エルメニア物語 - 黄金の狼は退屈な日常を満喫する -

小豆こまめ

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第八章 その後

02 戦の後(2)

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「本当にあれでいいんですか?」
「エリスは不満そうだな」
「師匠が賠償なんて求めるはずないじゃないか」

 ウエストリアに来た貴族達がどうなろうと知った事では無いが、領主がウエストリアに賠償金を支払えば、結果的に困るのはその領民だ。

 領主に連れて来られ、怪我までした人達が、これ以上困る事を師匠がするとは思えない。

「あの人はそう言う所が、甘いからなぁ」
「あんな奴、居なくなった方が絶対領民のためになるのに」

「それを決めるのは、私達では無いさ」
「分かってるけど、腹が立つ」

「それにヘイズは、ウルフがどんな人間か知らないからな」
「どう言うこと?」
「しばらくは、賠償をどう支払うか、頭を悩ませる事になる」

「そうか」
「彼の様な人間には、一番嫌なものだよ」
「ふ~ん、いい気味だ」

「それよりエリスの怪我はもういいのか?」
「僕は大丈夫だよ、師匠に、攻撃する時はちゃんと敵と距離を取る様に言われていたから」

「あまり離れている様に見えなかったが?」
「彼らに飛び道具は無かったからね、ちゃんと剣が届かない距離を守ったさ」

 エリスが言いつけを最大限に利用して答える。
 この弟子は、本当に師匠とよく似ている。

「そうか、では私も残りの家に書状を配って来るよ、そろそろ農地に出たいとみんなも思っている頃だからな」

 ウルフレッドは、農地や畑が荒らされても、家が無くなっても、後から何とでもなるから心配するなと人を街から出さないようにしていた。

 だが街からでも荒れた家や土地を見ることが出来るので、領民達は一刻も早く戻りたいと思っているはずだった。

 第一、千人近い人間が集まっていると、煩いし、馬の餌や水を用意するだけでも大変な事になっていて、脅してでも早くいなくなって貰わなくては困る。

 怪我だとか煩く言う者達もいるが、本当に治療が必要な人は、緑樹院で預かっていて、単なる打ち身や疲労でごちゃごちゃ言われたく無い。

 ライオネルは、とりあえず金銭的な要求が一番分かり易いので、それを突き付けて王都の貴族達には帰って貰おうと考えていた。

 昨夜、あれだけ酷い目に合っていても、ヘイズの様に何かと言い訳を探す貴族が多かったが、結局、書状で賠償などを知らせると、驚いてその日のうちに帰り支度を始める。

「エリス、ダリオンにローエングルグ家の騎士達と一緒に、彼らを監視するよう頼んでくれ」
「監視?」
「ミスリルから三日で領地を出るなら、寄り道をする余裕は無いと思うけど、妙な事を考える者はいるからね」
「分かった」

 怪我か無いならエリスに動いて貰いたいが、ウルフが怪我をしている時に、彼が側を離れるとは思えない。
 自分の所でウロウロしているのも、何か用事を言いつけられて、ウルフの様子を見に行きたいだけなのだ。

「気になるなら、ウルフの様子を見に行ってもいいぞ」
「今朝、ちょっと行って来た」
「そうなのか?」

「師匠が緑の服を着た人の事を、気に入ったみたいだった」
「ウルフが?」
「うん」

「へぇ、それは珍しいな」
「うん」
「知っている人だったか?」
「見た事ない人だったよ。」

「緑樹院か、、、ハーフスコードかリステアン家の人かなぁ」
「どうして?」

「今の緑樹院の長官は、ハーフスコード家の人だしね、この二つは、癒しの使い手が多い家なんだ」
「ふ~ん」
「なんだ、気に入らないのか?」
「美人だったけど、冷たそうな人に見えたんだ」

「へぇ」
「でも師匠は、そこが可愛いって」

「本当に驚いたな、先月までウエストリアに送られた絵姿を見て、この辺りが適当だと言って、クラウスに怒られていた所だぞ?」
「あ~あぁ、師匠に奥方が出来たら、ウエストリアの屋敷にいるのは難しいかなぁ」

「奥方が出来なくても、一人前になれば独立するものだ」
「ちぇ、エルダなんか要らないのに」
「エリス、約定は必要だよ?」

「そんな物が無くても、僕は師匠の弟子だもん」
「全く、、、約定を結んでも代わり無いだろ?」

 確かにウルフレッドに仕えると言う意味では変わらないだろう。
 
 だが今のウルフレッドとエリスの関係は、親子か兄弟に限りなく近く、それが主従の形に変わってしまう事が寂しいのだろう。

「エルダ、、、やっぱり要らないなぁ」

 エルダは一人前になったと言う証の様なものだ。
 本来、自分の籍や約定、それに連なる報酬などが記載されていて、生きて行く為には無くてはならないものだ。

 だがエリスにとって大切な事は、たった一つなので、それ以外はどうでもいいと思っているのが問題だった。

 今回の事で、貴族や騎士になる事も出来るのに、それらに全く興味を持たず、どうすればウルフレッドの側にいられるかそれだけを考えている。

 人や物に執着しない所も、この師匠と弟子はとても良く似ている。
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