エルメニア物語 - 灰色の少女は南の島で恋をする -

小豆こまめ

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第3章

11 サウストリア(11)

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 まるで一枚の絵を見ているみたいだった。

 レオーナ様は、金色の髪が部屋の明かりでキラキラと輝いていてとても美しく、アレス様もいつもとは違う服装で、まるで別人のようだった。

 二人は楽しそうにベランダで話しているかと思うと、アレス様がレオーナ様を引き寄せて、唇を重ねているのが見える。

「へぇ、姉上があんな事を許すとは思わなかったな。アイツがアレスって言うのか?」
「えぇ」

「確かにいい男だな」
「えぇ」

「それに強いんだろう?」
「えぇ」

「カリーナ?」
「ダナー、恥ずかしいわ、覗き見なんて」

「ごめん、ごめん。今日は無理かな?
 叔母上達が帰って来てるみたいだ、こんなに人が集まるとは聞いて無かったよ」

 来なければ良かった。
 ダナーにアレス様を紹介して欲しいと付いて来たけれど、まさかあんなアレス様を見るとは思わなかった。

 彼は知らない大人の人で、カリーナの側にいてくれる時とは全く違う人だった。

「カリーナ、ここに座って?」

 ベランダから離れ、庭の椅子に座らされる。

「ごめんなさい、紹介できなくて」
「大丈夫だよ、姉上が良く知っているようだしね。それよりびっくりさせちゃったみたいだ」

「うん」
「ねぇ、カリーナ。僕の昔話、聞いてくれる?」
「なぁに?」

「僕が天使にあった時の話」
「天使?」

「そう、僕が9歳の頃かな。兄貴達に何しても敵わくてさ、悔しくて花畑の中を歩いていたら出会ったんだ」
「天使に?」

「そう、栗色の髪の空灰色の瞳をした女の子が花畑の中にいて、その子がじっと僕を見ていたかと思うとにっこり笑ったんだ」
「それって、、、」

「カリーナの事だよ」
「ダナーったら」

「笑ったね、カリーナ。でも本当に、その位驚いたんだよ」
「良かったわ、幽霊だって思われなくて」
「うん、あれが夜でなくて良かったと思ってる」
「もう、、、」

 ダナーはカリーナが落ち込んでいるといつも笑わせてくれる。

「ねぇ、どうして虫の抜け殻をくれたの?」
「あれが僕の宝物だったんだ」

「抜け殻が?」
「僕の持っている抜け殻の中で、あれが一番きれいだったんだよ」
「知らなかったわ」

「あの時も大変だったな、叔母上達には怒られるし、姉上には大笑いされるしさ」
「ごめんなさい」

「本当に悪いと思ってる?」
「思っているわ、でも驚いたのも本当なのよ」

「また驚かせたら、怒られるかな?」

 そう言うと、ダナーに引き寄せられ唇がふれる、今度は頬でなくカリーナの唇に。

「驚いた?」

 唇を押さえ、そのまま頭を上下に動かす。

「カリーナが好きだよ。花畑の中で、天使を見つけたと思った時からね」

 カリーナが何と答えていいか分からず困っているとダナーが続ける。

「大丈夫だよ、そんな顔しないで。カリーナが僕の事をいたずら好きの幼馴染にしか思っていない事くらい知っているからね」
「ダナー」

「だから知っていて貰おうかと思ってさ、僕がカリーナの事をどう思っているか。
 僕だって結構いい男だと思うんだよね、だからカリーナの側に置いてみてよ」

「側にいてどうするの?」
「カリーナが一番好きになった男を選べばいいよ」

「え?」
「サウストリアの女性達は、みんなそうだよ。自分を一番大切にしてくれる男を選ぶ。
 もちろん、自分が愛している男達の中からね」

「ダナー、それだと私が沢山の男の人を好きみたいに聞こえるわ」
「カリーナは、僕の事、幼馴染として好きだろう?」
「、、、えぇ」

「亡くなった母上の事、愛していただろう?」
「それは、、、もちろん」

「ほら、気にする事ないよ。色々な好きがあるし、色々な愛情もある、それらが変わることもある。
 僕の事も、幼馴染の好きから恋人の好きに変わるかもしれない」

 何だか上手く丸め込まれている気がするけど、こうした言い合いでダナーに勝てると思えない。

「でもいきなりキスするのは、やめてね?」
「あれは挨拶だよ?」

「えっ?」
「本物のキスじゃない、、、知りたい?」

「まだ知りたくないわ」
「ふ~ん、まだね」

「もう、ダナー!」
「ハハッ、知りたくなったらいつでも教えてあげるからね?」

 ダナーがふざけてウインクして見せる。
 彼と一緒にいると、嫌な事を忘れてしまう。

 アレス様達を見て、落ち込んでいた事もいつの間にか忘れてしまっている。
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