エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

文字の大きさ
63 / 74
第七章 アッタリア戦

08 アッタリア戦(5)

しおりを挟む
 アッタリア人は夜目がきく。
 砂漠に入ってきた敵を攻撃するのは、日が暮れてからになるだろう。

 おそらく逃げ道を塞ぐように攻撃してくるアッタリア兵を後方から攻撃し、道を開いて逃がすしかない。

 だがこちらが予想している岩場を奥まで進んでしまっていると難しい。

 荒野を砂漠に沿って北に進み、砂漠の岩場になるべく近づいて暗くなるのを待つ。

 日が陰り始めた頃、砂漠に入り、目的の岩場の方に進んでいく。

「オルグ、どうだ?」
「岩場の中央にほとんどが集まって戦っていますね。東側にも小さな集団がありますが、こちらは自分たちでどうにかなりそうです」

「自分達だけ逃げているのか?」
「まぁ、そういう事です」
「では、そちらに向かった兵が戻って来ないうちに行くしかないね」

 アッタリア兵の後方、数メートルに近づいてウルフレッドが声をかける。

「よし、黒曜石は持っているな? 取り込むタイミングを間違えるなよ、帰るまでが戦だからな」

「ウル、十八メートル左手前方です」

 オルグが敵の位置を教えてくれる。

 左手を前に出し、魔具を使って火炎をいくつか放ち、それを合図にウエストリア兵が戦いに入る事になる。

 ウルフレッドは、右手に剣、左手に火炎を放つ魔具を付けて戦う。
 離れた敵には炎火が効率的だし、近接戦闘では剣の方が使いやすい。

 オルグは地の魔力を使う事が得意なので、大地の上に存在するものの位置を把握する事に優れている。

「ウル、右側、岩場の向こうから来るのがいます」
「今度は左に、まっすぐ」

 常に自分の近くにいて、火炎を放つ場所や方向を教えてくれる。

「あまり離れるなよ、お前は防御がさっぱりだろう」
「大丈夫ですよ、ちゃんと敵の位置は把握していますから」

 オルグは気にする様子もない。

「それより急いだ方が良さそうです、先に逃げた連中の相手をしていたのが戻って来ます」

 クラウスに先導させ、ファーレンの部隊と共にしんがりを務める。

 防御に徹して戻る事に集中すれば、魔力の少ない者でもどうにかなったので、なんとか軍をまとめてウエストリアの方に向かう。

 ウエストリアまで残り数十メートルと言う頃、左手から新手がやって来る。

 アッタリア兵は、引き際も良いが勝利にも貪欲だ。
 勝てると思った戦では、やっかいな敵になる。

 最後の黒曜石を取り込んで、既に時間が経っているので、そろそろ限界が近づいている。
 こんな所でと思った瞬間、エリスがアッタリア兵に突っ込んで行くのが見える。

「無茶をする」

 その間にウエストリアの国境近くまで戻ると、エリスにも引くように合図を送る。

「いやぁ、助かったよ。さすがに疲れた」

 軽口を叩いてみるが、前日の回復が出来ていない自分がぎりぎりの状態だった事は知られている。

 ライオネルは怒るし、セルトは泣くし、エリスも側から離れようとしない。

「こちらで国境周辺の警備はできますので、クラウスやファーレンと共に緑樹院に行って下さい」
「緑樹院がここまで来ているのかい?」

「はい、癒しの使い手の方が何人か。長官殿が送って下さったようです」
「それは助かるな。これでは男前が台無しだからね」

 エリスの肩を借りてそちらに向かいながら、

「ライオネル、これでしばらく長引く事になった。素直に引いてはくれないだろう」
「また仕掛けて来ると?」

「おそらくね、だが水と食糧が持つとは思えないから、数は減るだろうね」
「では、守りに徹して対応します」
「頼む」
 
 ライオネルに国境を任せた後、オルグに向かって言う。

「君も休養だよ、まだ頼みたい事があるからね、それまでにこの怪我をお互いどうにかしよう」

 ウエストリアの兵に犠牲は出なかったが、先に砂漠に入った兵の一部は失う事になった。
 おまけにこちらに余力がないのも知られた形になる。

 前回はうまく罠に嵌ってくれたが、アッタリア兵はおそらく砂漠から出てこなくなるだろう。

 面倒な事になったと憂鬱な気分になるが、その数分後、緑樹院で一人の女性に会い、その事だけは感謝する事になる。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~

Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。 三男。継承権は遠い。期待もされない。 ——最高じゃないか。 「今度こそ、のんびり生きよう」 兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。 静かに暮らすつもりだった。 だが、彼には「構造把握」という能力があった。 物事の問題点が、図解のように見える力。 井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。 作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。 気づけば——領地が勝手に発展していた。 「俺ののんびりライフ、どこ行った……」 これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...