エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第五章 王都

03 オルグ

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 森には時々、森人と違う容姿の子どもが生まれる。
 この子ども達は、“森の落し子”と呼ばれ、ウエストリア家で育てられる。

 真っ黒な髪と瞳を持ったオルグも、生まれた時からウエストリア家で育てられたが、オルグは幼い頃、それが嫌で仕方が無かった。

 ウエストリア家の母や使用人達に問題があった訳では無く、自分より半年ほど後に生まれた、この家の息子と一緒に育てられる事が本当に嫌だった。

 “森の落し子”は“神様からの贈り物”とも言われ、魔力もそれ以外の能力にしても優秀な者が多かった。
 黒髪と美しい空色の瞳を持ったフレリア様も同じで、とても強い魔力を持ち16歳でセリス様の妻となった。

 オルグにしても自分の能力が劣っているとは思っていなかったが、自分と共に育った緋色の瞳を持った少年は、自分達とは全く違っていた。

 自分がそれなりに苦労し習得しても、彼は簡単に自分のものにしてしまう。

 勉学も体術もおそらく魔力の強さも彼に敵う事は無く、何をしても何があっても、彼を困らせ惑わせる物はなく、いつも楽しそうに物事に対応する。

 おまけに彼は“人たらし”でもあるので、嫌なのだが、一緒に居たくないかと言われるとそれも違うので、それがまた腹立たしい。

 彼はどんな時でも、オルグの力を全面的に信用する。

 それで命を失うような事になれば、おそらく自分よりオルグを守るだろうし、そうなったとしてもオルグを責める事はないだろうとさえ思う。

 また、オルグが他の人に仕えたいと言えば、『分かった』と受け入れるだろうし、他の友人達にしてもそれは変わらないだろう。

 彼は自分の周りの人達を大切に思っていても、執着する事がない。
 兄の為、領民の為と言う執着はあっても、自分の為という気持ちが全く無い。

 兄を手伝い領地の仕事をしていても、退屈な物事の中で、何か見つけて楽しむような男で、いつも余裕があり、強く感情を揺さぶられる所を見た覚えがなった。

 そのいつも飄々として、強い怒りを表すことの無かった友人が、王都からの知らせを手にした時から違って見える。

「あの中にいるんだな」

 ウルフレッドとオルグは、王都とサウストリアを結ぶ街道沿いにある町を見下ろす丘の上にいた。

「うん」

 先程の知らせで、既に王宮にゾルド教の教祖がいない事は分かっている。

 王都を出発した商隊のうち、南に行った四つの商隊の中で、夜になったため王都の近くに留まっていた二つの商隊の中に教祖がいるとは考えにくく、イーストリアに向かった別の商隊は、ファルコーネ家のものだった。

 北に行った商隊も街道を外れることなく、ノーストリア領内に入っていて、調べたが問題無かったと知らせが届いている。

 残った一つ、王都から休むことなくサウストリアに向かっていたこの商隊だけが、教祖が隠れている可能性がある。

 だがその商隊が逃げ込んだ町には、ウルフレッド達が追いつくまでに、南から王都に向かう多くの人達が町に入っていて、この中から目的の人間だけを探しだす事は不可能に近い。

「いるはずだよ、町から出た者はいないから」
「だが、この中から探しだす事は難しい」
「うん、特別な動きをしてくれると分かるんだけど、、、」

 三百人程度の人間なら、誰かを守るような、また逃がすような特別な動きをする者がいれば、オルグには見つける事が出来る。

 だが、そう言った動きが見られないなら、魔力の特性や力についても良く知っているという事になり、知っていてこの町まで逃げて来たなら、明日、この町の門が開けば目的の人間に逃げられるという事だ。

「やられたな」
「ごめん」
「オルのせいではないさ。俺がこの町を燃やしてしまう事が、出来ないだけの話だ」

 全てを灰にしてしまえば、逃げ込んだ相手を消す事が出来る。
 捕まえて連れ帰る意味が無くなったのなら、兄をしいした相手を生かしておく必要は無い。

 だがこれは私怨であって、三百人以上の人を巻き添えにして良い物でも無い。

「戻る」
「朝までいないの? 出て行く者を調べる事も出来ると思うけど、、、」
「いや、無理だろうな。オルの目から逃れる様な男が、そんなミスをするとは思えない」

 ウルフレッドが答えるが、何時ものように楽しんでいる声では無い。

「諦めるの?」
「諦めるつもりは無い、だが今は王都に戻ってやる事がある」
「后妃達のこと?」

「そうだな。兄上に手を出した者を、そのままにしておくつもりは無い。陛下には退位して貰うし、后妃とその周辺にも消えて貰う」
「分かった」

 オルグにとっても、自分の目から逃れた者をこのままにしたくは無い。
 だがウルフレッドが諦めないと言うなら、これからも彼を追う機会はあるはずだ。

 彼が一度口にした言葉を、撤回する事などあり得ないのだから。

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