エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第2章

05 舞踏会(4)

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「何の話をしていたんだ」
「どなたの事ですか?」

「名前は忘れたが、確かセリーヌ后妃の弟だろう」
「アレス様の事ですか?」
「そうだ」

「フレの糸について教えて欲しいと」
「フレ? ウエストリアの刺繍糸か」
「はい」

「なぜ彼が刺繍糸の事を知りたがる」
「私も詳しくは存じませんがませんが、聞きたい事があると言っておられました」

「お前にか」
「父に話すほどの事では無いと」

「お前が相手をするのか」
「そうですね、出来ればそうしたいと思っています」

「えらく忙しいのだな」
「カシム様もお暇では無いでしょう?」

 王室の王子であれば、学ばなくてはならない事も多い。

「お前が王宮に来れば、弟に相手を紹介する事も出来るぞ、決めて置かないと困った相手に捕まってしまう事になる」

 カシム王子が、ドルイド伯の娘とアルフレッドが話をしている方を目線で教えてくれる。

「まぁ」

 公爵夫人と離れた弟は、どうやらもう一人のフレリアに捕まっている。

「彼女が良いなら、すぐ婚約出来るぞ」
「アルフレッドはダメです」

「何故だ、決まった相手でも居るのか?」
「決まっている訳ではありませんが、、、いずれ決まります」

 一人の少女の顔が目に浮かぶ、エリスおじ様でも無理だったのだから、申し訳ないが弟が妹の様に可愛がっている少女から、逃げられるとは思えない。

「なんだ、似合いに見えるけどな」

 全くなんて事を言っているのかしら。

「カシム様、余計な事をなさらないで下さいね」
「余計な事とはなんだ」
「弟の事です。もしドルイド伯爵との話が出てきたりしたら、私が彼女と入れ替わりますよ」

「そんな事、出来るわけ無いだろう」
「あら、確かめてみますか?」 
「わかった、わかった。絶対そんな事はしない、怖い事を言うな」

 カシム王子との話は冗談で終わっても、ドルイド伯爵の娘に捕まっている弟の事は気になる。

 伯爵は居ないようだが、公爵夫人や父が助け船を出すとも思えない。
 もちろん、ダンスを踊っている自分にもどうしようも無い。

 困った事、と思っていると、弟に話しかけるザィード様と、獣人に驚いて離れていく娘の姿が見える。
 どうやら彼が弟を助けてくれたみたい。

「知り合いが多いな」

 同じ方を見ていたダンスの相手が、訳の分からない事を言う。

「そうでしょうか?」

 知り合いと言われればそうだが、ザィード様の事も、アレス様の事も良く知っている訳では無い。

 一人はウエストリアに興味を持った人で、もう一人は、ウエストリアとの商売に興味を持った人だ。

 おまけにアレス様には、数日前に助けて貰っているので、頼まれれば答えるくらいの事はするし、アレス様には逆に聞いてみたい事もある。

 王都で出来た知り合いが、獣人の方とロクデナシなどと呼ばれる人と言うのも面白いが、王子の婚約者などになったのだから仕方ない。

 王宮に来ればロクサーヌ様やセリーヌ后妃様が居るし、そう気軽に他の貴族と付き合う事も難しい。
 王室と繋がりが欲しいと考えている人達と、いずれその立場を離れる自分が、よい友人になれるとは思えない。

 そう言った面倒を考えると、ついついウエストリア邸で、領地の事に時間を費やす。
 その方が楽しいし、ここには王立図書館と言う素晴らしい物があるのだから時間が余る事はない。

 ダンスを終え、始終不機嫌な王子と別れて弟の所に向かう。
 嬉しそうに弟は迎えてくれるし、ノエルやカーラも笑っていて、やっと肩の力が抜けた気がする。

 出来れば彼らと同じように友人関係を築きたいが、リディアといると必ず不機嫌になる王子とはどうも相性が悪いらしい。

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