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第五章 王都
06 ウルフレッド
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ウルフレッドは自分の瞳が好きでは無かったが、周囲の人々は久しぶりに現れた緋色の瞳を歓迎した。
広大なウエストリア領を治める事を王室に認めさせるには、領主が緋色の瞳を持つ事が、最も有効で簡単な手段であり、実質的にも領内を治める為に緋色の瞳は必要だった。
だが百年もの間、見た事もない瞳の色に人は怯えた。
周囲の人達は、ウルフレッドが待つ魔物と同じ瞳に怯え、その後、ウルフレッドが人である事を認識し安心する。
自分を育てた両親や屋敷の使用人達に問題があった訳ではない、彼らは自分を大切に育ててくれていたが、その僅かな心の動きに気が付かないほど、ウルフレッドは愚鈍ではなかった。
ウルフレッドが瞳を隠すようになったのは、自分の身分を知られない以上に、彼らが慣れるまで、不必要に彼らを怯えさせる必要は無い、と考えるようになったからだった。
自分が周囲の人々と何かしら違う魔力を持っていることを感じていたので、彼らの中にある僅かな怯えは、自分の持つ魔力が異質なものである事を、より一層自覚させる事にもなった。
そういう意味で、真っ黒な髪と瞳を持つ少年と一緒にいる事は心地よかった。
彼の持つ魔力も、やはり周囲の者達と違っていて、異質なものが自分だけで無いと思う事が出来た。
兄であるセリスは、そう言った心の動きが読めない数少ない人だった。
「やぁ、ウルフだね、本当に綺麗なウエストリアの緋色だね」
二十以上歳の離れた兄は、一年のほとんどを王都にいて、頻繁に会う事は無かったが、ウルフレッドは兄の事がとても好きだった。
自分に感情を読ませない兄との会話は面白かった。
だが王都にいる兄と過ごす時間は少なかった。
ウルフレッドが生まれる前に始まった王都の外壁工事は、進むにつれ規模が大きくなっていった。
壁を作るためには多くの資材や人手が必要になり、食べる物や寝る場所が必要になる。
人が集まれば揉め事が起こるし、起きた揉め事を放置していれば、さらに大きな問題を引き起こす。
既に当時の王室には、それらを支える国費も武力も無く、兄を始め何人かの貴族が何とかそれを治めていた。
兄と自由に話せるようになったのは、十六年に渡った外壁工事が終了し、ウルフレッドが転移門を使って王都に行けるようになってからだった。
「兄上!」
「ウルフ、また来たのかい?」
「兄上が王都を離れられないのだから、俺が来るしかないだろ?」
「父上が許していないだろう?」
「たった一度、門を使う時に酔ったくらいで、父上は煩いんだ」
「仕方のない奴だなぁ」
「それより兄上は、何をしているんだ?」
「ガルスとの交渉にあたる人を選んでいるんだよ」
「選ぶ?」
「そうだね、ガルスからは魔鉱石を、エルメニアからは麦などの食糧を渡している。毎年の事だからね、形式的な物なんだが、、、相応しくない人がいては困るからね」
「形式的な交渉に、相応しくない人間がいるのか?」
「自分なら、より有利な条件で交渉出来る、などと思っているような人は必要無いね」
「友好国との形式的な交渉で、そんな事を考える者がいるのか?」
「状況が見えていない者は、どこにでもいるものだよ」
「状況を見ることも出来ない者を、交易や流通を担当する外務院においてどうするんだ?」
「ここは一見華やかに見えるからね、五月蝿いネズミを飼うには丁度いいんだよ」
「もっと五月蝿くならないのか?」
「同僚達には申し訳ないが、中でいくら騒いでも僕には聞こえて来ないからね」
「院を出たら?」
「それでも出て行く事は出来ないものだよ、一度手にした物を手放すには勇気がいるからね」
要するに扱いに面倒な貴族を飼い殺しにしている訳だ。
“ヘイズ・マクシミリアン”
兄が交渉団の中から外した貴族の名前を目で追う。
「交渉団から自分を除外したと、兄上を恨むようにならないのか?」
「僕はこの件に関係していないから大丈夫だよ」
ではその手の中にある書類は何なのかと言いたくなるが、兄上が心配ないと言うのなら大丈夫なのだろう。
「彼が兄上の敵になったら、兄上はどうする?」
「そうだね、その時は徹底的に叩き潰しておくかな」
「えらく物騒だ」
「こういった人間は、自分の非を認めないものだからね」
「叩き潰すね」
「ウルフには難しいかな、キミは人が好きだからね」
「それは兄上も同じだろ?」
「僕とウルフではだいぶ違うと思うよ」
「そうかなぁ」
「僕は特定の相手に対するものだが、ウルフは万人に対する感情だからね」
「それは屋敷にある“約束事”のせいだろ? “緋色を持つ者は、その力を守るために使用しなくてはならない”
俺は生まれた時から、聞かされているんだから仕方ないだろ?」
「それは災難だったね」
この国を作った人達は、国を造ると同時にエルメニアの人々に守るべき“約定”を作った。
それは“エルメニアの建国憲章”と呼ばれ、王都の枢機院とウエストリアの屋敷に残っている。
国内外に広く知られている物では無いが、王室とウエストリアを継ぐ者達は、この憲章を絶対の“約定”として幼い頃から教え込まれ、ウエストリアには、王室には無い最後の一節が付いている。
「面倒なものを残してくれるよなぁ」
「そうなのかい?」
「“守る”って曖昧だろ? 国、土地、人、、、いったい何を守れって言うのさ」
「それを決めるには、自分だよ」
“守る”ものを自分の意思で決めていいなら、兄は大切な人だった。
だがその人を守る事が出来なかったなら、彼が大切にしていたものを、自分が代わりに守らなければならない。
広大なウエストリア領を治める事を王室に認めさせるには、領主が緋色の瞳を持つ事が、最も有効で簡単な手段であり、実質的にも領内を治める為に緋色の瞳は必要だった。
だが百年もの間、見た事もない瞳の色に人は怯えた。
周囲の人達は、ウルフレッドが待つ魔物と同じ瞳に怯え、その後、ウルフレッドが人である事を認識し安心する。
自分を育てた両親や屋敷の使用人達に問題があった訳ではない、彼らは自分を大切に育ててくれていたが、その僅かな心の動きに気が付かないほど、ウルフレッドは愚鈍ではなかった。
ウルフレッドが瞳を隠すようになったのは、自分の身分を知られない以上に、彼らが慣れるまで、不必要に彼らを怯えさせる必要は無い、と考えるようになったからだった。
自分が周囲の人々と何かしら違う魔力を持っていることを感じていたので、彼らの中にある僅かな怯えは、自分の持つ魔力が異質なものである事を、より一層自覚させる事にもなった。
そういう意味で、真っ黒な髪と瞳を持つ少年と一緒にいる事は心地よかった。
彼の持つ魔力も、やはり周囲の者達と違っていて、異質なものが自分だけで無いと思う事が出来た。
兄であるセリスは、そう言った心の動きが読めない数少ない人だった。
「やぁ、ウルフだね、本当に綺麗なウエストリアの緋色だね」
二十以上歳の離れた兄は、一年のほとんどを王都にいて、頻繁に会う事は無かったが、ウルフレッドは兄の事がとても好きだった。
自分に感情を読ませない兄との会話は面白かった。
だが王都にいる兄と過ごす時間は少なかった。
ウルフレッドが生まれる前に始まった王都の外壁工事は、進むにつれ規模が大きくなっていった。
壁を作るためには多くの資材や人手が必要になり、食べる物や寝る場所が必要になる。
人が集まれば揉め事が起こるし、起きた揉め事を放置していれば、さらに大きな問題を引き起こす。
既に当時の王室には、それらを支える国費も武力も無く、兄を始め何人かの貴族が何とかそれを治めていた。
兄と自由に話せるようになったのは、十六年に渡った外壁工事が終了し、ウルフレッドが転移門を使って王都に行けるようになってからだった。
「兄上!」
「ウルフ、また来たのかい?」
「兄上が王都を離れられないのだから、俺が来るしかないだろ?」
「父上が許していないだろう?」
「たった一度、門を使う時に酔ったくらいで、父上は煩いんだ」
「仕方のない奴だなぁ」
「それより兄上は、何をしているんだ?」
「ガルスとの交渉にあたる人を選んでいるんだよ」
「選ぶ?」
「そうだね、ガルスからは魔鉱石を、エルメニアからは麦などの食糧を渡している。毎年の事だからね、形式的な物なんだが、、、相応しくない人がいては困るからね」
「形式的な交渉に、相応しくない人間がいるのか?」
「自分なら、より有利な条件で交渉出来る、などと思っているような人は必要無いね」
「友好国との形式的な交渉で、そんな事を考える者がいるのか?」
「状況が見えていない者は、どこにでもいるものだよ」
「状況を見ることも出来ない者を、交易や流通を担当する外務院においてどうするんだ?」
「ここは一見華やかに見えるからね、五月蝿いネズミを飼うには丁度いいんだよ」
「もっと五月蝿くならないのか?」
「同僚達には申し訳ないが、中でいくら騒いでも僕には聞こえて来ないからね」
「院を出たら?」
「それでも出て行く事は出来ないものだよ、一度手にした物を手放すには勇気がいるからね」
要するに扱いに面倒な貴族を飼い殺しにしている訳だ。
“ヘイズ・マクシミリアン”
兄が交渉団の中から外した貴族の名前を目で追う。
「交渉団から自分を除外したと、兄上を恨むようにならないのか?」
「僕はこの件に関係していないから大丈夫だよ」
ではその手の中にある書類は何なのかと言いたくなるが、兄上が心配ないと言うのなら大丈夫なのだろう。
「彼が兄上の敵になったら、兄上はどうする?」
「そうだね、その時は徹底的に叩き潰しておくかな」
「えらく物騒だ」
「こういった人間は、自分の非を認めないものだからね」
「叩き潰すね」
「ウルフには難しいかな、キミは人が好きだからね」
「それは兄上も同じだろ?」
「僕とウルフではだいぶ違うと思うよ」
「そうかなぁ」
「僕は特定の相手に対するものだが、ウルフは万人に対する感情だからね」
「それは屋敷にある“約束事”のせいだろ? “緋色を持つ者は、その力を守るために使用しなくてはならない”
俺は生まれた時から、聞かされているんだから仕方ないだろ?」
「それは災難だったね」
この国を作った人達は、国を造ると同時にエルメニアの人々に守るべき“約定”を作った。
それは“エルメニアの建国憲章”と呼ばれ、王都の枢機院とウエストリアの屋敷に残っている。
国内外に広く知られている物では無いが、王室とウエストリアを継ぐ者達は、この憲章を絶対の“約定”として幼い頃から教え込まれ、ウエストリアには、王室には無い最後の一節が付いている。
「面倒なものを残してくれるよなぁ」
「そうなのかい?」
「“守る”って曖昧だろ? 国、土地、人、、、いったい何を守れって言うのさ」
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