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第1章
03 園遊会(2)
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大人達は問題ない。
相変わらず、『母に似ている』、『先が楽しみ』など余り嬉しくない賛辞を贈られても、父の力を知っている人達は、私にこの様な場所でそれ以上を求めて来ないし、必要以上に近づいても来ない。
だが令嬢達は違う。
始めは見かけない相手を珍獣のように遠巻きにしても、しばらくすると、好奇心が勝って側に寄ってくる。
何人もの令嬢に囲まれれば、故意か偶然か定かではないが、ドレスの裾は踏まれて転びそうになるし、持っている扇が当たって痛い。
イレーネ様やロクサーヌ嬢の様に、はっきり敵意を向けられた方がまだすっきりする。
何時もならしっかりやり返すし、黙ってもいないが、それもここでは難しい。
今まで社交界に全く顔を見せなかったウエストリア辺境伯の娘が、わざわざこの園遊会に来た意味を推測し噂している人達に、格好の話題を提供したくはない。
自分がこの歳で社交界にデビューする事になったのは、数年前までほとんどを森で過ごしていたので、社交界に出るには礼儀作法が不足していたからで、また、この園遊会を選んだのは、手っ取り早く多くの人に自分の顔を覚えて貰うためで、特別な理由があるとは思えない。
父が一番効率の良い方法を選んだだけで、それ以外の意味を考えても仕方が無いと思うが、周りにいる貴族達は、どうやら他も意味を考えているらしい。
またその噂を聞いていると、私が予想しなかった意図を父が持っていた様子も窺え、それがあながち間違ってもいないようなので、社交界の噂話も馬鹿に出来ない。
父の意図が解った以上、ここでリディアの事を知って貰っても意味がない。
多くの憶測を含んだ噂の種になるのに疲れて園遊会から外れるように歩く、いつも側にいてくれる弟がいない事を寂しく感じるし、今日は気の合う友人もどうやら出席していない。
アルフレッドの言う通り、来年一緒に来ても良かったのではないかと考えながら庭園を歩いていると、大きな音が聞こえる。
弟より少し幼いくらいの男の子が転んだのか、膝から血を流しているのが目に入る。
「どうしたの?」
「何でもありません。ちょっと転んでしまっただけで、、、」
「随分思いっきり転んだのね、膝が大変な事になっているわ。ちょっとこっちに来てちょうだい」
黒っぽい髪を後ろで結んでいるのを見ると、獣人族の子どもだろう。
「いえ、大丈夫です」
どこかに行こうとするので、弟にするように手を握って連れて行くと、近くの噴水の淵に座らせる。
服の汚れを払い、噴水の水で膝を洗い、持っていたハンカチを膝に巻こうとすると驚いて答える。
「大丈夫です。とっても綺麗なハンカチなのに、、、そんな事をしたら汚れてしまいます」
「大丈夫よ、これはね、いくら綺麗でも使うためにあるのよ。ほらこれでいいわ、ね?」
「すみません、こんな事」
「なぜ?」
「僕は、半人だから、、、本当はこんな所に来てはいけないのに」
リディアの方を見る事なく、ずっと下を向いて話している。
懐かしい。
下を向いている様子は、拗ねている弟にそっくりだし、ふわふわとした黒髪は、なじみのある色だ。
弟にする様にキュッと耳を引っ張る。
「イタッ」
「はじめまして、私はリディアよ」
びっくりして顔を上にあげるので、そう言って右手を差し出す。
「えっと、僕はフェイです」
しばらく戸惑うようにしていたが、差し出された手を無視できず、名前を教えてくれるので、彼の右手を握り返す。
「これでフェイは私のお友達だわ、よろしくね」
「友達だなんて、ダメです、そんな事を言っては」
「なぜ? フェイは、私の事が嫌い? 友達になるのはダメなのかしら?」
「いえ、そうではなく」
「嫌ではない?」
「嫌だなんて」
「良かった。王都には初めて来たの、弟もお友達もいなくて、、、とっても寂しかったの」
「弟?」
「ええ、フェイより少し年上かしら? ちょっと思い出すわ」
そう言って柔らかい黒髪を撫ぜていると、咎めるような声が聞こえる。
「何をしている!」
振りかえると先程紹介された菫色の瞳が、怒った様に自分を睨んでいる。
”獣人には独特のルールがある” そうフランツにも言われていた事を思い出す。
「申し訳ありません、殿下。たいした事ではないのです、少し怪我をされたみたいだったので、、、失礼を致しました」
「いや、咎めた訳では、、、すまない。その、怖がらせてしまっただろうか?」
リディアが声に驚いて恐縮してしまった為か、大きな体をかがめて困っている様子を見ると、なんだか可笑しくなってしまう。
「いいえ」
リディアが答えると安心したような顔をする。
そのまま安心してしばらく話していると、また菫色の瞳が曇って見えるので、理由をつけてここを離れる。
フェイとはもう少し話して居たかったけれど、彼が側にいてはそれも難しい。
何を考えているか分かりづらい貴族たちに比べると、気持ちが良く見えて自分には付き合いやすいが、どうやら私は嫌われているらしい。
人族のためか、私自身のせいか。
出来れば私自身で無い事が望ましいけれど、獣人族の事は良く分からない。
「社交界への顔見せの日に、どうしてこうなるのかしら?」
既に自分を嫌っている人がいると言うのに、出来ればこれ以上嫌われたくはない。
リディアとしては、このまま園遊会が何事もなく終わる事を願うしかない。
相変わらず、『母に似ている』、『先が楽しみ』など余り嬉しくない賛辞を贈られても、父の力を知っている人達は、私にこの様な場所でそれ以上を求めて来ないし、必要以上に近づいても来ない。
だが令嬢達は違う。
始めは見かけない相手を珍獣のように遠巻きにしても、しばらくすると、好奇心が勝って側に寄ってくる。
何人もの令嬢に囲まれれば、故意か偶然か定かではないが、ドレスの裾は踏まれて転びそうになるし、持っている扇が当たって痛い。
イレーネ様やロクサーヌ嬢の様に、はっきり敵意を向けられた方がまだすっきりする。
何時もならしっかりやり返すし、黙ってもいないが、それもここでは難しい。
今まで社交界に全く顔を見せなかったウエストリア辺境伯の娘が、わざわざこの園遊会に来た意味を推測し噂している人達に、格好の話題を提供したくはない。
自分がこの歳で社交界にデビューする事になったのは、数年前までほとんどを森で過ごしていたので、社交界に出るには礼儀作法が不足していたからで、また、この園遊会を選んだのは、手っ取り早く多くの人に自分の顔を覚えて貰うためで、特別な理由があるとは思えない。
父が一番効率の良い方法を選んだだけで、それ以外の意味を考えても仕方が無いと思うが、周りにいる貴族達は、どうやら他も意味を考えているらしい。
またその噂を聞いていると、私が予想しなかった意図を父が持っていた様子も窺え、それがあながち間違ってもいないようなので、社交界の噂話も馬鹿に出来ない。
父の意図が解った以上、ここでリディアの事を知って貰っても意味がない。
多くの憶測を含んだ噂の種になるのに疲れて園遊会から外れるように歩く、いつも側にいてくれる弟がいない事を寂しく感じるし、今日は気の合う友人もどうやら出席していない。
アルフレッドの言う通り、来年一緒に来ても良かったのではないかと考えながら庭園を歩いていると、大きな音が聞こえる。
弟より少し幼いくらいの男の子が転んだのか、膝から血を流しているのが目に入る。
「どうしたの?」
「何でもありません。ちょっと転んでしまっただけで、、、」
「随分思いっきり転んだのね、膝が大変な事になっているわ。ちょっとこっちに来てちょうだい」
黒っぽい髪を後ろで結んでいるのを見ると、獣人族の子どもだろう。
「いえ、大丈夫です」
どこかに行こうとするので、弟にするように手を握って連れて行くと、近くの噴水の淵に座らせる。
服の汚れを払い、噴水の水で膝を洗い、持っていたハンカチを膝に巻こうとすると驚いて答える。
「大丈夫です。とっても綺麗なハンカチなのに、、、そんな事をしたら汚れてしまいます」
「大丈夫よ、これはね、いくら綺麗でも使うためにあるのよ。ほらこれでいいわ、ね?」
「すみません、こんな事」
「なぜ?」
「僕は、半人だから、、、本当はこんな所に来てはいけないのに」
リディアの方を見る事なく、ずっと下を向いて話している。
懐かしい。
下を向いている様子は、拗ねている弟にそっくりだし、ふわふわとした黒髪は、なじみのある色だ。
弟にする様にキュッと耳を引っ張る。
「イタッ」
「はじめまして、私はリディアよ」
びっくりして顔を上にあげるので、そう言って右手を差し出す。
「えっと、僕はフェイです」
しばらく戸惑うようにしていたが、差し出された手を無視できず、名前を教えてくれるので、彼の右手を握り返す。
「これでフェイは私のお友達だわ、よろしくね」
「友達だなんて、ダメです、そんな事を言っては」
「なぜ? フェイは、私の事が嫌い? 友達になるのはダメなのかしら?」
「いえ、そうではなく」
「嫌ではない?」
「嫌だなんて」
「良かった。王都には初めて来たの、弟もお友達もいなくて、、、とっても寂しかったの」
「弟?」
「ええ、フェイより少し年上かしら? ちょっと思い出すわ」
そう言って柔らかい黒髪を撫ぜていると、咎めるような声が聞こえる。
「何をしている!」
振りかえると先程紹介された菫色の瞳が、怒った様に自分を睨んでいる。
”獣人には独特のルールがある” そうフランツにも言われていた事を思い出す。
「申し訳ありません、殿下。たいした事ではないのです、少し怪我をされたみたいだったので、、、失礼を致しました」
「いや、咎めた訳では、、、すまない。その、怖がらせてしまっただろうか?」
リディアが声に驚いて恐縮してしまった為か、大きな体をかがめて困っている様子を見ると、なんだか可笑しくなってしまう。
「いいえ」
リディアが答えると安心したような顔をする。
そのまま安心してしばらく話していると、また菫色の瞳が曇って見えるので、理由をつけてここを離れる。
フェイとはもう少し話して居たかったけれど、彼が側にいてはそれも難しい。
何を考えているか分かりづらい貴族たちに比べると、気持ちが良く見えて自分には付き合いやすいが、どうやら私は嫌われているらしい。
人族のためか、私自身のせいか。
出来れば私自身で無い事が望ましいけれど、獣人族の事は良く分からない。
「社交界への顔見せの日に、どうしてこうなるのかしら?」
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