こうしておけば、ミリオネアに着いても彼は精霊の力を使う事が出来ない。
 もちろん自分の魔力は使えるが、ミリオネアに魔道具のような物は無い。

 魔力は単なる力でしかない。
 精霊達の力とは違い、魔石や魔道具を使う事で、始めて外の世界に影響を及ぼす事が出来る。

 それが無ければ、魔力など何の意味も無く、腕力の方がずっと他者に影響を与えるだろう。

 また彼のように強い意思を持っていても、それを表に出さない限り精霊達を惹きつける事は出来ない。
 それには欲や執着のようなものが必要で、彼からはそれが感じられない。

 ミリオネアで精霊達が力を貸さなかったとしても、彼が強い怒りを感じたりするとは思えない。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...