エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第六章 エリス

04 戦いの前

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 王都からウエストリアに移籍し、領民に魔力の使い方を教える手伝いをしていた頃、アッタリアと戦になると師匠から知らされた。

「エリス、王都に戻るかい? お前は未だ若い、今度はちょっと大変な気がするからね」
「僕では役に立ちませんか?」

「いや、此処に居るなら使わせて貰うよ」
「なら使ってください。僕は師の側を離れるつもりはありません。この先、何があっても」

「そうか、お前が戻るならセルト達を任せようかと思ったが、それなら彼らにもこちらに来て貰おうかな」
「王都の者たちを、全てですか?」
「そうだね、その方が良いだろう」

 エリスが数年暮らした王都にある赤い屋根の家は、王都の平民達に魔力の使い方を教えていた。

 貴族達とは違って魔力がそれほど強く無くても、上手く魔力を使えないために起こる事故は、王都でも度々生じていて、平民達の間では問題になっていた。

 只、あくまで平民の暮らしの中で起こる事であったし、魔力も強くないので大きな事故にならないため、貴族達が動くことは無かった。

 ウルフレッドが作った王都の学び舎には、平民達の中で扱いに困るような魔力を持っている子ども達に使い方を教え、身寄りのない者は15歳になるまでそこに留まり、その後、希望する領地に移籍したり、商人の元で働いたりする様になっていた。

 水を扱うのを得意としたセルトは、エリスがウエストリア領に来るまでは、一緒に学び舎で暮らしていた。

 王都から自領に領民を移籍するためには、王室に移籍料を支払う必要がある。

 学び舎で魔力の使い方や文字を学んだ者達は、どこの領主にも好意的に迎えてられていたので、学び舎で暮らしている者達は多くないがそれなりの人数になる。

 それら全ての移籍料を支払うのは大変だし、自領に移籍させれば彼らを養う義務が生まれる。

 セルトは魔力も多いし、騎士として仕える事が出来るだろうが、他の者達はあくまで人並み以上の魔力を持っているだけで、貴族達のそれとは全く違っている。

「大丈夫なのですか?」
「ん? エリスは心配かい?」

「セルトが来てくれるのは嬉しいです。でも他の者達が戦の役に立つとは思えません」
いくさには色々な戦い方があるものさ。心配するな、私だって無茶な事はしない、お前達を守るのは私の仕事なのだからね」

 それから三か月。
 アッタリアとの戦の準備を続けている頃だった。

「師匠は、アッタリアとの戦いに勝つつもりなのですか?」
「おや、勝ちたいのかい? そう言えばエリスは、昔から負ける事が嫌いだったね」

 楽しそうに話す。

「はい、喧嘩に負けて泣いていたら『負ける喧嘩をなぜするのか?』と言われた事がありました」
「喧嘩なんてする事あったのか?」

 隣で話を聞いていたクラウス殿に話しかけられる。

「まだ王都にいた頃、体も小さくて、、、師匠との約束で魔力は使えなかったし、時々絡まれたりしたのです。
そしたらお前は未だ体が出来上がっていないのだから、負けて当たり前だと、『喧嘩になりそうなら、さっさと逃げて来い』と師匠に言われました」

「そんな事を言ったのですか?」

 クラウス殿が驚いている。

「当たり前だろう? 殴られたら痛いじゃないか、殴られる前に逃げるのが一番さ」

 ヘステリアの荒野と呼ばれる国境周辺の地図を見ながら師が話すと、クラウス殿がなんだか納得のいかない顔をする。

「エリスはその時どうしたんだ?」
「結局、僕も逃げる事にしました。道を覚えて、どうやって逃げたら確実か考えるようになりました」

「エリス、僕は変わらないよ。この戦は、逃げる事は出来ないが、負けない様にする事は出来るからね」
「それなら安心です。師匠が負ける事はないでしょうから」

 ライオネル殿が、偵察に行っていたオルグ様が帰って来た事を伝えに来る。

「ウルフレッド様、オルグ様が戻って来ました」
「よし、これで敵の状況が少しでも分かると助かるね」

 こうして情報を集め、作戦を練り、準備を整えていたため、始めて見たアッタリアの兵も恐ろしいとは思わなかった。

 自分は師に命じられた事を行うだけ、それが決して多くない戦力で戦うために、なりよりも大切だと言う事は良く分かっている。

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