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第五章 王都
02 追跡
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「タリム皇太子は、どこにいるんだ」
「ノーストリア辺境伯の所に居られます」
兄に仕えていた者が答える。
ノーストリア伯の娘は、皇太子の婚約者の一人で、金の鉱山を保有する辺境伯を敵にする事は、王室も避けたいに違いない。
ならば皇太子の心配をする必要は無いので、こちらは目的の人間を追う事だけを考えればいい。
「王都にいる“影”は、何人いる」
“影”は、ウエストリア家に仕える者で、主に諜報や護衛を行っている者達になる。
騎士達のように表に出ないが、腕もその能力も騎士に劣る事は無く、秀でた者であった。
兄の下で動いていた“影”が数人ほど集まってくる。
「ゾルド教の教祖について知っている者は?」
「、、、それらしき人物を見た事はありますが、顔を見た者はおりません」
「顔が分からない?」
「はい」
ほとんどの者達が同じように頷く所をみると、本当に誰も顔を見た事がないらしい。
そうなると捕まえても、本人であると言う確証が取れないのは厄介な話になる。
「王都は閉鎖されているはずだな」
「ほとんどの街門は閉鎖されています」
「ほとんど?」
「今日の午後、第五門から幾つかの商隊が出発したと聞いています」
「外に出したのか?」
「商隊の方から出発したいと昨日から申し出があり、一部の者には許可を出したと聞いています」
王宮で皇太子の命が狙われる様な事があったと言うのに、いくら一部と言っても門を開けて、敵を逃がしてしまうとは思ってもみなかった。
「外に出た者達が、どの様な者達か、どちらに向かったのか調べてくれ」
「逃げたと思われるのですか?」
「毒を作った者なら逃げるだろう」
「そうでしょうか、毒の件にしても、ゾルド教の介入を証明できるものではありません」
「それに第一后妃が保護されている方でもありますので、調べる事さえ難しい方々です」
「兄上に何かあれば、ウエストリア家が黙っていない事くらい予想できるはずだ」
「しかし、、、」
兄に仕えている者達が、余り知らない弟の言葉に従えないのは理解できるが、どうも話が進まない。
とりあえず王都から出た者達を調べに行かせ、残った“影”と話をする。
「お前達は、王都に残っていると思っているのか?」
「逃げ出す必要を感じません。王都を離れる方が、后妃の保護が無くなり危険だと考えるのでは無いでしょうか?」
王宮の状況をよく知っている“影”には、ゾルド教が王都を離れるとは考えられないという事だ。
おそらくそれ程、エレノア妃に優遇されていたのだろう。
確かに毒を作ったのがゾルド教の教祖だとしても、それを証明する手立ては無い。
だが仮に、タリム皇太子が酒杯を飲んでいたら、逆に二日も命を保つ事が出来ただろうか?
魔力を持つ者は、それを使って自分の身体を守る事が出来る。
兄上も皇太子を守るために無謀な事をしただけでは無く、多少の毒なら耐性もあるし、魔力で自分を守る事が出来ると思っていたから、代わりに酒杯を受けたに過ぎない。
その兄が、癒しの使い手の力を借りても消す事が出来ない毒を、皇太子が飲んで無事でいる事が出来ただろうか?
皇太子を殺した王が、そのまま王位に留まる事はあり得ない。
今回の事を画策した者が、“気がふれた”か“病”だと理由を付けて陛下を退位させ、第二王子を即位させようとして、その間、原因となった毒を作った者を王宮に留めて置くだろうか?
エルメニアは、独裁政治の国では無い。
確かに王室の力もあるが、政治を行っているのは貴族だし、その貴族達が全て、第二王子の即位に賛成する様な状況にあるとは考えられない。
兄上がその様な状況を許すとは思えないし、タリム皇太子もそれを見過ごすほど愚かな人では無いはすだ。
だとすれば、陛下が退位しても皇太子でも無い人を、即位させる事は簡単では無い。
陛下には魔力を持たないため王位を継がなかったが、人徳者と知られている兄のアウスレーゼ公爵もいる。
次の王が決まる間、退位の原因となった毒に関係する者を、王宮に留めて置くだろうか?
情勢が決まればいくらでも戻って来られるのだから、一旦、王都を離れるのではないだろうか?
そんな事を考えていると、城門を調べた者達が戻り、五つの商隊が既に王都を離れたと教えてくれる。
「一つは北へ、残り四つの商隊は南に向かいました」
王都の街道を北に向かうならノーストリアの方へ、南に向かうなら、途中でイーストリアかサウストリアに別れるはずだ。
「では、二人は王都に残って王宮を探ってくれ」
「後は、南に向かう」
「北に逃げるのでは無いでしょうか?」
「なぜだ?」
「北の街道を外れれば、竜の谷の方に逃げ込めます。魔物が多いので、追っ手を撒く事が出来るのではないでしょうか?」
「魔物の中に逃げ込んでくれるなら、都合がいいんだがな」
「どういうことでしょう?」
地の力に秀でたオルグは、魔物と人の持つ魔力の違いが分かるので、どんなに魔物がいようと、その中に紛れた人を探す事は決して難しくない。
だが、それを知らない兄の“影”に伝えても、おそらく理解は得られない。
「いや何でもない。では、二人は北に行った者達を調べろ」
「分かりました」
「追跡は明日の夜までだ、それまでに教祖を捕まえて屋敷に戻る」
毒を作った者を捕まえる事が出来れば、その毒を解毒する事も出来るはずだ。
そうすれば兄上の毒も消す事ができる。
その時は、そう信じていた。
「ノーストリア辺境伯の所に居られます」
兄に仕えていた者が答える。
ノーストリア伯の娘は、皇太子の婚約者の一人で、金の鉱山を保有する辺境伯を敵にする事は、王室も避けたいに違いない。
ならば皇太子の心配をする必要は無いので、こちらは目的の人間を追う事だけを考えればいい。
「王都にいる“影”は、何人いる」
“影”は、ウエストリア家に仕える者で、主に諜報や護衛を行っている者達になる。
騎士達のように表に出ないが、腕もその能力も騎士に劣る事は無く、秀でた者であった。
兄の下で動いていた“影”が数人ほど集まってくる。
「ゾルド教の教祖について知っている者は?」
「、、、それらしき人物を見た事はありますが、顔を見た者はおりません」
「顔が分からない?」
「はい」
ほとんどの者達が同じように頷く所をみると、本当に誰も顔を見た事がないらしい。
そうなると捕まえても、本人であると言う確証が取れないのは厄介な話になる。
「王都は閉鎖されているはずだな」
「ほとんどの街門は閉鎖されています」
「ほとんど?」
「今日の午後、第五門から幾つかの商隊が出発したと聞いています」
「外に出したのか?」
「商隊の方から出発したいと昨日から申し出があり、一部の者には許可を出したと聞いています」
王宮で皇太子の命が狙われる様な事があったと言うのに、いくら一部と言っても門を開けて、敵を逃がしてしまうとは思ってもみなかった。
「外に出た者達が、どの様な者達か、どちらに向かったのか調べてくれ」
「逃げたと思われるのですか?」
「毒を作った者なら逃げるだろう」
「そうでしょうか、毒の件にしても、ゾルド教の介入を証明できるものではありません」
「それに第一后妃が保護されている方でもありますので、調べる事さえ難しい方々です」
「兄上に何かあれば、ウエストリア家が黙っていない事くらい予想できるはずだ」
「しかし、、、」
兄に仕えている者達が、余り知らない弟の言葉に従えないのは理解できるが、どうも話が進まない。
とりあえず王都から出た者達を調べに行かせ、残った“影”と話をする。
「お前達は、王都に残っていると思っているのか?」
「逃げ出す必要を感じません。王都を離れる方が、后妃の保護が無くなり危険だと考えるのでは無いでしょうか?」
王宮の状況をよく知っている“影”には、ゾルド教が王都を離れるとは考えられないという事だ。
おそらくそれ程、エレノア妃に優遇されていたのだろう。
確かに毒を作ったのがゾルド教の教祖だとしても、それを証明する手立ては無い。
だが仮に、タリム皇太子が酒杯を飲んでいたら、逆に二日も命を保つ事が出来ただろうか?
魔力を持つ者は、それを使って自分の身体を守る事が出来る。
兄上も皇太子を守るために無謀な事をしただけでは無く、多少の毒なら耐性もあるし、魔力で自分を守る事が出来ると思っていたから、代わりに酒杯を受けたに過ぎない。
その兄が、癒しの使い手の力を借りても消す事が出来ない毒を、皇太子が飲んで無事でいる事が出来ただろうか?
皇太子を殺した王が、そのまま王位に留まる事はあり得ない。
今回の事を画策した者が、“気がふれた”か“病”だと理由を付けて陛下を退位させ、第二王子を即位させようとして、その間、原因となった毒を作った者を王宮に留めて置くだろうか?
エルメニアは、独裁政治の国では無い。
確かに王室の力もあるが、政治を行っているのは貴族だし、その貴族達が全て、第二王子の即位に賛成する様な状況にあるとは考えられない。
兄上がその様な状況を許すとは思えないし、タリム皇太子もそれを見過ごすほど愚かな人では無いはすだ。
だとすれば、陛下が退位しても皇太子でも無い人を、即位させる事は簡単では無い。
陛下には魔力を持たないため王位を継がなかったが、人徳者と知られている兄のアウスレーゼ公爵もいる。
次の王が決まる間、退位の原因となった毒に関係する者を、王宮に留めて置くだろうか?
情勢が決まればいくらでも戻って来られるのだから、一旦、王都を離れるのではないだろうか?
そんな事を考えていると、城門を調べた者達が戻り、五つの商隊が既に王都を離れたと教えてくれる。
「一つは北へ、残り四つの商隊は南に向かいました」
王都の街道を北に向かうならノーストリアの方へ、南に向かうなら、途中でイーストリアかサウストリアに別れるはずだ。
「では、二人は王都に残って王宮を探ってくれ」
「後は、南に向かう」
「北に逃げるのでは無いでしょうか?」
「なぜだ?」
「北の街道を外れれば、竜の谷の方に逃げ込めます。魔物が多いので、追っ手を撒く事が出来るのではないでしょうか?」
「魔物の中に逃げ込んでくれるなら、都合がいいんだがな」
「どういうことでしょう?」
地の力に秀でたオルグは、魔物と人の持つ魔力の違いが分かるので、どんなに魔物がいようと、その中に紛れた人を探す事は決して難しくない。
だが、それを知らない兄の“影”に伝えても、おそらく理解は得られない。
「いや何でもない。では、二人は北に行った者達を調べろ」
「分かりました」
「追跡は明日の夜までだ、それまでに教祖を捕まえて屋敷に戻る」
毒を作った者を捕まえる事が出来れば、その毒を解毒する事も出来るはずだ。
そうすれば兄上の毒も消す事ができる。
その時は、そう信じていた。
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