エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第七章 アッタリア戦

09 ヘイズ・マクシミリアン(1)

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 ヘイズ・マクシミリアンは、カダリス家の長子として生まれたが、二つ下の弟の方が魔力を持っていたために、カダリス家を継げなかった。

 自分の方が優秀であるはずなのに、ただ魔力量の差だけで家督を奪われたことに納得できず、騎士として他家に仕える事なく王都に留まっていた頃、マクシミリアン家の婿に迎えられた。

 ウエストリア領の外れにあるマクシミリアン家の領地は、豊かな農地を持つ土地で、妻となった女性は領地の管理にも明るかった。

 婚姻後、ヘイズは暫くの間、領地の管理に手を貸したが、単純な仕事では自分の能力を生かせないと、社交の時期が終わっても王都に留まるようになった。

 王都に留まるという事は、王室に治める税が増え貴族同士の付き合いも増える。
 領地で暮らすのとは、必要なエルおかねが全く違って来る。

 王都の外壁工事の税で貯えを減らし、その後、干ばつの影響を受けていたマクシミリアン家は、彼が王都に留まったことで困窮した。

 領地にいる妻から、領地に戻って欲しいと連絡があった頃、ウエストリア領に千を超えるアッタリア兵が攻めて来ると聞くことが出来た。

 自分が王都にいた事で得たこの情報を、利用しない手は無い。
 ヘイズはこれを機にアッタリアから鉄を手に入れ、自分がこのまま王都に留まる事が出来るよう、兵を集めウエストリアに行く事にした。

 アッタリア兵が襲って来ると聞いても、ヘイズにはあまり興味が無かった。

 ウエストリア領がアッタリア兵に荒らされても、自分の領地でもないのだから気にする必要もないし、例えマクシミリアン領まで敵が来ても、ほとんど暮らした事も無い土地に思い入れも無い。

 淡い金髪と茜色の瞳を持つ辺境伯の兄は、穏やかな人格者としてよく知られており、一年の多くを王都で過ごしていた。
 ウエストリアの領地を父が、王都の政治を息子が担っていたが、皇太子であったタリム王の暗殺を企んだ者達のために運悪く命を落とした。

 その後、辺境伯であった父親が亡くなり、17歳になったばかりの次男が辺境伯の地位に就いた。
 
 元々、王都の社交界に参加する事なく、辺境伯となっても政治には参加せず、兄とは違い一年の多くを領地で過ごす彼の事を、王都の貴族たちは殆ど知らなかった。

 彼が王都で知られていたのは、王都の第二層に学び舎を作り、平民に魔力操作を教えている変わり者と言われている事くらいだった。

 これまで何度もアッタリアを退けて来た彼の父親と違い、領主となったばかりの青年にアッタリア兵と戦えるはずが無い。

 その彼の領地にアッタリア兵が攻めて来る。
 王都の貴族たちが自領の守りを固めるなか、ヘイズはチャンスがやって来たと感じていた。

 アッタリアとの戦いは、危険も多いが利も多かった。
 彼らが戦いで使う武器は、鉄で出来ており、鉄を産出しないエルメニアでは高値で取引されている。

 他の貴族の領地に兵を連れて入る事は問題だが、救援のためと名目があれば許されるし、援軍として領地を守れば、若造から相応の対価を得る事も出来る。

 ヘイズは、マクシミリアン領に仕える騎士や農民を従え、ウエストリアに向けて出発した。

 数の多いアッタリア兵と戦うには、魔具が必要なのでそれらを準備し、魔力を込めた黒曜石を集めた。

 戦いの噂は既に王都に広がっていたため、魔具や黒曜石を手に入れるのに多くの費用を必要としたが、この戦いで利益を得る事ができれば、気にする必要も無いと考えていた。

 だがウエストリア領に入り、リニュスの街に着いた時、問題が起こった。

「なに? 街の中に入れないだと?」
「はい、門を警備する者がそのように申しております」

 自分の兵が答える。
 街に入る事が出来なければ、自分たちの食事や寝る場所はどうなるのかと急いで街の正門に向かう。

「おまえがここの責任者か」
「はい」

 警備の者が臆せず答える。

「良いか、我々はこの地を守るために国境に向かっているのだ。我らの兵を休ませ、歓待するのは守って貰う領民として当たり前ではないか」

「申し訳ございません。私達は、領主様から街への出入りを決して行わぬように命じられております」
「街の出入りを?」
「はい、知らせを受けてより街の住民は、街の外に出る事は許されておりませんし、ここを訪れた方を街の中に入れる事を許されておりません」

「では、我々にどうせよと言うのだ」
「外の広場に篝火を用意してあります、渡りの商人達がそちらにおりますので、かれらと交渉される事をお勧めします。今までにこちらに来られた方々にも、同じお話をさせて頂いておりますので」

 警備の者は、譲る様子を見せない。

 確かに広場に向かうと、商人たちが店を広げて待っていた。
 兵たちに食事を用意する必要があるので、仕方なく彼らと話す。

「どのくらいの食糧がある」
「ここにいる方々が、十分に食べる事ができるくらい用意できますよ」

 そう答えるので、食事を頼むと、

「銀貨百五十枚になります」
「銀貨が必要なのか?」
「私たちは商人です。商品を買うには必要でしょう?」

 商人は当たり前のことだと答えるが、ここに来るための準備で、エルは底をついていた。
 だがアッタリア兵から鉄を手に入れ、領主から謝礼を得る事が出来れば、多少の銀貨など気にする必要も無い。

「分かった、証文をだそう。王都に戻った時に支払うので取りに来い」
「すみませんが、ここは王都ではありませんので、それでは商品は渡せません」

 なんとか食糧を手に入れようとするが相手にならない。

「戦に行くのだ、銀貨を持っている訳がないだろう」
「では、お持ちの魔具と交換なら商品をお渡しします」

「魔具だと?」
「使わない魔具をお持ちではないですか? 銀貨百五十だって、随分安くしているつもりなんですよ」

 確かに急いで準備した魔具には、地や風の物があり、戦の役に立つとは思えなかった。
 魔具を渡し、食料を手に入れて先を急ぐ。

 この先でも同じよう街に入る事が出来なければ、自分で食料を用意する羽目になるのは避けたかった。
 それには少しでも早く国境付近に行かなければならない。
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