エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第六章 エリス

01 出会い

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 初めて会ったのは、“ヘルテ”の木の下だった。

「それは止めておけ」

 いきなり後ろから声をかけられ、びっくりして振返ると、いたずらっぽい緋色の瞳が、笑いながら顔を近づけて話しかける。

「ほら、もっと上にある、あの紫色になったのにしろ」
「あれはダメだよ、苦いんだ」
「大丈夫だ、薄紫の大きなやつだ。ほら、やってみろ」

 知らない人が五月蠅い。

 王都の近郊、見たこともない青年に話しかけられる。

 “ヘルテ”は王都の外壁の外にある実のなる木だが、緑色の実は渋く、紫色に熟れると苦くなる。
 おかげで誰にも食べられる事もなく、王都の城壁から少し離れるといくらでも取る事が出来た。

 熟れた実はさすがに食べる事が出来ないが、渋い実はなんとか食べる事が出来たので、エリスはお腹が空くと時々取りに来ていた。

『知らないぞ』

 そう思いながら左手の石を握り、魔力を使って実を落とす。

 声を掛けて来た青年は、落ちてきた実を受け止めると、半分に割って片方を自分に渡してくれる。

「ほら」

 実からは美味しそうな匂いがしているが、一度嫌な思いをしているので口に入れる気にならない。
 隣の青年は美味しそうに食べ終わると、新しい実を自分で落としてまた食べている。

「どうして?」

 覚悟して食べたヘルテの実は、サクサクとして甘かった。

「前に食べたときは、苦かったのに、、、」
「それは熟れすぎだ。実の堅い薄紫色になったばかりの実を狙え、美味いだろう? 忘れるなよ」

 二つ目の実を食べ終わると、そう言って頭を撫ぜ、くぎを刺す。

「だがこれでは腹はふくれんな。よし、飯を食べに行こう」

 その人がスタスタ王都の方に歩いて行くので、驚いてそのまま見ていると、早く来いと呼ばれるので、そのまま王都の中に入る。

 いつもは自分など城門を通さない衛兵も、彼が自分の通行料を支払ってくれたらしく何も言わない。

「王都の中に入るのは初めてか? ほら、遅れるなよ」

 城門の中に入るのは初めてで、キョロキョロしていると歩きながら話しかけられる。
 
 一緒に歩いている間に、エリスと言う名前や歳、親は既にいないことや、いつもは城壁外にある“篝火小屋”にいる事を話す。

 知らない人間を警戒するべきだと思っても、なぜかその人にそんな気持ちを持つ事ができないでいると、王都の第二層にある赤い屋根の家に連れて行かれた。

 そこで食べたスープとパンが生涯で一番美味しかった。

「お前、親が居ないのならここで下働きをする気は無いか?」
「え?」

 必死で食べていると話しかけられる。

「楽な仕事では無いが、寝る所と食べる事には困らない」
「ここで暮して良いって事?」

「守って貰う事はあるな、私とエリスの約束になる」
「何を守ればいいの?」

「そうだなあ、マルタの言う事を必ず守る事。
 それから、私が良いと言うまで決して魔力を使わない事。
 最後に、15歳になるまでは必ずこの家で暮らす事。どうだ、守れそうか?」

 こちらをまっすぐに見て話を続ける。

「エリスがこの約束を必ず守る事が出来るなら、私はお前のここでの生活を保証しよう」

 約束は約定の一つだ。
 双方の意思で結ばれた約定には意味が生まれる。

 自分がいくら子どもで、正式な約定を結ぶことが出来なくても、安易な約束は危険だと知っている。
 それでもこの人の側に居るのは居心地が良かった。

「分かった、約束する」
「よし、約束だ」

 右手を差し出されるので自分も右手を出して握手した後、その人が部屋に入って来た別の青年に声をかける。

「ライオネル、紹介するよ、僕の弟子だ」
「貴方のですか?」
「そう、僕の」

 ライオネルと呼ばれた人が、呆れた顔をする。

「エリス、僕の事は師匠と呼んでいいよ。君は弟子だからね」
「師匠?」
「そう、魔力の使い方を教える先生だね」

 彼が楽しそうに話す。

「でも魔力は使うなって」
「まあね、お前は、12歳にしては体が小さ過ぎる、まず体力を付けないとね」

 そう言った後、頭を乱暴に撫でる。

「しばらくはしっかり食べて良く寝る事だ、私がいない間も忘れるなよ」

 そうしてそこでの生活が始まる事になった。

 食事のマナーから、文字の読み書きまで、忙しいその人は、時々やって来ては色んな事を教えてくれた。
 父のように、兄のように、陽気で厳しく、そしてとても優しいその人に弟子と呼ばれるのは嬉しかった。

 三年近くそこで暮して15歳になった時、王都からウエストリア領に来ないかと言われ、自分の師であったその人が、西方辺境伯その人だと気が付いた。
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