エルメニア物語 - 辺境の令嬢は大きな獣に愛される -

小豆こまめ

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第2章

06 ウエストリア邸で

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 数日後、アレス様からウエストリア邸に伺いたいと知らせがはいる。

 フレの糸が映えるように、テラスにテーブルを置き、色とりどりのフレの糸とそれらで作られた飾り帯や組紐、フレで刺繍をした布地をいくつか用意する。

「これは見事だ」

 テーブルの上の布地を手に取って驚いていたアレス様が尋ねる。

「フレの糸で、布を織る事が出来ると聞いた事があるのですが」
「ええ、もちろん。布を織る事は出来ますわ、只、今では殆ど作られてはいませんけれど」

「難しい事なのですか?」
「フレの糸は、美しいですが強い物ではありません。
 その糸で織られた織物も、父がフレを刺繍糸に使う事にしたのはそれが理由ですから」

「なるほど、、、、、、一度、織った物を見てみたいな、お願いすることは出来ますか?」
「えぇ、もちろん」

 アレス様が、布地や刺繍糸を見比べては眉間にしわを寄せている。
 周りの事など忘れて、何か考えている証拠で、父も時々同じような顔をする。

 彼にマテの紅茶について相談してみてもいいかしら?

 そんな事を考えていると、アルフレッドがそのお茶を持って来てくれる。

「姉さま。 お仕事の話は、終わった?」
「ありがとう、アル。 貴方も座ってね」

 アレス様の方も考えがまとまったようなので、席に着くように勧め、“マテの白茶”を飲んで貰う。

「美味しいですね、噂は聞いていましたが始めて飲みました」
「ありがとうございます。実は、アウスレーゼ公爵夫人のおかげなの」

 マテの白茶は、公爵夫人のお茶会で使って貰える様になったので、思ったより早く貴族の間に広がっている。
 だが元々量の少ない“白茶”が売れても、ウエストリアにそれほど利益をもたらすものでは無い。

「実は、アレス様に本当に飲んで頂きたいのはこちらなの」

 そう言って、もう一つのポットから注いだティーカップを彼の前に置く。

 マテの紅茶だった。
 同じように甘い香りのするお茶だが、これは飲んでも甘い。

「これは?」
「マテの葉で作った紅茶です」

「これをエルメニアで扱うのは難しいでしょうね」
「ええ、私もそう思っています」

 エルメニアでは甘い飲み物を余り飲まない。
 甘い物を食べないのではなく、甘い飲み物は、子ども用と言う感覚があるが、子どもが飲むには、紅茶の苦味が残っている。

「なぜ私に?」
「フレの布は、ミリオネアでの売買を考えておられるのでは無いかと思ったので」
「確かにそうですが、よく分かりますね」
「私の考えではありません。父の友人が以前、そんな話をしていた事を覚えていただけですから」

「その時は何故?」
「父がまだ早いと、糸のイメージを先に確立しなくてはと言っていました」

 森人が使っていたフレの糸を、染色し刺繍糸として使い始めたのは父だった。
 軽く透き通るような糸で刺繍された布地は、身に付けても今までの物よりずっと軽く美しく、高級なものとして、今ではエルメニアの貴族達に広がっている。

「確かに私はミリオネアでの商売を主に行っていますが、暑い国なので紅茶も冷たい方がいいな」
「そうですか、、、、、、冷たくすると紅茶は色があまり綺麗ではありませんものね」

 紅茶は、氷を使って冷たくすると濁ってしまう。
 それでは飲み物として好まれないだろうと残念に思っていると、

「あぁ、それなら」

 とアレス様が沢山の氷を使って冷たい紅茶を作ってみせる。

「まぁ、綺麗」

 エルメニアでは冷たい飲み物も余り飲まない。
 サウストリア地方では飲まれる所もあるが、今の王都で、わざわざ冷たい物を飲む必要はない。

 冷たくなると甘さもあまり感じなくなり、もう少し暖かくなればエルメニアでも受け入れられそうな気がするが、逆にミリオネアではもっと甘い方がいいと教えてくれる。

 アレス様が何度も冷たい紅茶を飲んでは、感じたことや思いついた事を話してくれる。
 いずれ自分の商売になると言う思いがあっても、これがこの人の性格なのだと思うと好ましい。

「ありがとうございます。 アレス様にお願いして本当に良かったです」

 お礼を伝えると、すっと手を取られ指先に唇を落としたかと思うと、片目をつぶりながら笑って答える。

「お役に立てて、光栄です」

 おまけに茶目っ気もある人みたい。

 余り時間を取らせるわけにもいかないので、王都にあるフレの工房にいつでも自由に入れる事を伝えておく。
 そこに彼が来れば私にも伝わるし、数日あれば、フレの布も織ることが出来るだろう。
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