エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第2章

02 舞踏会(1)

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 初めての舞踏会は想像していた以上だった。
 高い天井はキラキラと輝き、そこに集う美しく装った人たちには圧倒された。

 社交界の初日、王宮で開催される舞踏会は、今日行われた第一王子の婚約発表を祝う為のものでもあり、贅沢なものだった。

「よかったわ、アルも一緒にいてくれて」
「僕も姉さまと一緒に来ることが出来て嬉しいよ」

 隣でエスコートしてくれる弟に話しかけると、アルフレッドも気を使ってくれる。

 会場を奥に進むと、貴族達の中に見知った顔を見付けてそちらに向かう、アルフレッドの友人もいるので、彼もここにいれば安心だろう。
 弟を残して父に連れられ宴の中心へ、王室の方々へ挨拶に行く。

 タリム国王が舞踏会の開催を宣言し、今日、婚約が発表された者のダンスが始まるので、カシム王子に連れられ円の中心に進み、ワルツを踊る事になる。

「なんだ、緊張でもしているのか?」
「当たり前です。こんなに多くの人の前で踊った事などないのですから」

「顔が怖いぞ」
「少し我慢して下さい」
「驚いたな、もっと足を踏まれるかと思った」

 相変わらず意地悪な事を言ってくるが、足を踏まれなくて良かったと驚いている。

「この冬、フランツの足を随分踏みましたから」
「練習したのか?」
「それはもう」
「辺境伯令嬢も大変だな。」

 カシム王子に取り繕っても仕方ないので言い返していると、彼が聞き返す。

「、、、フランツって誰だ。」
「え?」

「そのワルツの練習相手だよ。ずっとそいつと踊っていたのか?」
「彼は我が家の執事です。執事であり、父の秘書であり、私や弟の教育係でもある大切な人ですわ。
 とにかく何でも出来る我が家にとって居なくてはならない人です」

「私の足が無事なのは、その彼のおかげと言う訳か」
「そうですわね」
「では、礼を言わなくてはいけないな。一曲目でリディアに攻撃されていたら、残り二曲が大変だった」
「ふふっ、では私から王子が感謝していたと伝えておきますね」

 そう話した所で曲が終わる。

 カシム王子は他の婚約者たちと踊るが、私のワルツはこれで終了だ。
 婚約が発表された日は、婚約者としか踊らない。
 親族と踊る事はあるが、それもしばらくは遠慮したい。

 円の中心から外れてアルフレッドと別れた方に戻って行くと、向こうから両手にグラスを持った弟が近づいてきて、グラスの片方を渡してくれる。

「おかえり」
「ありがとう。緊張したわ、とっても疲れた」
「朝からほとんど食べてないでしょ? こっちにノエル達がいるから」

 そのままバルコニーの方に連れていってくれる。
 バルコニーにでると、小さなテーブルにちょっとしたお菓子を用意して友人たちが待っている。

「ノエル、カーラ、来ていたのね」
「リディア、素敵だったわよ」

「ありがとう、カーラ。お世辞でも嬉しいわ、でももう充分。これを続けたいと思っている人は、それだけで尊敬できるわ」
「今日は特別だよ。いつもはもう少しマシさ」

 一つ年上のノエルが答える。

 美しい黒髪、赤茶色の瞳、双子にも見える二人は異母兄妹だ。
 母親が姉妹という二人は、とっても似ているし、母親たち同様とっても仲が良い。

「仲良く踊っているように見えたわよ。嫌われているって言っていたでしょ?」
「足を攻撃されなかった事に感謝しているって、フランツにお礼を伝えて欲しいって言われたわ」

「練習のかいがあったわね」
「そうなのかしら? 一応、友好的な関係にはなりたいわね」

 気のおけない友人たちと舞踏会の中心から外れて内輪で楽しむ。

「おやおや、こんな所で何を楽しんでいるのかな?」

 役目は終わったとばかりにホールに戻ってこない娘に呆れて、お父様が呼びに来る。

「リディア、アルフレッドと踊っておいで、君たちもね、今日は客人も多い、顔を覚えて貰う事も必要だ」

 ノエル達もうながされてホールに戻る。

「ごめんなさい」
「どうしたの?」

「今日はアルのデビューの日でもあったのに、なさけない姉ね」
「気にしないで、姉さま。僕も緊張していたし、踊りたくなかったから、でも姉さまと踊れるのは嬉しいよ」

 この弟は、相変わらず優しい。

 アルフレッドと踊るのは楽しい。
 近くにはノエルとカーラの二人もいて、安心して踊る事ができる。

 曲が終わる頃、お父様とパートナーを交代してまた踊り続ける。
 これで私と踊っていたのが、ウエストリア伯の跡継ぎであることが多くの人に認識されるだろう。
 弟の出生について心無い噂があるのは知っているが、これ程似た容姿を見れば疑いようも無い。

 面倒な婚約者の役も少しは役に立つものだわと納得し、おそらくそれも父の思惑通りなのだろうと思うと、足の一つもちょっと踏みたくなる。


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